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魔獣、往くべし 作者:イシバシヨシウミ

第一章 龍の目覚め

けたたましく、スマートフォンのアラームが鳴っている。
目覚ましである。

八坂龍一は、秋口の涼しい空気に触れる事を厭い、布団を身体の方に巻き込んだ。
全身を包むのは、引き千切ってしまいたい位の、“寝疲れ”である。本当ならば、身体を思い切り伸ばして、腱がぷつんと音を立てる程の開放感を味わいたい。
しかし、それをやってしまうと、布団から出ざるを得なくなり、この温もりを手放してしまう。

恰も、羊水の中に浮かぶ胎児のように身体を丸めて、龍一は布団にくるまっていた。

「すぅ……」

と、細い息が、龍一の唇から漏れる。

その耳が、敗色濃厚な睡魔との戦いの中で捉えたのは、ドアの外の廊下を、ぱたぱたと走る音であった。
それが何かを察する前に、

ばたん

と、ドアが勢い良く開いたのである。

「リュウ!」

甲高い声が、自分の名を呼ぶ。

八坂龍一だから“リュウ”。
安直なあだ名であった。

そうやって呼ぶのは、龍一の記憶にある中では、彼女位のものであった。

「ほぅら、起きなさい!」

布団を引き剥がして来る。

――寒……。

布団を追って伸ばした手首を、彼女に掴まれた。
龍一よりも細い手には、彼よりも強い力が込められており、龍一の抵抗空しく少年の身体は引き上げられた。

「起きた?」

と、聞いて来るのは、黒髪の美少女である。

ぱっちりと開いた眼。
桜色の唇。
見慣れた顔だった。

ブレザーの胸元が盛り上がっている。
スカートから覗く太腿が、むちっとしていた。

香崎(こうさき)涼子(りょうこ)――

そういう名前であった。
龍一の、幼馴染みだ。

龍一を学校に行こうと誘いに来た所、彼の母親に言われて、起こしに来てくれたらしい。

寒気で以て睡魔を強制的に払われた龍一は、今度は、背筋を勢い良く上って来る熱に襲われる事になった。

むりむりと、下着とパジャマのズボンが押し上げられて来るのである。

「起きました!」

それを誤魔化すように、大きめの声で答えた。
少女のような声である。

股間で鎌首をもたげた雄性を想像出来ない、端麗な顔立ちの少年である。
前髪が眼に掛かる程長い。
愛玩動物のような、人懐っこい顔をしている。
全体的に色白で、細身であった。肉の量であれば、欲望を掻き立てる彼女よりも、龍一の方が少ない。

「良し」

と、龍一を起こしに来た少女が、満足げに頷いた。
そうして、踵を返して、

「起きたら、顔を洗う」
「はい」
「着替える」
「はい」
「ご飯を食べる」
「はい」
「――の、前に」
「はい?」
「――」

少女は、躊躇いがちに、それを口に出した。

「……仕舞う、それを」
「……あ」

誤魔化し切れなかったようである。
少年の股間に膨らむ蛇の事であった。
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