「千里の道もひと足ずつはこぶなり」
これは、我が家の日めくりカレンダーに書かれていた、今日の言葉。
(ちなみに、言葉の主は宮本武蔵!)
一体いつ頃から、カレンダーにはこんな格言や名言が書かれているんだろう?
いま読んでいる『フランクリン自伝』によれば、少なくとも 280年前にはこうした教訓入りカレンダーが存在しており、街なかで売られていたことが分かる。
- 作者: フランクリン,松本慎一,西川正身
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1957/01/07
- メディア: 文庫
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ベンジャミン・フランクリン氏といえば、アメリカ独立宣言の起草に関わったり、雷が電気であることを発見したりとマルチな才能を発揮した人だが、もともとは植字工から身を立て、印刷業を起こした人でもある。(十三徳という習慣化のすぐれたメソッドも発明・実践した人だが、それは後述)
貧しきリチャードの暦
「貧しきリチャードの暦」(Poor Richard's Almanack)は、そんなフランクリン氏がリチャード・ソーンダーズという名前で 1732年から25年間発行していた生活暦のこと。
"Poor Richard Almanack 1739". Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons.
中には数々の言葉が散りばめられていたらしい。
私はこれを面白くもあり、為にもあるものにしようと苦心したので、おかげで非常に売行がよく、年々1万部近くも売れ、利益もずいぶん上った。(略)私は暦は他の本など買わない一般市民の間に教訓を伝える恰好の手段になると思った。そこで暦の中の特殊の日と日との間にできるわずかばかりの余白をすっかり諺風の文句で埋めた。(p.156)
富に至る道
1757年には、発行してきた暦から集めた諺を、賢い老人が演説のなかで紹介するストーリーに仕立て上げ、翌年の「貧しきリチャードの暦」の巻頭に載せた。それが「富に至る道」と呼ばれる文章である。
この文章は、岩波文庫『フランクリン自伝』に付録として収録されているのだが、読み物としてすこぶる面白い。前段の解説にひきつづいて、老人の演説はこんな風に始まる…。
「わたしの知恵を借りたいとおっしゃるのでしたら、よろしい、簡単明瞭なところをお聞かせしましょう。『賢者には一言にして足る』、また、『言葉多くしても桝目にならず』ですからな、貧しいリチャードの言葉を借りて申せば」
こんな調子で「貧しきリチャードの言葉」がどんどん引用されていきながらストーリーは進む。
読みながら「リチャードの言葉、多いなぁ」「いくつ引用されているだろう?」と気になったので数えてみた。
なんと、103個もあるではないか!?
(勢いで抜き書きしちゃったので、リストを本エントリの末尾に掲載しておきます 笑)
(お知らせ)第39回人間塾in東京『フランクリン自伝』に学ぶ読書会
ここで、関連するお知らせを…。
『フランクリン自伝』を課題図書にした読書会が、4月25日(土) に都内で開催される。
主催は、一般社団法人 人間塾。東洋哲学や西洋心理学など「生き方」に関する書籍を課題図書とした読書会を月1で開催しており、僕は3年前からこの読書会に参加している。もちろん、フランクリン自伝がテーマとなる今回も参加予定。
【人間塾in東京 開催情報】第39回「人間塾」in東京は4月25(土)開催です。課題本は『フランクリン自伝』(岩波文庫)です。以下のURLよりお申込みください。http://kokucheese.com/event/index/278411/課題本の購入はこちらからどうぞ。http://osu.pw/ehef
Posted by 一般社団法人人間塾 on 2015年3月29日
読書会では、グループ討議の時間があり、4,5人のグループで気づきや感想を話し合う。
フランクリン氏の生き方や、「フランクリンの十三徳」(毎週、一週間を徳目の一つに捧げて、年に4回この過程を繰り返す)などに加えて、この富に至る道についても話したいな、と。
興味が湧いた方、詳細・お申込みはこちらへ。
→4月25日 第39回人間塾in東京『フランクリン自伝』に学ぶ読書会(東京都)
(4月22日 正午が申し込み締め切りです)
「富に至る道」で引用される諺・教訓
「富に至る道」から、リチャードの言葉として紹介されている諺・教訓などの名言が103個あった。
(番号は本ブログ用に振ったもの。※印はリチャードではなく「ディックの言葉」と紹介されている)
せっかくなので、以下に抜書きしたものをシェア。
- 賢者には一言にして足る
- 言葉多くしても桝目にならず
- 神は自ら助くるものを助く
- ものぐさは、錆と同じで、労働よりもかえって消耗を早める。一方、使っている鍵は、いつも光っている
- 人生を大切に思うと言われるのか。それならば、時間をむだ使いなさらぬがよろしい。時間こそ、人生を形作る材料なのだから
- 眠っている狐には、鶏は一羽もつかまらぬ
- 寝たいなら、墓場に入ってからで少しもおそくはない
- 時間の浪費こそ、一番の贅沢
- 時間の失せ物は、間違っても見つかることなし
- いつもきまって時間の不足におわる
- ものぐさは万事を難くし、勤勉は万事を容易にす
- 朝寝する者、一日じゅう駆け足、夜になっても仕事に追いつかぬ
- 怠け者の足ののろいきよ、貧乏がすぐに追いつく
- 仕事を追い立てよ、仕事に追い立てられるな
- 早寝早起き、健康のもと、
財産を殖やし、知恵を増す - 勤勉な者は願をかけるに及ばず
- 希望に生きる者は空腹に死す
- 骨折りなきところに利得なし
- 土地を持たぬとあらば、おのが手足に助けを借りよ
- 商売を持つ者は財産を持つ
- 職業を持つ者は有利で名誉ある官職を持つ
- 働き者の家には、飢えがのぞきこむことはあっても、あえて入り込むことはけっしてない
- 勤勉は借金を支払い、自業自得は借金を殖やす
- 勤勉は好運の母
- 勤勉な者には、神、何物をも惜しみ給わず
- 怠け者が寝ている間に深く耕せ、
売ったその上に、手もとにおく余分の取り入れが得られよう - 今日の一日は明日の二日に値す
- 明日なすべき事あらば、今日のうちにせよ
- 怠けているところを自分自身に見つけられるのを恥じよ
- 太陽に見下ろされて、『恥知らず、ここに横たわる』と言われるな
- 猫に手袋、鼠はとれず
- 点滴石をうがつ
- 勤勉と忍耐、ついに鼠、錨づなを食い切る
- 小さな一撃でも、たび重なれば、大木をも倒す
- 暇がほしくば、時間を上手に使って作れ
- 一分という時間さえ容易に得られぬ以上、一時間もの時間をむだに使うな
- 閑暇の生活と怠惰の生活とは、まったくの別物
- 難儀は怠惰から生まれ、大きな労苦は無用の安逸から生まれる
- 骨折り仕事は何一つせず、小才を働かせるだけで暮らして行こうとする者がたくさんいるが、そうした人たちは、資本がなくなり、破産は必定
- 快楽は、逃げればかえっておいかけてくる
- 勤勉な紡ぎ手には、着がえの着物がたくさんできる
- 羊と牛が、一頭ずつ自分のものになった今では、
誰もかれもが、おはようと朝の挨拶をしてくれる - 何度も移しかえられる木で、
何度も引越しを繰り返す家で、
動かぬ場合ほど栄えたためしは一度もない - 引越し三度は丸焼け同然
- 店を守れ。さすれば、店、汝を守らん
- 仕事をやり了(おお)せたくば、自ら行け。やり了せたくなくば、人に行かせよ
- 畑仕事で身代起こしたく思わば、
鋤にせよ鍬にせよ、自ら使え - 主人の目は、その両手にもまして多くの仕事をやってのける
- 人を使っていながら監督を怠るのは、財布の口を開けたままその前においておくようなもの
- 俗事に関する限り、人が救われるのは、他人を信頼しないことによってであり、神を信仰することによってではない
- 力は勇気ある者に
- 至上の幸福は有徳の士に
- 学問は勉強家に、冨は用心深い者に
- 忠実で、しかも自分の気に入るような召使いがほしくば、自ら自身の召使いになれ
- わずかな怠りでも、大きな災いを招きかねない
- 釘が一本ぬけて蹄鉄がとれ、蹄鉄がとれて馬が倒れ、馬が倒れて乗っていた者が命を落とした
- 一生涯、いくら汗水流して働いても、いよいよ死んだ時には、一文の金も残るまい
- 台所が肥えれば、遺言者は痩せる
- せっかくできかけてきたのに、身上をつぶす者が少なくない、
茶に目のない女、紡ぎや編み物の仕事を怠り、
ポンスに目のない男、木を切り、木を割る仕事を怠る - 稼ぐだけでなく、残ることを考えよ。西インドを手に入れながら、スペインはついに富める国になれずにおわった。入ることよりも、出るほうが多かったから
- 酒に女、賭博にぺてん
- 財産痩せて、欲だけつのる ※
- 道楽一つの金で、子供二人が育つ
- 塵もつもれば山となる
- わずかな出銭に気をつけよ。小さな漏れ口が大きな船を沈める
- 美食家の末は乞食
- うまい物、作る阿呆に食べる利口者
- 買う必要もないものを買ったら最後、やがてそのうちに、なくてはならぬものまで売り払わねばならぬことになる。
- 安いものにはへたに手を出すな
- 得な買物をして、身上をつぶした者が多い
- 金を出して後悔を買う愚か者
- 賢い者は他人の災いで悟り、愚かな者は自らの災いによっても目がさめぬ
- Felix quem faciunt aliena pericula cautum(他人の危険によって思慮深くなる者は幸いなり)
- 絹としゃす、もみとビロード、台所の火を絶やす
- 本当の貧乏人一人にたいして、贅沢な貧乏人が百人 ※
- 自分の足で立っている農夫のほうが、跪いている紳士よりも背が高い
- 二十シリングの金と二十年の歳月は、いくら使っても、使い切るということがない、と考えるのは、子供と愚か者だけ
- いつも取り出すばかりで、補うことをしなければ、
- 井戸かれて水の貴きを知る
- 金銭の尊さを知りたくば、行きて金を借りてみよ
- 金を借りに行く者は、悲しみを借りに行く
- 愚かしい着道楽、大きな身の災い、
道楽心と相談する前に懐と相談せよ ※ - 虚栄心は、貧乏と同じく、乞食のごとく求めてやまず、しかも厚かましさの点では、貧乏のはるか上を行く ※
- 最初のほしい気持を抑えるほうが、あとから次々に起こってくるほしい気持を全部満足させるよりも易しい ※
- 大きな身代なら、新しい冒険に乗り出すもよし、
小さな船なら、岸の近くを離れぬこと - 昼飯の見栄、夕飯の侮り
- 朝飯のおごり、昼食の貧乏、夕食の零落
- 蝶とは何か。つまるところが、
着飾った毛虫というだけのこと、
まことの姿は鼻幅をまとった洒落男 - 借金は嘘の始まり
- 借金の馬に嘘が乗る
- 空の袋は真っ直ぐには立ちにくい
- 貸し主は、借り主よりも物覚えがいい
- 貸し主なる連中は、御幣かつぎが大好きで、きまった期日や期限のことをえらくやかましく言う
- 復活祭に支払わねばならぬ借金を背負っている者には、四旬節もたちまちのうちに過ぎて行く
- 借り手は貸し主の奴隷、債権者は債務者の主人
- できるあいだに老後と不時にそなえよ、
朝日は一日じゅう照っているわけでなし - かまど二つを築くは易く、かまど一つに火を絶やさぬは難し
- 明日、借金を背負って起きるより、今夜の食事を抜きにして床につけ
- 得られるものは得よ、得たものは手放すな。
これぞ鉛を黄金に変え得る石 - 経験の経営する学校は月謝が高い。だが、愚か者はそれ以外の学校へは上がろうとしない。おまけに、上がっても、ろくなことは覚えない
- 忠告は与えることはできても、処世の術は与えることはできない
- 助言を容れざる者は度しがたし
- 道理に耳を傾けざる者は、かならずや手きびしき仕返しをうけん
個人的には、時間に関する5番、12番、35番、仕事に関する14番、29番、46番、金に関する65番、71番、自立に関する76番あたりがグサグサっときた。
なお、この「富に至る道」は、ただの教訓の総集編ではなく、それ自体が一つの教訓となるようなオチ(?)も用意されている。
老人の演説が終わったあとの描写として、こんな風に書かれているのだ。
こう言って老紳士は、その長い演説をおえました。聞いていた人々は、まったくその教え通りであることを認めました。ところがどうでしょう、話がおわったとたん、まるでそれがありふれた説教でもあったかのように、老人の教えとは正反対の行為に出たではありませんか。ちょうど競売が始まり、それと知ると、人々は、老人の戒めも税金の心配も何も彼も打ち忘れて、めいめい途方もないむだ金を使い始めたのです。
一方、こんなネタばらしも…。
老人は、貧しいリチャードの教訓と申しましたが、実を言いますと、私自身が考え出したのはその十分の一もなく、他はすべて古今東西の名言を適当に拾い集めてきたにすぎないことを忘れていたわけではけっしてありません。
この付録の文章「富に至る道」のおかげで、人間ベンジャミン・フランクリンに好感がもて、いっそう興味がわく読書体験となった。
関連リンク
『フランクリン自伝』より、“富に至る道”|こばじぃのブログ
(「格言を実行しているはずのリチャードが“貧しい”のはなぜ?」にニヤリ)
富に至る道
(kazuosasakiblogの1エントリ。解説が分かりやすくてありがたかったです)
www.loc.gov
(米議会図書館サイトより。フランクリン氏が関わった印刷や出版の解説)
- 作者: ベンジャミンフランクリン,Benjamin Franklin
- 出版社/メーカー: ぎょうせい
- 発売日: 1996/09
- メディア: 単行本
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「フランクリンの十三徳」を参考に、「七徳」をつくって実践していました。hirocsakai.hateblo.jp