成長の道を歩む中国は一体、どんな国になるのか。

 その見通しを曇らせる要因の一つは、この国がしばしば経済と安全保障でそれぞれ大きく異なる容貌(ようぼう)を見せることだ。

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐり、中国は国際主義的な姿勢をうたっている。

 旺盛な開発意欲が続くアジアのインフラ需要は膨大だ。既存の日米主導のアジア開発銀行(ADB)だけで賄えるはずもなく、開発支援を複線的に進めようという提案には理がある。

 その呼びかけに応じ、欧州などから56カ国が創設メンバーに加わった。思惑は様々だろうが、多くの国の胸中には二つの共通点があるのではないか。

 それは、中国経済が牽引(けんいん)するアジア開発に対する期待感と、中国外交が主導する国際ルールづくりに抱く不安感である。

 近年、周辺国が感じる脅威の最大の理由は、近海で今も続く中国の振る舞いであろう。

 南シナ海では領有権で争いのある海域の岩礁で一方的に埋め立て工事を施し、軍事施設化が心配される。ドイツであったG7外相会合も懸念を示したが、中国は聞こうとしない。

 そんな中国に対する各国の対応は、戦略的な政経分離だ。例えばシンガポールは「ビジネスは中国重視、軍事は米国重視」と割り切る。フィリピンやベトナムは南シナ海ではにらみ合いつつ、新銀行には加わる。

 中国との新しい距離感を模索し、どの国も悩んでいる。かねて米国でも、世界貿易機関(WTO)に中国を迎える際、中国を国際経済秩序に取り込めば、やがて政治も変わるだろうとの議論が盛んだった。

 それが今や中国が秩序づくりに意欲を見せる時代である。日米にとっても自身の利益のために、中国とアジアの市場が死活的に大切だ。89年の天安門事件当時のように、中国を制裁で国際経済から突き放すような選択肢はありえない。

 南シナ海に見るような中国リスクをどう抑え込み、融和志向へ導くか。難問である。

 政治的な関係がどうあれ、中国と日米を含む周辺国とは、グローバル経済の同舟にある。互いの経済発展が互いの政治の安定を担保する構造にある。もはや前世紀までの「覇権主義」はどの一国の利益も保証しない。

 新秩序を探る中国は、自国のために国際社会との順応性を強めるべきだし、日米も中国の新たな役割を認めつつ、安定を守る道を探るべきだろう。日米中とも、新時代に即した大局観を自らの中に育てたい。