同じ職場で長く働いてスキルを身につける。そうした機会に恵まれない人が、非正規雇用の増加とともに目立つようになった。そんな人が失業すると、仕事探しは難しくなりがちだ。

 その結果、生活に困ったとしても、「高齢」「障害」といった従来の社会福祉の枠組みからは外れてしまう。

 制度のはざまで生活苦に陥る人に向けた「生活困窮者自立支援制度」が4月から始まった。

 実施するのは都道府県や市など福祉事務所を持つ全国約900の自治体で、様々な問題をワンストップで相談できる窓口の設置が義務づけられた。窓口では、支援員と相談者本人が話し合って「就労」などの目標を設定してプランを作る。

 就労支援に加えて、家賃補助、家計相談、貧困の連鎖を防ぐための子どもの学習支援などのサポートも制度に盛り込まれている。

 本人に寄り添って相談にのるうちに、これまでの仕事、健康状態、収入、借金、家族関係など、機微に触れる情報がこの窓口に集まることもあるだろう。

 厳重な情報管理はもちろん、役所内や関係機関と情報を共有する際には相談者本人の同意を得るなど、取り扱いには十分に注意を払ってもらいたい。

 就労支援では、支援員は企業やNPO法人などを紹介する。その際、相談者本人が仕事に段階的に慣れることができるよう、雇用契約を結ばない実習形式から入る場合もある。

 この運び方には、生活困窮者を支援する人たちから「安い労働力として使われるのでは」と懸念する見方も出ている。

 制度上は①実習先は一定の条件を満たした認定事業者に限る②雇用契約するかどうかは行政が決める③支援員が日常的に目配りする、といった対策を取ることになっているものの、制度が悪用されないよう監視の目を光らせてほしい。

 また、相談者が最低限度の生活を維持できていないなら、生活保護について説明し、受給につなげなければならない。

 生活保護の受給者が217万人を数えて、生活保護に絡む財政負担は国も自治体も増している。このため、自治体が生活保護費を抑えるために新制度を使って、受給させない事態が生じることを危惧する声は根強い。

 厚生労働省は新制度について「生活保護に至る前の段階の自立支援」と説明している。

 生活保護を受けさせないことが目的にならないよう、相談者の実情に沿った支援を徹底してほしい。