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  • 未来教育リポート
  • 2015.04.17

先生が教えることよりも考えるべきこととは 京都精華大学「グループワーク概論」を訪ねて

みなさんは「授業」と聞いたとき、どんな風景を思い浮かべますか。

教壇に先生が立ち、学生は内容を聞いているのかどうか。課題を出せばうんざりする。

主体的に学ぶためにはどう教えたらいいのか。

 

そんな授業や先生のあり方を変える仕組みを実践している授業が京都の大学にあります。

学外の協力者がつくる授業

京都精華大学の教員、筒井洋一さんが担当する「グループワーク概論」。

 

この授業の運営は、外部から募集したクリエイティブ・チーム(CT)というボランティアが行います。主には他大学の学生や、社会人です。カリキュラム自体は教員である筒井さんが作成しますが、1回ごとの授業のプログラムはCTによって企画、運営されます。

 

授業の各回ごとに見学者が訪れています。他大学教員、高校教員、キャリアカウンセラー、研修講師など専門家がこの授業には多く出入りしているということがわかります。2014年後期の授業には、のべ120名の見学者が訪れたようです。

 

これだけあらゆる関係者が集う授業。なぜこのような仕組みにたどり着いたのか。筒井さんに伺ってきました。

「居場所をつくることが主体的な学びにつながる」

この授業ではほとんどの時間がグループワークによって行われます。毎回4~8名の学生のグループで授業に関わります。

 

そもそも学ぶ意欲や学習習慣のない学生にとって、授業は退屈な場でしかありません。単位を取るという目的のためだけに出席している彼らをどうやって授業に巻き込んでいくか。従来はいわゆる「出席点」や課題を与えることでなんとかつなぎとめてきました。居眠りや「内職」をしている学生には怒るというコミュニケーションしかできなかった。

 

 

しかしこの授業では、無理につなぎとめるよりも、授業に来たら楽しい、おもしろい、仲間がいるからなんとなく来てしまう。つまりは学生が主体的に授業に向き合うような仕組みをつくろうとしています。

 

「授業が終わった時に、グループワークしている学生同士が「おつかれさま」って言って帰っていくんですよ。私(先生)には言ってくれないんですけどね」

と筒井さんはいいます。

 

「最初は学生に相談したことからはじまった」

数年前に筒井さんは「キャリア・デザイン」の授業を担当。しかしキャリアデザインは筒井さんにとっては専門外でした。学内でも相談できる方が見当たらず、困った末に、受講生の一人に相談したそうです。その学生が学外で学んできたことを生かして、授業づくりをサポートしてくれたことがきっかけでした。

 

「学外で学んできたことを学内に活かしてくれる。学外に出れば、そうした能力や特技を授業に生かせるのではないかということで学外の方に協力してもらっています。」

 

チームで取り組み、それぞれの役割を担う

大学は学生数と教員数のバランスの問題から、大講義の授業も多く展開されます。ここでも従来のあり方では学習が難しいと筒井さんは考えています。

 

「1人の教員が100~150名の学生を対象に授業を展開するなんて通常はできないことです。日常生活に置き換えたら、同時に100人近くの人と関わるというのは人間関係の領域を超えています。学生一人ひとりに向き合うことは従来の形ではとても難しい。」

 

そこで筒井さんは学外から授業づくりに協力するCTを設けるという仕組みに至りました。受講生とのつながりや、学外者とのつながりなど、多くの関係者が行き交う授業の運営には「関係性」が不可欠です。授業全体を見て、どのような関係性の構築が必要か。この仕組における教員の役割、それはむしろプロデューサーのようです。

 

 

教えたつもりでない知識の習得を目指して

筒井さんはグループワークを中心とした授業のあり方は固まってきているといいます。その中で、今回2014年度後期では「情報メディア」という専門知識を教えるという要素が加わりました。

専門知識を教えながら、この仕組みも生かして取り組む中で、筒井さんは今回から反転授業を取り入れました。これは知識の修得を動画コンテンツで行い、学んだ知識を生かして授業では実践を行うというものです。すでに取り組まれている高校、大学の事例はとても興味深いとのことです。

学び合うためのコミュニティづくり

筒井さんはこうした仕組みが普及した未来について、こんなふうに語っています。

 

「大学や授業は、もっといろんな方が出入りすると思います。こうした仕組みの先には、大学や授業というものはそれぞれが学び合うためのコミュニティになっていくのではないかと。」

 

「学ぶ」ということの概念が大きく変わっていくかもしれません。むずかしく、強制的なものではなく、気づかないうちに楽しみながら取り組めるものに。そんな学びが実現する時、私たちはなにを作り出すことができるのか。今後の取り組みが注目されます。

 

この仕組みで運営される「グループワーク概論」は2015年前期(4月~7月)も実施されます。京都精華大学にて毎週金曜日の4限(14:40~16:10)に行われます。見学者についてはいつでも募集しているそうですので、見学をご希望の方は以下までお問い合わせください。

 

連絡先:筒井洋一(京都精華大学 人文学部教員)

ytsutsui[@]gmail.com (@を半角に変更のこと)

 

文責:水口幹之(さすらいライター 立命館大学文学部所属)

  • ライター

水口幹之

フリーライター・インタビュアー
立命館大学文学部4回生

ライター、編集者を目指し、取材記事やイベントレポートなどを執筆。主なテーマはまちづくり、教育、社会課題、コミュニティ、メディア。京都を拠点に関西、北陸を中心に活動中。

HP : http://mizumochy.tumblr.com
Twitter : https://twitter.com/mizumochy

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