つんのらくがきブログ(主に咲-Saki-、サウスパーク)
sakura


桜の季節、永水の季節。



去年の秋くらいから、ちまちま「霧島神境の海」探しをしておりました。
結局海岸は見つけられなかったのですが、一つ永水についての仮説を得たのでまとめようと思います。長いです。妄執です。



◆散見される南西の諷示

しかし南の島ってのは本当にいいですね。ストリートビューで島巡りをしていると、堪えず望郷の念に駆られます。南の血なんて一滴も入ってないくせに。

さて、永水女子。そして彼女らの所属する、厳かにも妖しい霧島神宮。
霧島神宮とは、そして霧島神境とは何なのか?試合が終わり、永水女子が一時的に舞台袖に引っ込んだ今でもその全貌はよく分かっていません。
中でも引っかかるのが、彼女らを覆う「鬼」というモチーフ。沢山の方が指摘していますが、永水女子のメンバーは、5人中4人がとの何かしらの結び付きを持っています。

小蒔:トシさんの「巫女が鬼になったね」発言、第74局のタイトルが「神鬼
巴:特になし(そもそも対局描写が…)
春:「鬼界の話」で笑う 出身の喜界島は鬼ヶ島の候補地 
初美:鬼門裏鬼門
霞:直接的にはないが、鬼八伝説と関わりが? こちらこちらを参考に。


神と鬼はある意味紙一重のような所もありますし、巫女に冠せられるのもけして不思議ではないのかもしれません。が。
ここまで恣意的に繰り返される鬼というファクタは一体どこから来たのか、明確なモチーフは存在するのか気になっていました。

まず霧島神宮について考えたとき、無視できないのが名前と外観そのまんまの超有名神社の存在です。
更におあつらえ向きに「九面」というキーワードまで出てくるので、姫様の降ろす神というのは鹿児島県にある現実の霧島神宮祭神に即したニニギ御一行であり、全員が女神になってるのは咲-Saki-ナイズドされた結果なんだろうなー、と信じて疑いませんでした。
アニメだと先鋒戦のシーンに古事記の一節が追加されたりしてたしね。

しかし咲-Saki-世界の霧島神宮が祀っているのは本当に天孫降臨御一行なのか、これをちょっと疑ってみる必要があるのではないでしょうか?

最初にそう思ったのはこのコマ。

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小林立『咲-Saki- 10』スクウェア・エニックス 186ページより


第95局、幼い霞さんが祖母上様と一緒に初めて神境を訪れたシーン。
現実では悪石島含めトカラの一部の島にしか存在しないはずの、二色で彩られた鳥居の鋸歯紋。(ギザギザしてるやつ)
もちろん、鹿児島本土にある現実の霧島神宮には付いているはずもありません。このことは既に「私的素敵ジャンク」さんでも指摘されていますね。
鋸歯紋は魔除けとして弥生時代以降様々なものに使われてきた紋様ですが、蘭嶼から台湾で最も顕著に露出し、沖縄・奄美・トカラにおいても活発に使用され、南九州に入ると全般に衰えていく…、即ち南下するほど頻繁に見られるという傾向があるようです。

つまり、これは咲世界の霧島神宮は、現実の霧島神宮よりも南西諸島の文化が色濃く反映されているぞという立先生の仄めかしなのではないでしょうか?

この想像を補強する事柄としては、
ご存知の通り、現時点で少なくとも霞さん・ハッちゃん・はるる・明星ちゃんの四人が本土ではなく薩南諸島(南西諸島のうち鹿児島県に所属する島々)出身であると判明していることが挙げられます。


map1
 7人中4人だけなので存外寂しい 姫様は小さい頃から神境にいたらしいが、出身かどうかは明言されてないので保留


薩南諸島と本土の違いとは何でしょう。
薩摩と琉球の間にあるトカラ以南の島々は歴史上、大かれ少なかれ琉球文化に影響を受けてきました。物質的にも、精神的にも。
とりわけ奄美大島は琉球王国に属していた時期もあり、文化的に地続きであるとも言えます。
これを上のマップに重ねるとこんな感じ。


map3
 もちろん独自文化など例外も多々あり(ボゼとか)、おおざっぱな区分けです


離島出身組の4人のうち、3人が琉球文化圏に属する地域出身という事実。
これに鑑みて、琉球で信仰されてきた宗教、即ち琉球神道も永水女子を考える上において検分する価値があるのではと考えました。


付け加えてもう一つ。
tomoe
小林立『咲-Saki- 7』スクウェア・エニックス 94ページより


これはちょっと難癖レベルなんですけれど。
上の画像は第56局のひとコマで、霧島神宮の石段の手前、神橋のたもとにある御由緒書きだそうです。
丸で囲ってある提灯に描かれている紋、これが左三つ巴(時計回りの巴紋)なのも気にかかってまして。ここを聖地巡礼した方の写真も見ましたが、実際には提灯は無いようでした。
基本的に、天皇直系の祭神を祀る神社は菊紋を使用します。天孫ニニギを祀る霧島神宮に、八幡宮系の三つ巴紋というのは、言ってしまえば少し場違い感を覚えるのです。
実際、現実の霧島神宮の正式な神紋は十六八重菊紋、そしてHP上で使われているアンオフィシャルな紋は菊と桜なので、この三つ巴紋はどこから来たのかな?という…霧島神宮くらい格式高い神社ならば、アマゾンで売ってるような既製品の提灯なんて使わないでしょうし。

で、これの何が気になるかというと、琉球王家も同じく「左三つ巴」を使用しているという点。(※1)
三つ巴紋自体は非常~~~にポピュラーであるため、これを以って「咲-Saki-世界の霧島神宮は琉球神道との関わりがある」、とはとても言い切れないですが…。(※2) 
ちなみに琉球八社のうち五社が左三つ巴を使っているほど、沖縄の神社は三つ巴紋が多いです。

 
 
 神道、道教、隠れ念仏(※3) …。
色々な方の先行研究により永水女子という集団が宗教のサラダボウルである可能性が示唆されてきましたが、そのボウルに琉球神道を混ぜてもそんなに無理はないんじゃないか、という体で話を進めたいと思います。
 
 

◆女神アマミキヨ

さて、琉球神道について調べてみると、否が応にも一人の女神に突き当たります。
女神の名はアマミキヨ。
結論を先に言いますと、このアマミキヨこそが姫様の降ろす女神のモチーフの一つであり、鬼の由来ではないかと考えます。理由は後述。

そもそもアマミキヨとは何者か。
沖縄・奄美大島に伝わる琉球の創生神・天地開闢の女神で、アマミキヨの他にもアマミク、アマミコ、アマンチュ、あまみきょう、阿麻弥姑、阿摩美久など多数の表記バリエーションがあります。
はるか昔、天から下界に降りてきたアマミキヨは太陽神に命じられ、何もなかった大海原に島を生みました。
以降御嶽(ウタキ)をこしらえ、人を作り、五穀と稲をもたらし、そうして人々の世を作り上げました。
…すごくどこかで聞いたことのある話ですね?そう、古事記・日本書紀におけるヤマト神話の創世記に筋書きがよく似ています。

国生みを成したという意味では イザナギ・イザナミ
天孫降臨、稲作を伝えたという意味ではニニギ(※4)
神話の代表格の女神という意味ではアマテラス

…の役を一柱で請け負う、琉球神道におけるもっとも重要な女神と言えます。
また、霧島神宮の祭神ニニギとの関連も見受けることができる気がします。

つまりはですね、
ヤマト神話の「日向三代・ニニギ」を祀るのが現実世界の霧島神宮ならば、
琉球神話のニニギたる「アマミキヨ」を(も)祀っているのが咲-Saki-世界の中の霧島神宮なのでは。
という説を提唱したいのです。

多少強引ですが…。
沖縄学の父・伊波普猷はアマミキヨの正体は九州から移住してきた海人部(アマベ)だとしています。
南九州から南下してきた民と考えると、鹿児島との繋がりも見出しやすいのではないかと。(※5)

また、アマミキヨが元々いた天とは一説にはニライカナイだと言います。
シロの能力を「マヨヒガ」とネーミングする機知に富んだ霞さんはともかく、「沖縄の銘苅」と言われてもピンと来なかったハッちゃんが、ニライカナイの名前を出された途端理解したのは、彼女らの信仰に琉球神道が関わっているから…と言えるような言えないような。(※6)



◆角の生えた女神

で、ここで改めて記事タイトルに触れたいと思います。

神境の姫はなぜ鬼になるのか?
なぜ神を降ろした状態の小蒔姫が鬼と表現されたのか、
なぜエイスリンの描いた絵には角が生えていたのか?

去る2009年、戦争で焼失していたアマミキヨの神面が沖縄で復元されました。この面は、アマミキヨの末裔とされる玉城のミントゥン家に代々伝わっていたモノだそうです。
当時のネット記事→ これ とか これ とか このあたり
詳しくはリンク先を見てほしい…のですが流石に画像の直リンは憚られるので模写をしました。
少々強引にアマミキヨを持ってきた理由が、この面を見てもらえれば分かると思います。


 shinmen


はい、この面には角が生えているのです。
角→鬼 という発想は短絡的かもしれませんが、ごくごく素直な気持ちで見ると、女神様というよりは鬼…という印象を受けます。

女神に角?なぜか。気になります。
中国の神農・蚩尤やギリシア神話のパーンならいざ知らず、日本において角を持った神様の例というのは、ちょっと思い付きません。(※7)
アマミキヨの名が歴史上初めて出てくるのは『琉球神道記』(1608)ですが、『おもろさうし』『中山世鑑』『中山世譜』…、と時代を下ってもいずれもアマミキヨの外見についての言及はありません。
が、都成南峰の『奄美史談』においてのみ口碑として記されているのを確認できました。沖縄ではなく奄美大島のアマミキヨです。
阿麻弥姑前額に瘤アリ、角ノ如シ、平生珍絹(ウッキヌ)ヲ以テ之ヲ隠シ、人に現サズ、時人阿麻弥姑ノ徳ヲ慕ヒ、倣フテ以テ頭ニ纏フ、之ヲ角隠又ハ珍首ト云フ(後略)

曰く、アマミキヨの額には角のような瘤があり、普段は珍絹で隠して、人に見せないようにしていたと。
またアマミキヨを慕って奄美の女性たちがこぞって真似た珍絹を、角隠しと呼んだと。
人目を憚り隠さなきゃいけなかった角ってなんでしょう?やはり気になります…がその理由について触れられている文献は終ぞ見付けることはできませんでした。(※8)

本筋に戻ると。
奄美大島に残る口碑と、沖縄玉城に残る鬼面。
この二つの土地は距離的に遠くはないけれど、琉球の版図から言うと近くもないので、文献に乏しいにしろ、「開闢の神に角が生えていた」という認識は少なくとも局所的に存在した、と言えると思います。
即ち、アマミキヨは鬼のように角の生えた女神であった、と。

で、角の理由はともかくとして(本当にただの瘤だったのかも)
この角を鬼のイメージと重ね姫様の降ろす女神に取り入れたため、永水に鬼のモチーフが塗されることになったのではないでしょうか。

他の何でもなく「鬼の面」という形で偶像が残っているのも、作中に九面というキーワードが出てくるのを踏まえると、説得力を増すような気もします。
インハイ二回戦が始まり姫様が卓上でその力を発揮したのが2010年、面が復元されて話題になったのが2009年なので、メタ的に言えば時期もちょうど良いと思うのですが、どうでしょう。(まあ、アニメ一期の最終話やコミックス7巻で既に永水メンバーの描写があるから無関係かもですが…)
 


えー、グダグダと長くなりました。
まとめると、

  1. 永水女子の属する霧島神境には南西諸島の文化、琉球神道の要素が入っている
  2. 琉球神道にはアマミキヨという角の生えた女神がいる
  3. その角を鬼のモチーフとして取り入れたため、永水に鬼のイメージが付加されることになった

以上です。


ツッコミ所もたくさんあるよなあ。
作中で明言されている通り、二回戦で姫様が降ろしたのは9人(以上)いる女神のうちの「弱い女神」。
女神全員に角が生えてるんかい?というお話になりますし(琉球神話でアマミキヨの他に角が生えている神様は知りません…)。
そもそも沖縄のキャラクターが本格参戦してきた以上、そっちのキャラでやるに相応しい内容ですし。
全てが全て琉球神道だ、などと言うつもりはなく、やはりベースは古事記の天孫降臨神話でなのでしょう。鬼のイメージが付加された理由も、一つではなく色々な要素が複合された結果な気がします。
様々な宗教・思想・文化を内包する永水女子という集団の上澄みに、アマミキヨというエッセンスが一滴くらい入っているんじゃないか?というお話でした。


はてさて、霧島高千穂峰が「ヤマト神話の天孫降臨の地」ならば、「琉球神話の天孫降臨の地」を探せば神境も見付かるのでは。
…などと色めき立ち、アマミキヨ降臨の候補地(久高島・北大東島・奄美大島のアマンデーなど)をストリートビューでつぶさに調べたりもしました。
まあ、それも1月の立先生のHP更新(例の神境に関するやつ)で水泡に帰したわけですが。

どっとはれ。







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※1
ちなみにアマミキヨ(後述)の神紋も三つ巴だそう。

※2
しかしこれは背景画なので、留意すべきは立先生ではなくヤオキンさんの管轄という点。ヤオキンさんのアドリブという可能性も無きにしも非ず…かもしれない。

隠れ念仏と永水の関係については「私的素敵ジャンク」のhannoverさんが詳細な記事を書かれていました
そちらでも少し触れられていますが、隠れ念仏と度々比較して語られる風習に「隠し念仏」というのがあります。隠れ念仏は鹿児島を中心に見られる習俗でしたが、隠し念仏は岩手が主な舞台です。
中でも気になっているのが、ネット上に転がっている隠し念仏と姉帯村に関わる話(ちょっと検索すると2chのログが出てくる)。
隠れ念仏と永水はもちろん、隠し念仏と宮守(というか姉帯さん)にも繋がりがあるのではと個人的に思っています。

※4
余談ですが「小蒔」という名は、ニニギ・アマミキヨどちらにせよ「稲の種を蒔いた」というエピソードからきているのでは?
じゃなかったらニニギの奥さん、コノハナサクヤヒメが富士山から桜の種を蒔いたという話からかも。

※5
柳田國男はこの説に懐疑的ではあるが…。

※6
それなら銘苅さんの方がアマミキヨを元ネタにするに相応しいのでは…と言われたらぐうの音も出ない。
が、立先生が琉球文化についても調べていて何か設定を捏ねているというエビデンスにはなるのでは。
ついでに個人的にニライカナイ=大東島説が好きなので、銘苅さん大東島出身説を唱えておきます。

※7
鬼以外で角の生えた存在というと、国内では日本書紀に登場する都怒我阿羅斯等(ツヌガアラシト) の話があります。
しかしこれは実の角ではなく、彼が被っていた物の飾りがそう見えただとか、「ツヌガ」の名前が「角額」に聞こえたゆえの捏造だとか言われています。
翻ってアマミキヨは、被り物の飾りどころか角を布で隠していたというのだからこれ如何に。 
役小角にも角生えてた説がありますが、どうなんでしょうねえ。使い魔も鬼だし…。

※8
そもそも鬼=角というのは陰陽道の(日本での)影響なんだけど、古琉球に果たしてどの程度差し響いていたのか?
アマミキヨの角自体にはもしかしたら鬼の意味は無かったかもしれないが、何にせよ意味する所は分からず。稲作、農業に関わる神だから、牛のイメージから来た角?




参考文献
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  • 下野敏見(1980)『南西諸島の民俗1』法政大学出版局
  • 下野敏見(2005)『奄美、吐噶喇の伝統文化:祭りとノロ、生活』南方新社
  • 都成南峰(1933)『奄美史談』
  • 昇曙夢(1968)『大奄美史』奄美社
  • 大林太良(1974)『日本神話の比較研究』法政大学出版局
  • 谷川健一(1991)『南島文学発生論』思潮社
  • 宮地水位(1940)『異境備忘録』神道天行居 
  • 柳田國男(1978)『海上の道』岩波書店

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