辺野古作業停止指示:法の目的は…農相「無効」に疑問の声
毎日新聞 2015年04月03日 08時30分
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設を巡り、沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事が沖縄防衛局に出した作業停止指示を、林芳正農相が暫定的に無効にした。翁長知事の指示に対して防衛局が行政不服審査法に基づき、審査請求とともに申し立てた「執行停止」を全面的に認めた形だ。だが行政不服審査法の目的は、行政庁の処分に不服がある国民の権利を守ること。行政機関同士の争いに用いられたケースは極めて異例で、専門家からも疑問や批判が出ている。
「国民に対して広く行政庁に対する不服申し立てのみちを開く」。行政不服審査法の第1条は法の趣旨をそううたい「国民の権利利益の救済」を目的に位置付ける。
翁長知事もこの点を重視し、農相に提出した意見書で「法は審査する立場にある国が別の国の機関から申し立てを受けることを想定していない」と主張した。防衛局が同じ政府機関に不服を申し立てる資格を疑問視し、防衛局の執行停止の申し立ての却下を求めた。
しかし、農相は「国も県知事の許可が必要で、私人が事業者である場合と変わりがない」と判断した。国の申立人としての資格を認め、日米関係への悪影響などを理由に翁長知事の指示の執行停止を決めた。これにより、農相が防衛局の審査請求を裁決するまでの間、国の移設作業は可能になった。
行政法が専門の三好規正・山梨学院大法科大学院教授は「手続きとして国も民間会社も変わりはなく、法的には同じ立場という解釈は成立する」と話し、国にも不服を申し立てる資格はあるとみる。一方で「国と県の争いの解決手段としては法が想定していないのも確か。法の趣旨からすると違和感を覚える」と話し、紛争解決手段としての正当性には疑問符を付けた。
公平性の観点から問題視するのは、武田真一郎・成蹊大法科大学院教授だ。「原告と裁判官が同一の裁判で沖縄県が裁かれたようなもの。行政機関同士の紛争である今回のケースで審査請求はできないはずだ。そのため農相に判断する権限は無く、決定は無効と考える」と指摘する。その上で、国の取るべき対応として、地方自治法に基づく解決方法を挙げる。