平均所得:最低の熊本県球磨村 人口減、地域再生遠く

毎日新聞 2015年04月17日 06時00分(最終更新 04月17日 13時22分)

男性が継ぐ民宿の食堂から球磨川が見える。壁に釣り客らでにぎわったころの写真が張られていた=熊本県球磨村で、川上珠実撮影
男性が継ぐ民宿の食堂から球磨川が見える。壁に釣り客らでにぎわったころの写真が張られていた=熊本県球磨村で、川上珠実撮影

 ◇民宿 生計が立たず兼業

平均所得が減少した市区町村の割合
平均所得が減少した市区町村の割合

 「父と母が好きだった土地。思い出をつなぎたい」。男性(60)は母の遺品を整理しながら言った。住民の平均所得が全国最低だった熊本県球磨(くま)村。母は民宿を切り盛りし、2月に81歳で他界した。いったん閉じた民宿を自ら再開しようと覚悟を決めたが、人口減に直面して昔のにぎわいを取り戻せるか。「地方創生」が統一地方選のテーマというが、地域再生の道はかすんでいる。【川上珠実】

 急流下りで有名な球磨川と並行する国道沿いの民宿で、男性が後片付けをしていた。母の四十九日で、兵庫県三田市から1人で帰省したという。

熊本県球磨村
熊本県球磨村

 民宿は27年前に両親が始めた。眼下の清流と、奥にそびえる山々の雄大な景色が、アユ釣りで訪れる宿泊客を楽しませてきた。

 父は4年前に亡くなり、母が1人でどうにか続けてきた。だが、最近は常連客以外少なくなり、ぎりぎりの経営が続いていた。

 男性は、村民から頼まれたこともあり、悩んだ末に民宿を継ぐことを決めた。でも、生計を立てるには兵庫での自営業を辞められない。「行ったり来たりの二足のわらじでやるしかない」。家族を兵庫に残し、ひと月のうち1週間ほどを村で過ごし、宿を営むつもりだ。

 村は鹿児島県境の山あいにあり、昔は林業や炭焼きが盛んで、観光でも潤った。1989年に九州自動車道が近くの人吉市まで延びると国道はさびれ、観光客は大きく減った。今の人口は20年前から3割減って4000人余り。村内の建設会社も次々姿を消した。人口に65歳以上が占める高齢化率は今年3月末現在、40%を超える。

 役場から約10キロ。かつて40戸ほどが軒を連ね、炭焼きの煙がたなびいていた黒白(くろじろ)地区は現在、9世帯14人まで減少した。住民の足は、地区と村の中心部を平日数往復する地域バスくらい。近くに商店はなく、自給自足に近い年金生活者が大半だ。妻(77)と2人で暮らす男性(76)は「あと10年で、黒白には誰もいなくなる」と山を仰いだ。

 「景気回復の暖かい風を、全国津々浦々にまで届けていく」。安倍晋三首相はことあるごとにアベノミクスの波及効果を強調する。昨年の衆院選でも「この道しかない」と訴えて票を集めた。

 暖かい風は、村にいつ届くのか。

最新写真特集