日系人:強制収容所で制作の作品、競売中止

毎日新聞 2015年04月16日 22時45分

 【ロサンゼルス長野宏美】第二次世界大戦中に米国の強制収容所に入れられた日系米国人らが制作した絵画や工芸品が17日、米ニュージャージー州の競売会社「ラゴ・アーツ&オークションセンター」の競売にかけられる予定だったが、日系人団体などから「文化財に値札をつけるべきでない」と抗議を受けて15日、取りやめた。団体は博物館などへの委託を望んでおり、強制収容所で過ごした経験のある俳優のジョージ・タケイ氏(77)が双方の仲介をし、取得先の交渉を進めるという。

 同社によると、出品されていたのは全米10カ所の強制収容所の収容者らによる書道や絵画など約450点の作品。落札価格は計2万4300ドル(約290万円)〜3万4200ドルを見込んでいた。

 ◇「歴史は売り物でない」の抗議受けて

 戦時中の日系人の芸術作品について1952年に本を出版した故アレン・イートン氏が収容者らから譲り受けた作品や収容所で撮影された写真で、強制収容所の過ちを伝えるため集めたという。イートン氏の家族の知人が引き継ぎ、複数の機関から寄贈を依頼されたが、「委託先の選択をしたくない」と出品した。

 日系人団体や個人は「日系米国人の歴史は売り物ではない」と特別委員会を結成。競売中止を求めるオンラインの署名活動を始め、15日時点で5400人を超える署名が集まった。署名を呼びかけたカリフォルニア州立大学サクラメント校のサツキ・イナ名誉教授は「日系米国人の歴史の保存は米国の歴史の一部として不可欠だと啓発できた」と歓迎した。

 亡き母が写った写真が出品されかけたカリフォルニア州のヨシノリ・ヒメルさん(59)は「母の歴史が商品になっていることで、母が再び冒とくされたと感じていた。故郷の博物館などに展示してほしい」と語った。

 ラゴ社は「非道の遺産である歴史的な品を売却することについて本質的な議論がある」と競売中止を発表した。

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