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■世界を開く異様な「私」「今」く
『私・今・そして神 開闢の哲学』[著]永井均(講談社現代新書・778円)
最初に読んだのは『I【アイ】』というマンガを連載していた2011年ごろ。『I』は「神様はいるのか」が一つのテーマになっています。この本のどこかに、求める答え、神が存在する証拠が書かれているんじゃないかと思って読み始めたんです。
著者は神さまはいると考えているらしい。でも普通の信仰とはちがう。どこまでも論理的に突き詰めていこうとするから、筋道を追うだけでも大変です。そのうち「私」や「今」に論が移っていく。実はここからがすごい。「私」と「今」は他者や他の時間とはまったくちがう「開闢(かいびゃく)」の特異点だと永井さんは言っています。宇宙の始まりの「ビッグバン」のような一点。そんな異様なものが「私」であり「今」である、と。時間的空間的に、その前後にも世界があるとしたら、神はいることになる。驚きました。開闢とか特異点とか『I』の前に私が描いたマンガ『かむろば村へ』に登場する、自他ともに認める神様「なかぬっさん」とはずいぶんちがう。
永井さんの他の著作も読んでみました。ニーチェにもウィトゲンシュタインにも噛(か)みついている。この本は論理が追いやすく書かれていることも分かりました。
私は小さいころから、誰が世界を創ったのか、この世界はいったいなんなのかと、考えてきました。自分は創った覚えがないから、たぶん神さまが創ったんだろう、と。自分が死んでも世界は存続するのか、だとすれば、自分のいない世界にどんな価値があるのだろう。
いつ親がその秘密を明かしてくれるか、友だちが、先生が教えてくれるのかと待っていましたが、誰もそんなことを話し出そうとはしませんでした。永井さんはそこを考えている、自身の問題として。本物の哲学者だと思います。
この本と出会い、自分の世界が上方に向けてスポンと広がった。色んな人に感じてきた絶対的違和感も薄れた。少し丸くなった気がします。
(構成・鈴木繁)