精神科病院に強制的に入院させることは重大な措置である。その判断に、本来資格のない医師がかかわっていた。

 明らかな人権侵害であり、強い憤りを感じざるをえない。

 川崎市にある聖マリアンナ医科大学病院で、11人もの医師が法律に基づく精神保健指定医の資格を不正に取得していたことがわかった。

 指導していた9人と合わせ、20人の指定医資格が取り消された。大学は医師養成の原点に返った猛省が必要である。

 また、厚生労働省は、こうした不正がほかにないか、全国的に詳しく調べるべきである。

 指定医は、重い精神障害で入院が必要と判断した場合は本人の同意がなくても、保護者の同意だけで「医療保護入院」させることができる。さらに緊急の場合は、都道府県知事や政令指定市長の権限で「措置入院」も決められる。

 患者の人権を大幅に制限する判断にかかわるからこそ、厚労省が精神科医療の経験や資質などをチェックして認定しているのである。ところが、11人は指定医の申請に際し、先輩医師が診断や治療にあたった症例を、自分が担当したかのように偽ってリポートを出していた。知識や経験の不足にとどまらず、人権上の難しい判断をする指定医に求められる高い倫理性の欠如をも物語る行いだ。

 聖マリアンナ医大病院では、こうしたリポートの引き写しが常態化していたという。

 過去、一般の病院で同様のデータ流用と不正申請が発覚し、指導医が処分された事例はあったが、大学病院での大量不正はひときわ医療不信を強める。

 聖マリアンナ医大には過去5年間で、診療報酬約170万円が上乗せして支払われていた。その返還や関係した医師の処分にとどまらず、医師教育や病院運営の問題点を洗い出し、抜本改革を図らなければならない。

 今回は国の審査でチェックが働いたが、学会による認定医や専門医の申請ではこうした症例引き写しのうわさが絶えない。扱った症例を水増しし、申請に必要な数を稼ぐというのだ。

 腹腔(ふくくう)鏡手術で患者が相次いで死亡した群馬大学病院のケースも、未熟な医師が実績づくりを急ぎ、病院内の倫理審査手続きを軽んじた疑いがある。

 患者を、医師の資格や論文のための「症例」「数」におとしめてはならない。

 専門性や先進的な医療技術は大切だが、患者をないがしろにした医療はごめんである。医療界は自浄能力を示すべきだ。