安倍晋三首相と沖縄県の翁長雄志知事が昨年の知事選後、初めて会談した。双方が主張をぶつけ合うだけの平行線に終わったが、顔を合わせないよりはるかによい。粘り強く対話を重ねて信頼関係を築けば、必ず道は開けるはずだ。
約35分間の会談のほとんどは、沖縄県宜野湾市にある米軍普天間基地の同県名護市辺野古への移設の是非に費やされた。
普天間基地は住宅密集地の真ん中にあり、不測の事態がいつ起きても不思議ではない。2004年には米軍のヘリコプターが基地に隣接する沖縄国際大のキャンパスに墜落する事故があった。
会談で首相は名護市への移設を「唯一の解決策」と説明した。現実を踏まえれば、人口が比較的少ない辺野古への移設によって危険性を低減させる日米合意は妥当といえるだろう。
知事は「沖縄がみずから基地を提供したことはない」と反論し、普天間基地の無条件での返還を求めた。さらに月末の日米首脳会談で沖縄が移設に反対していることをオバマ大統領に伝えるよう要求した。知事自らも近く訪米して米政府にじかに働きかける意向だ。
双方の溝を埋めるのは容易ではないが、協議を続ける姿勢が互いにみられたことは評価できる。首相は会談で「理解を得るべく努力を続けていきたい」と述べた。菅義偉官房長官は記者会見で「この会談を機会に対話を重ねたい」と力説した。
そもそも会談は4月上旬に沖縄を訪れた菅官房長官に、知事が首相と直接対話したいと語ったことで実現した。
1996年に普天間返還で米政府と合意した橋本龍太郎首相は、当時の沖縄県知事だった大田昌秀氏と短期間に20回近くも会った。大田氏は結局、普天間代替施設を県内につくることに同意しなかったが、橋本氏の真摯な姿勢は県民にも評価する声があった。
安倍政権もこうした共感を沖縄県民の間に生み出すことができるか。知事を説得するにはこうした地道な努力が欠かせない。
政府と沖縄が話し合うべきは基地問題だけではない。自衛隊と民間が共用する那覇空港は分刻みで飛行機などが離着陸している。滑走路の増設は南西諸島の防衛にも、沖縄の経済振興にも役立つ。
普天間移設問題でこうした協議にまで支障が生じたら、政府にも沖縄県にもマイナスだ。