社説:首相と沖縄知事 形だけに終わらせるな

毎日新聞 2015年04月18日 02時32分

 安倍晋三首相と沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事が初めて会談した。今回の会談を形だけのものに終わらせず、政権と沖縄の政治対話を継続すべきだ。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を掲げる翁長氏が知事に就任して4カ月余り。この間、安倍首相は翁長氏との会談に応じず、沖縄の態度の変化を促そうとするように冷遇し続けた。長い空白期間だった。

 今月に入り、菅義偉官房長官が5日に那覇市で翁長氏と初会談したのに続き、首相官邸で安倍首相と翁長氏の会談が実現した。ここへ来て政府が急に動き出したのは、安倍首相が訪米し28日にオバマ大統領と会談するのを前に、沖縄に理解を求める政府の努力を米国の政府や議会向けに示す狙いがあるのだろう。

 たとえ政治的な演出であったとしても、会わないよりはずっといい。対話なしに物事は進まない。

 会談の内容そのものは平行線だった。安倍首相は、普天間の危険性除去のため「辺野古移設が唯一の解決策」だと改めて強調した。翁長氏は「県外移設公約をかなぐり捨てた前知事が埋め立てを承認したことを『錦の御旗(みはた)』として、政府が辺野古移設を進めている」と批判した。

 首相は「これからも丁寧に説明しながら理解を得る努力を続けていきたい」とも語った。政府が辺野古移設をどうしても進めるというなら、口で言うだけでなく、最低限、沖縄への丁寧な説明を実行すべきだ。

 沖縄からは安全保障上の必要性に対する疑問も出ている。「安全保障環境が変化する中で、辺野古に新基地を作って、将来も長期にわたって米海兵隊が駐留する必要があるのか」という問題提起だ。

 政府は、沖縄県の尖閣諸島をめぐる対立など中国の海洋進出をにらみ、抑止力を維持するために辺野古移設が必要というが、沖縄の人たちは必ずしも納得していない。議論を深める必要がある。

 防衛省沖縄防衛局が辺野古沖に沈めたコンクリート製ブロックがサンゴ礁を破壊しているとみられる問題についても、県が求める現地調査や資料提供に応じ疑問に答えるべきだ。

 仲井真弘多(ひろかず)前知事が埋め立て承認の際に安倍首相と約束したとしている「普天間の5年以内の運用停止」などの負担軽減策が実現可能かどうかも、明確にしなければならない。

 政府と沖縄の間には、全閣僚と知事が米軍基地問題や振興策について話し合う沖縄政策協議会があるが、翁長知事になって開かれていない。協議会の再開を含め、政権と沖縄が定期的に話し合う仕組みを早急に動かすべきだ。

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