台湾の最大野党・民進党は、来年1月に予定される総統選の候補として蔡英文主席(58)を公認した。国民党の馬英九総統が中国大陸との関係拡大に積極的に取り組んできたのに対し、民進党は慎重だ。中台関係の行方を左右する総統選が始動した。
2008年に就任した馬総統はすでに2期目で、来年5月の退任が決まっている。国民党が6月に決める見通しの公認候補が誰であれ、新しい総統の誕生となる。中台関係の動向は東アジア全域の情勢にも響くだけに、総統選の行方を注視していく必要がある。
世論調査では今のところ、国民党の有力者の誰に対しても蔡氏が優勢だ。昨年3月、中国とのサービス貿易自由化協定に反発した学生たちが立法院(国会に相当)を占拠した事件が象徴するように、馬政権下での急速な対中接近を警戒するムードが、蔡氏には追い風となっている。
蔡氏は中台関係について「現状維持」を事実上の公約とした。民進党は独立志向が強いが、中国との緊張が高まることを望まない有権者や経済界、米国などに目配りした対中政策を模索しようとする姿勢がうかがえる。
ただ、馬政権と違って「一つの中国」の考え方を認めているわけではなく、中国共産党政権は警戒感を隠さない。12年の前回総統選で蔡氏が敗れた一因は対中政策にあったとされる。今回の総統選でも大きな焦点となろう。
経済政策について蔡氏は、賃金の上昇や雇用の改善、格差の是正などを目標として起業の促進や税制の改革などを掲げた。東京電力福島第1原子力発電所の事故を機に不安の声が高まっている原発をどう位置づけていくかも、問われている。これは日本にとってもひとごとではない。
蔡氏が当選すれば台湾初の女性トップとなる。「親の七光」がないこともあり、東アジアでは異色の指導者となる。二大政党を軸とした台湾の民主主義の里程標としても、総統選に注目したい。