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【中高生のための国民の憲法講座 第89講】シリア渡航計画に旅券返納命令…海外渡航の自由は無制限か

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【中高生のための国民の憲法講座 第89講】
シリア渡航計画に旅券返納命令…海外渡航の自由は無制限か

制限する根拠は

 まず、わが国の独立と安全の確保はもちろん、わが国が築いてきた諸外国との信頼関係を維持することや外交・防衛問題に関する国際秩序に反しないことが重要です。

 過激派組織によるテロに対しては国際社会が連携して立ち向かうということが確認されています。国際情勢の推移や外交上の影響などについて、裁判所は十分な資料と的確な判断能力、責任を持っていないのが普通です。

 その意味から、外交の複雑性・専門性や国益確保の見地から、外務大臣の判断を尊重することには相当の理由があります。

 ケースは異なりますが、かつて最高裁判所も旅券法の規定による海外渡航の制限について合憲の判決を示しています(最大判昭和33年9月10日)。今回とりあげたテーマも、国の利益による個人的自由の制約の一例といえます。

 【日本国憲法】

 第22条1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 同2項 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

 昭和33年9月10日の最高裁大法廷判決では、旅券法第13条1項の規定(著しく且(か)つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞(おそれ)があると認めるに足りる相当の理由がある者)について、外国旅行の自由に対し、公共の福祉のため合理的な制限を定めたもので、憲法22条2項に反しないとされた。

 訴訟は旧ソ連のモスクワで開かれた国際経済会議への参加をめぐり、旅券発給を拒否された原告が損害賠償などを求めたもの。当時の国際情勢などからこの規定を適用して旅券発給を拒否したことは違法とはいえないとされた。

【プロフィル】高乗正臣

 たかのり・まさおみ 中央大学法学部卒業。亜細亜大学大学院法学研究科修士課程修了。平成国際大学法学部元教授、前憲法学会理事長。専門は憲法学。著書に『人権保障の基本原則』『現代憲法学の論点』『現代法学と憲法』『法の原理と日本国憲法』など。70歳。

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