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【中高生のための国民の憲法講座 第89講】
シリア渡航計画に旅券返納命令…海外渡航の自由は無制限か
または、(2)「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合」には旅券の返納を命ずることができる(19条1項4号)と定められています。
個人の利益と国の利益
まず、(2)の場合、渡航を中止させないで放置することによって生ずるのは、渡航者個人の損害であって、直接的には社会や国家の損害ではありません。だとすれば、「公共の福祉」に反する場合にのみ許される海外渡航の自由の制限を、広く認めることは憲法違反の疑いがあるとする見解があります。
しかし、周囲の助言を聞かずに自己責任で行動すると明言して、危険な地域に渡航したとしても、その国民を最終的に保護する責任は本国にあります。さらに、拘束された渡航者が取引の材料にされ、複雑な外交問題に発展する可能性があります。
このような場合でも、政府(外務大臣)が国民の危険地域への渡航を制限することは、明らかな憲法違反といえるでしょうか。
つぎに(1)の場合、「著しくかつ直接に日本国の利益を害する行為」とは何を指すのかが問題となります。これを犯罪行為、例えば内乱罪、外患罪や麻薬取締法に違反する行為などに限定し、旅券の申請者がこれらの犯罪行為を行う可能性が十分予測される場合に限るという見解があります。しかし、海外渡航の自由を制限する根拠は、犯罪によって国内の治安を害することだけに限定されるものではないと考えられます。