文太さん、映画「トラック野郎」幻の台本は「最高傑作」だった
先月28日に肝不全のため亡くなった俳優の菅原文太さん(享年81)と愛川欽也(80)の名コンビで1975~79年に全10作続いた映画「トラック野郎」(鈴木則文監督)には、使われなかった2冊の幻の台本が存在する。「トラック野郎 危機一発」「トラック野郎 雪の下北・はぐれ鳥」がそれで、作品を熟知する東映関係者は「シリーズで最高傑作になり得た内容」と明かす。鈴木監督(5月15日死去、享年80)も生前、お蔵入りを「悔しい」と語っており、ファンならずとも気になるが、一体どのような内容だったのだろうか―。
長距離トラックの運転手、星桃次郎(菅原さん)とやもめのジョナサンこと松下金造(愛川)が巻き起こす派手で過激な大衆娯楽活劇として愛された「トラック野郎」。全10作の他に、お蔵入りした2作の台本が存在した。
「―危機一発」(澤井信一郎・田中陽造脚本)は、桃次郎が一目ぼれするマドンナ香織が、記憶喪失という設定。桃次郎のプロポーズを受けた瞬間、過去の記憶をすべて取り戻すが、同時に桃次郎との記憶は失われる。喜びと寂しさで揺れ動く桃次郎が描かれていた。
またこの脚本には「シャブの運び屋」「タンカー炎上の危機」「ニトログリセリンの輸送」という別の柱もあり、ダイナミックで緊迫感ある展開に。九州が舞台の6作目の準備台本として書かれた。これが映画化されていれば、夏目雅子さんが記憶を失うマドンナを演じた可能性が高い。実際の第6作「―男一匹桃次郎」で夏目さんが演じたのは「剣道三段の女子大生」と話も役も全く異なっていた。
幻の台本のもうひとつ「―雪の下北・はぐれ鳥」は映画「Wの悲劇」のメガホンで知られる澤井氏のシリーズ唯一の単独脚本。正月公開の8作目の準備稿として書かれた。桃次郎が旅まわりの一座と知り合って親交を深めていく設定が物語の軸となっている。
観客もそれを望んでいたのだろうが、作品を重ねるごとにトラックの存在が肥大化していた。再び作品を人間と人間の物語に戻したい、という澤井氏の気概に満ちた力作だった。しかし、東映は正月作品としては、全体的に落ち着いたトーンであることから、採用を見送る。関係者の一人は「これが使われていればシリーズ最高の傑作になっていたかもしれません」と惜しむ。
今年5月に逝った鈴木監督も「あの幻の2作をいつか復活させたい。撮ったらおもしろいものになる」と思い続け、何度も台本を読み返していた。“相棒”を失った愛川も「若い人でも、これらの脚本を読んで映画にしたい、とか何か感じて思ってくれると幸せだよね」と話している。