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 米ボストン・マラソンでの爆弾テロから15日で2年がたった。実行犯として起訴されたジョハル・ツァルナエフ被告(21)は有罪を言い渡され、死刑を適用すべきかどうかの審理が始まる。米当局は「おとり捜査」で類似事件の事前摘発に必死だが、テロ計画を一緒に準備したり手伝ったりする手法に、「行き過ぎ」との批判も出ている。

■ボストンテロから2年

 15日、ボストン・マラソンのゴール近くで最初の爆弾が爆発した午後2時49分に合わせ、ボストン市内には教会の鐘が響き、黙禱(もくとう)が捧げられた。マーティー・ウォルシュ市長はこの日を、市民が互いに優しさや寛容さを示す「ワン・ボストン・デー」にしたい意向だ。

 ツァルナエフ被告の公判は、事件現場から約3キロ離れた、連邦地裁で続けられている。米メディアによると、本人は落ち着いて審理でのやりとりを聞いており、8日に有罪の評決を言い渡された際も、動揺した様子は見せなかった。

 これまでの公判の中で、検察側は事件の計画性や、発生後にツァルナエフ被告が通常の生活を送っていたことを挙げて、悪質さを強調。過激な思想を抱いていたとも主張している。

 連邦捜査局(FBI)の捜査官は、ツァルナエフ被告がツイッターで、アルカイダ系組織のリーダーとして米国への攻撃を呼びかけていたアンワル・アウラキ容疑者(2011年に米軍が無人機で殺害)に心酔する内容や、「天国に行きたい」との趣旨を発信していたと証言した。

 また、事件後に逃走していた際、隠れていたボートの壁に書いたという言葉も証拠として提出された。そこには「米国政府は罪のない一般市民を殺している」「私はこのような悪が、罰せられずにいることに耐えられない」と記されており、検察側は「動機を示している」と主張した。

 一方、弁護側はツァルナエフ被告の関与は認めつつ、すでに死亡している兄のタメルラン・ツァルナエフ容疑者が事件を主導したと主張している。これまでは検察側の証人にもあまり反対尋問せず、弁護側証人として4人を尋問しただけだが、量刑に向けての審理ではさらに強い主張を展開するとみられる。罪状についての審理では発言しなかったツァルナエフ被告に対する被告人質問が実施されるかどうかも、焦点だ。

 米国の刑事裁判では通常、量刑は裁判官だけが判断するが、死刑が求刑される場合は陪審員が改めて関与する。さらに、極刑を言い渡すには、12人が一致しなければならない。極刑を適用するかどうかの審理は21日に開始予定で、最終的な判決は5月以降になるとの見方が出ている。

■「ホームグロウン・テロ」

 事件をきっかけに、米国では自国内の若者が過激化し、テロに走る「ホームグロウン・テロ」の危険性が改めて指摘された。その後も国内の若者たちが、相次いで摘発されている。

 今年だけでも、ワシントンの連邦議事堂への攻撃を計画したオハイオ州の20歳の男性や、爆弾を使ったテロを計画したニューヨーク州の28歳と31歳の女性、米軍基地の近くで爆弾をしかけようとしたカンザス州の20歳の男性が、FBIに逮捕された。

 裁判所に提出された書面によると、ニューヨークの事件で逮捕された容疑者の1人は、ボストンの事件に何度も言及。爆弾を作るのに使われた圧力鍋に「とりつかれている」などと発言した。ツァルナエフ兄弟と同様に、アルカイダ系組織がインターネットで公開している爆弾の作り方のマニュアルなどをダウンロードし、製造するための材料の調達法も調べていた。また、米国などによる過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆を批判し、「自分の国が攻撃されているのと同じだ」と語っていたという。

 容疑者たちの逮捕の発表にあたって、連邦検事は「米国内で過激化した活動家による攻撃を発見、中断、防止するため、可能な限りのことをしている」と発言。今後も摘発に力を入れると強調した。

 ニューヨークの事件が実行に移される前に発覚したのは、覆面捜査官による「おとり捜査」の役割が大きい。捜査官は、13年から容疑者への接触を続け、爆弾製造の計画を把握し、ISを支持する発言をひそかに記録していた。さらに、計画への「協力者」を装い、インターネットで爆弾の製造法を探すことを手伝ったり、爆弾をしかけるべき場所について話し合ったりもしていた。

 オハイオ州、カンザス州の事件でも、FBIへの情報提供者が、テロ計画を促したり、一緒に準備したりしていたという。「おとり捜査」は米国では合法だが、「行き過ぎ」との批判もある。

 人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は昨年、摘発事例のうち27件を調べた結果、捜査手法に問題がある事例が複数あったと報告。特に、FBIが金銭を支払っている情報提供者らを活用して、おとり捜査をしている点を問題視。「FBIのおとり捜査によって対象者は行動を促されており、法律を順守する個人がテロリストに仕立てあげられた可能性もある」と指摘している。

 調査にかかわったマリア・マクファーランドさんは「精神的に弱かったり、若くて貧しかったりする人がおとり捜査の対象になりやすい」と話す。「ボストンのような事件もあったので、捜査が必要なのは間違いないが、素直な若者をそそのかして『容疑者』に仕立てる必要はない」と指摘する。(ニューヨーク=中井大助)

     ◇

 〈ボストンテロ事件〉 2013年4月15日、ボストン・マラソンのゴール付近で二つの爆弾が爆発。3人が死亡し、200人以上が負傷した。容疑者の兄弟はボストン郊外のウォータータウンで警察と銃撃戦になった。兄は死亡し、逃走した弟は十数時間後に警察に拘束された。