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【社説】

大学と国旗国歌 自主自律の気概こそ

 国立大学の卒業式や入学式で日の丸掲揚、君が代斉唱を求める安倍政権の動きは、大学の自治を脅かす圧力になりかねない。統制を強めるほど、教育研究は色あせ、学問の発展は望めなくなる。

 事の発端は、安倍晋三首相の国会答弁だ。先週の参院予算委員会で、国立大での国旗掲揚や国歌斉唱について「税金で賄われていることに鑑みれば、教育基本法の方針にのっとって正しく実施されるべきではないか」と述べた。

 下村博文文部科学相はこれを受け、学長らに要請する考えを示した。もっとも、職務権限はないから「お願い」するという。法令の裏付けを欠く口出しは控えるべきだろう。

 大学の自治は、憲法が定める学問の自由を守る砦(とりで)である。教育研究はもちろん、人事や予算、施設管理といった学内の運営に対する外野からの干渉は許されない。だからこそ、九年前の教育基本法の改正では、大学の自主性、自律性の尊重を義務付ける条文が盛り込まれたのではなかったか。

 安倍首相の念頭には、基本法がうたう国と郷土を愛する態度を養うという目標があったのかもしれないが、国旗掲揚や国歌斉唱の形式を強いたところで、愛情が育まれるとも思われない。

 法的拘束力があるとされる小中高校の学習指導要領には掲揚や斉唱を実施する決まりがあるが、それが招いた教育現場の混乱はいまだに尾を引いている。

 二〇〇四年の園遊会での一幕があらためて思い出される。

 東京都教育委員だった棋士の故米長邦雄氏が「日本中の学校で国旗を揚げ、国歌を斉唱させるのが、私の仕事です」と語ると、天皇陛下は「やはり強制になるということでないことが望ましいと思います」と返されたのだった。

 文科省によれば、八十六の国立大のうち、今春の卒業式では七十四校が日の丸を掲揚し、十四校は君が代を斉唱した。それぞれの大学の自主的、自律的な判断の結果で、多寡は問題ではあるまい。

 少子化も進み、大学の経営環境は厳しい。国立大は法人化されてからも、国からの交付金に頼らざるを得ず、国にとってはグローバル化や競争力強化といった注文を付けやすくなっている。

 それよりも、大学は世界の平和と人類の福祉に貢献するという原点を忘れないでもらいたい。真理を探究し、新しい価値を創造する。日本の未来のためにも、自治の精神を貫く気概を持つべきだ。

 

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