新聞などのコピーエディター(原稿整理編集者)たちと聞けば、言葉が時代とともに変化することを認めない、頭の固い伝統主義者だと思うかもしれない。だが、2週間ほど前にピッツバーグで開かれた全米コピーエディター協会(ACES)の年次会合に出席したとき、完全に文法を無視しているとして長い間非難されてきた使い方が、ますます受け入れられるようになっていることに気付いた。それは「they」を単数代名詞として扱うことだ。
標準的な文法では、「they」およびその類似形はtheyに先行する複数形の三人称の名詞または代名詞を指し示す。しかし、英語には性別による区別のない単数形の三人称代名詞が極めて限られていることから、文法学者にとっては非常に心外ながら、「they」が過去数世紀にわたってその目的のために無理やり使われてきた。そして今、単数形としての「they」の使用を極力避けてきた人々がその態度を変え始めているかもしれない。
先行する単数の名詞が一般的(総称)とみなされるとき、つまり、一人の特定の人物を指していないときには「they」が単数形として使用されることが最も多い。例えば、「Nearly everyone would find that they can stomach the “they” in this very sentence」というまさにこの文では、ほぼ全ての人(everyone=三人称単数代名詞)が、それを受ける代名詞として「they」(複数形)を使うことに違和感がないという点で意見がほぼ一致している。
「they」に先行する名詞が明らかに一人の人を指しているときにはもっと複雑になる。例えば、このコラムのある読者(a reader=単数)は、「A reader of this column may not like what they see in this sentence」というこの文の言い方が気に入らないかもしれない。
それでも、「they」のほうが、男性と女性の両方を指すための「he or she(彼か彼女)」や「he/she(彼/彼女)」、「(s)he(彼(女))」といったもっとぎこちない選択肢より自然な言い方であることは間違いない。こうした選択肢の全ては、総称代名詞としての「he」の代わりとして使うことを狙ったものだ。こういう「he」の使い方は、1970年代に性差別的でない言葉を好む動きが活発になって以来、ますます避けられている。
全米コピーエディター協会の会合で、例えば、私が参加した「辞書編集者に聞いてみよう」というセッションなどで、単数形としての「they」という話題が何度も何度も持ち上がった。このセッションには、米メリアム・ウェブスターや米アメリカンヘリテージ、英オックスフォードといった辞典出版社の関係者が参加していた。
「they」が単数代名詞としての役割を果たせるかどうかを問い詰められ、同僚の辞書編集者たちと私は既に約7世紀にわたってそうなっていて、シェークスピアやジェーン・オースチン、英詩人チョーサーの作品にも登場していると指摘した。
メリアム・ウェブスターの共同編集者、エミリー・ブリュースター氏はこの質問を聴衆に向けた。単数形としての「they」を使うことを阻む唯一の障害となっている人たちは、これをますます受け入れるようになっているのだろうか、と。その障害とは、この使用法を編集でカットする責任を負っている、コピーエディターたちのことだが。
最近、トランスジェンダー(性転換者)の問題が中心となって、性差別的でない代名詞を求める声が高まっている。単数形を指す「they」は、一つの性から別の性に転換する誰かに対して固定的な役割を割り当てずに済む。そして、性転換者の多くは、「he」あるいは「she」よりも「they」という代名詞を使うことを好むようだ。
スウェーデンでは、同じような議論を経て、「hen」という代名詞がますます受け入れられるようになっている。これは、1960年代以降、「han(英語のhe)」や「hon(英語のshe)」に代わる語として提案されてきた。「hen」を推進している人々の取り組みが来週、実を結び、スウェーデン・アカデミーの公式辞書の新語1万3000語の中に含まれる予定だ。
英語で、スウェーデン語の「hen」に相当する語が見つかるだろうか? 何年にもわたって、「thon」や「xe」、「ze」など、数十個の性別による区別のない代名詞が提案されてきたが、どれも広く使用されるようにはなっていない。「they」には実際によく使われているという利点があり、文法にこだわる人たちさえもようやく受け入れ始めている可能性がある。