圧力をかける方は“圧力”と言わない
―政党が中立な報道を求めることと、圧力をかけるというのは全然違うことだと思います。先程の「報道ステーション」の例については、それほど説得力がないので、もう少し具体的な例を出してほしい。政府や政党という権力側が個人のジャーナリストや雑誌、報道局に圧力をかけたという具体的な例を出してもらますか?
古賀:さっき申し上げた「報道ステーション」の時に、そういう話ができなかったというのは、別に私が圧力を受けて出来なかったのではなくて、つまらない議論に時間がとられてしまって出来なかったということで圧力の話ではないです。
一番知られているのは、例えばこないだの選挙の前に自民党が、「一般論です」といいながら在京のキー局、大手テレビ局に選挙にあたっての報道について注意事項というのを書いて「要請」という形で文章を出しました。
「これは圧力ではない」という風にとることも論理的には排除できませんが、この文書が どういう扱いを受けたか。各テレビ局の中で。
もしこれが「圧力ではない」と考えられているのであれば、この文書というのはもらっても、どこかに破いて捨ててもいいですし、本来であれば、「こんなもの来ました。ひどいですね」というのを放送すべきだと思いますが、それはどこもしませんでした。
じゃあこれを破いて捨てたかというと、私はいくつかの放送局に聴きましたけれども、むしろ、これを関係するところに配布をしている。もちろん文章として「こういうのが来ているのでみんな委縮しましょう」と書いてあるわけではないですが、こういうものが来ましたよと。一応伝えていると。これは圧力だと受け止めてですね、問題を起こさないようにということで考えざるを得ません。
これはずっと報道されなくて、結局ネットのニュースで「ノーボーダー」というところが最初に報じたのですが、それを受けてもテレビ局は放送しなかったですね、ニュースで。むしろ隠しておきたいというような感じになったのですが、それは何故かというと、それを出したら自民党に何をされるかわからないという恐怖感があるのだと思います。
それからもう一つ、それは一般的な注意事項みたいなものでしたが、最近また「ノーボーダー」がスクープで出していましたけれど、自民党から「報道ステーション」のプロデューサー宛に特定の日付の番組の内容について抗議をして。それは要するにアベノミクスのおかげでお金持ちがすごくもうかっていますというビデオを流したのですが、それがけしからんという内容の抗議文章、抗議といっても言葉はもちろん「ちゃんとやってくださいね」というお願いなんですけれども、そういうものも出ている。
そして、それも隠されているというようなことが、具体的に目に見える形で感じられる一つです。
―明日、自民党に放送局の人たちが呼ばれているというが?
古賀:これはいろんなところで報道されていますが、私自身は発表文などは見ていませんが、明日自民党の情報通信課、放送を扱う部会があるらしく、そこにテレビ朝日の私の放送の問題、3月27日私があそこで発言したこと。それからNHKの「クローズアップ現代」という番組が夜19時半からやっていますけれども、ここでヤラセが起きたんですね。その2つの問題を取り上げるのだろうということで、二つのテレビ局の責任者を呼び出しているという状況です。
これも自民党ですから。他の政党であれば、拒否することもできるだろうし、反対論を述べることも容易だと思いますけれども、自民党というのは政権与党ですから、自民党からよばれていかないというのは、テレビ局から見ると非常に怖いという感覚を受けるんだと思います。それから、そこで自民党にワーワーといろいろ言われた時に、それに反論するのも非常に怖いと。
これはまぁ言わない方がいいかもしれませんが、「集団リンチ」的な状況になる恐れもある。もちろん、こういう状況ですから言葉はすごく選んで丁寧に丁寧に質問をするという形になると思いますけれども。
そもそも政権与党が番組の編集について、口を挟むということ自体が実は放送法違反なんですね。よく放送法4条で「公平・公正」といったようなことを自民党は言うのですが、その前に3条という条文がありまして、この3条では「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」という条文があるのですが、明らかにこれに違反している。
私は是非ですね、テレビ朝日にもNHKにも自民党のこの呼び出しは断ってほしいと思うんですね。もし本当に自民党がどうしても話したいというのであれば、「どうぞ我が社にお越しください」と。「それを生で放送しながら議論しましょう」ということをやってほしいと思います。
―菅官房長官会見で、今回の件が質問が出て「まったく政府側は圧力をかけていない」と言っているが、それをどう考えるか?
古賀:日本のメディアでしたら“官房長官様”のおっしゃることはそのまま伝えるということだと思いますが、これをそのまま受け取っているジャーナリストというのは非常に少ないだろうなと思います。さっき言った通り、その人自身が変えられてしまったという人は、「あぁなるほど」と思うかもしれませんが、私は権力の座にある人が発する言葉というのは、普通の一般市民が発する言葉とはまったく質が違うと思うんですね。
ですけど、安倍政権、安倍総理自身が国会で発言をしていましたよね。「私にも表現の自由がある」というようなことを言っていましたけれども、憲法の立憲主義というものをまったく理解していないんじゃないかなと思うんです。
放送法3条ということで、「介入しちゃいけませんよ」と。もちろん政府ですから法律に基づいて何かをするのはいいのですが、明日の会議は自民党ですから。自民党が、正式には何の強制力もないのですが、「俺たちは政権与党だぞ」という事実、背景を口には出さないけれど、相手が充分認識しているという前提で、呼び出すと。そして、番組の個別の放送について議論をします。これは「議論だから圧力じゃない。単なる質問過ぎない」というんですけれども、その背景には放送法の免許というのがあって、聞く人が政権与党の人だと。
圧力というのはかけた方は圧力とは言わないんです。いじめと同じで、いじめた人はいじめじゃないというのと同じ。相手がどういう風に受け取るのかというのをよく考えた上で、自分たちの大きな力というものを充分に認識したうえで、間違った形でそういう「表現の自由」とか「言論の自由」に負の影響を与えないようにと配慮してものを言うべきだと思うのですが、そういう姿勢が全く感じられない。そういうことだと思います。
菅さんの言葉でいえば、何事も“粛々と”進められているということだと思います。であれば、放送局は、菅さんが「圧力じゃない」と言ってるんですから、「圧力じゃないんですね、勝手にやらせてもらいます」ということで、明日の会議はキャンセルしていただきたいと思います。
・古賀茂明氏 記者会見 主催:日本外国特派員協会 - ニコニコ生放送
関連記事
・古賀茂明氏の発言に対し菅官房長官「事実に反するコメント、極めて不適切」・「これで自由に発言していける」〜古賀茂明氏が報道ステーションの放送終了後にネット生出演
・「ニュースと全く関係のないコメント」古舘氏、古賀茂明氏の発言について報道ステーション視聴者にお詫び -
・「政権批判を自粛する空気が社会やマスメディアに広がるのを危惧する」 作家や映画監督、ジャーナリストら言論人が「声明」を発表
・ネットと新聞・テレビのユーザに"大きな乖離"、報道の現場に自粛の空気も…古賀茂明氏らが訴え
FOLLOW US