2015年04月16日
出版社倒産数、2014年度は前年度の150%の46社。その真因は市場冷え込み「ではない」
出版社の倒産が増えている。2014年度は前年度+50%増の46社にも達した。
こちらの記事では理由は「書籍販売低迷」+「消費税増税による市場冷え込み」と分析している。
しかし出版社の現場にいる身としては、この分析はやや甘いというか、少し的外れだ。
まず大きな流れとして出版不況があるのはたしかだ。それは認める。増税による市場冷え込みも、ないとは言えないだろう。
しかしここに来て50%も増えているのは、もっと直接的に消費税「改定」による影響なのだ。消費税率が上がろうが下がろうが、出版界には大きな赤字要因となる。
どういうことか説明しよう。
そもそも1989年の消費税導入の際、政府は各業界団体に、「内税か外税か」希望を募った。それを考慮して、それぞれ決まった。そこまで配慮したのは、消費税導入に対する世論が厳しく、民意に配慮したからだ(と言えば聞こえがいいが、早い話、衆愚政治の類)。
このとき出版業界は内税を選んだのだ。これがそもそも大きな間違い。当時の私も外税にすべきと強く感じていた。
内税が有利な点とされていたのは、たとえば以下だが、私には弥縫策というかごまかしにしか思えない。
●区切りいい価格に設定でき、店頭の精算で混乱が起きない
<外税でも税込みで区切り良くなるように設定すればいいだけのこと
●一見、税金が見えないので、割安に感じられる
<ごまかしの類だろう
ところが出版界には、内税が不利な点が実は大きい。税率が変わったときの対応が大変なのだ。出版(特に書籍)は多品種少量生産のビジネスで、しかも在庫を大量に「書店店頭」という市中に長期間置いておく特異性がある。
外税、つまりたとえば「1500円+税」とかの表示なら、その在庫は、増税してもそのまま継続販売できる。ところが内税表記1500円の場合、実質は「1456円+税3%」なわけで、これが5%に上がると、増刷の際は変えて印刷すればいいとして、在庫の表紙や奥付に「1529円」(つまり1456円+税5%)というシールをすべて貼らなければならない。
この手間が馬鹿にならない。結果として、その後の販売があまり見込めない書籍の場合は、増税をきっかけに絶版、回収、廃棄といった道筋を辿ることになる。
これは実際、3%から5%に上がった1997年に起こったことだ。その結果、大量の書籍が絶版になったし、出版社も潰れた。
絶版は理解しやすいだろうが、なぜ潰れるか。
実質赤字(つまり売れない)書籍でも、在庫を撒いてある限りは、それが表面化しない。仮の売上は出荷時に立つ。この仕組みを利用して、「苦しい出版社ほど、新刊点数を増やす」実情がある。
つまり早い話、自転車操業って奴だ。売上を確保できる反面、大量の市場在庫という「時限爆弾」が溜まっていく。それぞれの書籍は徐々に返本されるので、時限爆弾はゆっくりと解体されてゆく。出版は水物なので、その間になにかひとつでも大ヒットすれば、「ひと息継げる」というわけだ。
しかしそうやって稼いだ「売上」は、大量在庫というリスクの上に成り立っているもの。これが消費税増税のときに一気に返本され廃棄処分となる。つまり赤字の大爆発を起こす。――これが「消費増税の際、出版社が大量に倒産する」大きな原因だ。
雑誌中心の出版社は単に低迷だろうとか、今回も個別にはいろいろな事情があるはずだが、大きな底流になっているはずだ。
少子高齢化で日本社会から所得税納税者が減るのは当時から明白で、となれば社会の維持のために消費税等の間接税をどんどん上げるしかないのも、これまたはっきりしていた。それなら勤労者以外からも社会的サービスに見合った税収を得られるから。
つまり消費税は海外並の20数%まではどんどん上がるのが必然だ。それが見えていて、かつ出版流通の事情をよく知りながら内税を選ぶとは。
出版不況はもう15年以上続いており、苦し紛れの自転車操業出版社は増える一方。それが去年の増税の際、表面化したというのが、この倒産激増の真因だろう。
まあ、こっちは現場で頑張るしかないよね。
こちらの記事では理由は「書籍販売低迷」+「消費税増税による市場冷え込み」と分析している。
しかし出版社の現場にいる身としては、この分析はやや甘いというか、少し的外れだ。
まず大きな流れとして出版不況があるのはたしかだ。それは認める。増税による市場冷え込みも、ないとは言えないだろう。
しかしここに来て50%も増えているのは、もっと直接的に消費税「改定」による影響なのだ。消費税率が上がろうが下がろうが、出版界には大きな赤字要因となる。
どういうことか説明しよう。
そもそも1989年の消費税導入の際、政府は各業界団体に、「内税か外税か」希望を募った。それを考慮して、それぞれ決まった。そこまで配慮したのは、消費税導入に対する世論が厳しく、民意に配慮したからだ(と言えば聞こえがいいが、早い話、衆愚政治の類)。
このとき出版業界は内税を選んだのだ。これがそもそも大きな間違い。当時の私も外税にすべきと強く感じていた。
内税が有利な点とされていたのは、たとえば以下だが、私には弥縫策というかごまかしにしか思えない。
●区切りいい価格に設定でき、店頭の精算で混乱が起きない
<外税でも税込みで区切り良くなるように設定すればいいだけのこと
●一見、税金が見えないので、割安に感じられる
<ごまかしの類だろう
ところが出版界には、内税が不利な点が実は大きい。税率が変わったときの対応が大変なのだ。出版(特に書籍)は多品種少量生産のビジネスで、しかも在庫を大量に「書店店頭」という市中に長期間置いておく特異性がある。
外税、つまりたとえば「1500円+税」とかの表示なら、その在庫は、増税してもそのまま継続販売できる。ところが内税表記1500円の場合、実質は「1456円+税3%」なわけで、これが5%に上がると、増刷の際は変えて印刷すればいいとして、在庫の表紙や奥付に「1529円」(つまり1456円+税5%)というシールをすべて貼らなければならない。
この手間が馬鹿にならない。結果として、その後の販売があまり見込めない書籍の場合は、増税をきっかけに絶版、回収、廃棄といった道筋を辿ることになる。
これは実際、3%から5%に上がった1997年に起こったことだ。その結果、大量の書籍が絶版になったし、出版社も潰れた。
絶版は理解しやすいだろうが、なぜ潰れるか。
実質赤字(つまり売れない)書籍でも、在庫を撒いてある限りは、それが表面化しない。仮の売上は出荷時に立つ。この仕組みを利用して、「苦しい出版社ほど、新刊点数を増やす」実情がある。
つまり早い話、自転車操業って奴だ。売上を確保できる反面、大量の市場在庫という「時限爆弾」が溜まっていく。それぞれの書籍は徐々に返本されるので、時限爆弾はゆっくりと解体されてゆく。出版は水物なので、その間になにかひとつでも大ヒットすれば、「ひと息継げる」というわけだ。
しかしそうやって稼いだ「売上」は、大量在庫というリスクの上に成り立っているもの。これが消費税増税のときに一気に返本され廃棄処分となる。つまり赤字の大爆発を起こす。――これが「消費増税の際、出版社が大量に倒産する」大きな原因だ。
雑誌中心の出版社は単に低迷だろうとか、今回も個別にはいろいろな事情があるはずだが、大きな底流になっているはずだ。
少子高齢化で日本社会から所得税納税者が減るのは当時から明白で、となれば社会の維持のために消費税等の間接税をどんどん上げるしかないのも、これまたはっきりしていた。それなら勤労者以外からも社会的サービスに見合った税収を得られるから。
つまり消費税は海外並の20数%まではどんどん上がるのが必然だ。それが見えていて、かつ出版流通の事情をよく知りながら内税を選ぶとは。
出版不況はもう15年以上続いており、苦し紛れの自転車操業出版社は増える一方。それが去年の増税の際、表面化したというのが、この倒産激増の真因だろう。
まあ、こっちは現場で頑張るしかないよね。
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