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2015-04-15

お砂糖とスパイスと王子と爆発大盛りで持ってこい!!溢れる女の子の夢だけでできた珍作『ジュピター』

| お砂糖とスパイスと王子と爆発大盛りで持ってこい!!溢れる女の子の夢だけでできた珍作『ジュピター』を含むブックマーク お砂糖とスパイスと王子と爆発大盛りで持ってこい!!溢れる女の子の夢だけでできた珍作『ジュピター』のブックマークコメント

 ウォシャウスキ姉弟の新作『ジュピター』を見てきた。一言で言うと「宇宙プリティ・プリンセス」みたいな…

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 ヒロインジュピター(ミラ・クニス)はロシア系アメリカ人で、母やおばと掃除婦をやり、うるさい家族の干渉に耐えながら細々と暮らしている。ところがジュピター宇宙のかなりの部分を支配しているアブラサクス一族の亡き女王の生まれ変わりであることがわかり、アブラサクス家の覇権を狙うバレム(エディ・レドメイン)、カリーク(タペンス・ミドルトン)、タイタス(ダグラスブース)のきょうだいの争いに巻き込まれる。ジュピター暗殺される寸前に傭兵ケイン(チャニング・テイタム)によって救われ、女王として即位するが…

 この映画、とにかく出来がひどい。まず脚本がいろいろ問題で、なんか地球がすごい危機に陥ったりするのだがそれが不用意に解決してもう地球の危機とかいらなかったんじゃないのかという気持ちになるし、他にも細かいところでいろいろ整合性がない。さら編集ブツ切りみたいな感じで、余韻を一切与えず突然爆発したりする。ウォシャウスキ姉弟、マイケル・ベイになったのか?

 しかしながらこのひどい映画最初から最後まで徹頭徹尾女の子の夢だけでできている。もしあなたがかつて乙女しかもあまりパッとしない乙女であって、世間的にはなかなか一致しないと言われている乙女ロマンチック妄想と、伝統的には男の子の夢と言われてきたが実は女の子の夢でもある宇宙への憧れの間で引き裂かれていた経験があるのならば絶対に必見だ。この映画は『トワイライト・サーガ』や『ダイバージェント』なんかめじゃないくらいのレベルで女の子の夢がこれでもかと詰め込まれた映画である、のだが、ただおそらくものっすごく少ない数の女の子しかアピールしない。

 ヒロインジュピター毎日早起きして掃除する暮らしがつらくて現実逃避したいと思っている平凡な若い女性だが、突然お姫様だということがわかる(もうここで既に乙女妄想が具現化したというレベルの展開である)。なんかよくわからないうちに女王になり、いろんな男に追いかけられるようになり、ワイルドセクシーボディガード狼男が護衛してくれるようになって(狼男以上にセクシーものなんてあるのか?対抗できるのはヴァンパイアくらいだ)、なんと宇宙船に乗った王子様(実はクセ者)も迎えに来てくれる(白馬に乗った王子様なんてもう古い、時代宇宙船に乗った王子様だ)。ジュピターのっぴきならない事情でこのイケメン王子結婚することになり、明日からビョークの影武者がつとめられそうなものすごいヘッドドレスをつけて結婚の祭壇に立つが、王子の悪巧みを心配した狼男が青髯の花嫁となりかけたヒロインを『卒業』よろしく結婚式の場から奪いにやってくる。ジュピターがどんなへまをやってもこのワイルドセクシー狼男が死亡寸前のところで助けに来てくれて、盛大に惑星一個分くらいの大爆発があったあと、最後はなんと翼を持つ天使存在になった狼男と結ばれ(狼で天使とか相反するセクシーさをアウフヘーベンしててもうヤバい)、故郷に戻ってデートしておしまいである

 。おそらくジュピター全然かっこよくないボーっとした普通女の子であるのがポイントで(ミラ・クニスがボーっとした普通女の子役とかいい度胸だと思うが)、何か面白いことないかなーと思っていたら次から次へと冒険がめぐってくるわ、さらに何の取り柄もないのにチャニング・テイタムが愛してくれるわで、おそらく女子はこの「ジュピター普通女子である私」として感情移入しろってことなんだろうと思う…が、私はミラ・クニスが何の役にも立たないだたの女の子役とか全然見たくないし、爆発に気を取られすぎて全く感情移入できなかったこともあり、このヒロイン設定はかえってあざとくて全く機能してないと思った。とはいえムダにチャニング・テイタム背中を見せる場面が挿入されているあたりはあざといけど釣られるな…

 …と、いうことで、次から次へと中学生女子レベルの妄想が繰り広げられ、さらに展開の都合が悪くなるとビルが倒壊したり機械が火を噴いたりするので、なんだかもうお砂糖とスパイスに王子と爆発てんこもりにしたみたいな、(特殊な)女子の夢で胸焼けする映画になっている。見ていて気恥ずかしくなるレベルで女子妄想爆発なので、とりあえず宇宙に夢を見たことがあるかつての乙女は是非映画館に行って、あまりのひどさに仰天して帰ってきてほしいと思う。このひどい映画は間違いなく「わたしたちの映画」だが、でもこの「わたしたち」の数はまあ10人くらいかもしれない。