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女は社会進出したが、男は「家庭進出」していない

2015/4/16 6:00
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 共働き家庭において、妻の家事・育児の負担が平日・日曜ともに夫より重いという結果があります。女性の社会進出は進んでも、男性の「家庭進出」はまだ進んでいません。統計データを使い、「共働き夫婦の1日の活動」について考えてみましょう。

 こんにちは。武蔵野大学講師の舞田敏彦です。人間の生活は、睡眠・食事などの第1次行動、仕事・家事などの第2次行動、休息・レジャーなどの第3次行動という領分があり、共働き夫婦においてはこれらの比重の均衡がとれている状態が望ましいと判断されます。

 今回は、共働きママ・パパのトータルな1日を描いた統計図を見ていただこうと思います。といっても、働きながら子育てをしておられる皆さんの関心事は、仕事や家事・育児の比重がどれほどかでしょう。よって、この部分に焦点を当てられるのもよろしいかと思います。妻と夫の図柄の違いにも注目。ここで提示する素材を、いろいろな角度から眺めてみてください。

■共働きママは朝6時から戦闘開始

 総務省の「社会生活基本調査」から、1日の各時間帯(15分刻み)の生活行動分布を知ることができます。たとえば朝の7時15分~30分の時間帯において、寝ている者が何%、食事をしている者が何%、通勤している者が何%……というようなデータです。これらをつなぎ合わせることで、1日の生活行動図ができ上がります。私は、6歳未満の子がいる共働き夫婦の図を作ってみました。まずは、平日の妻の図をご覧いただきましょう。

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 夜中は大半が寝ていますが、朝6時頃からちらほらと起き出し、洗顔などの身の回りの用事(雑事)や朝食の準備などに勤しみます。子どもを起こし、食事・着替えをさせ、保育所に送るなどの育児も朝のタスクです。

 こうした「闘い」の朝を終え、9時以降になると仕事の領分が大きくなります。パート等のママも含まれていますので、だいたい半分くらいです。残りは変わらず、自宅で家事や育児を続けています。午後は休養や趣味などの第3次行動がちょっと増えますが、夕方になると保育所のお迎えや夕食の準備など再び慌ただしくなります。

 ひと息つけるのは、子どもをお風呂に入れ、寝かしつけた21時以降でしょうか。その後は就寝ですが、育児の領分が深夜にもあることに注目。夜泣きをする子をあやしたりするのも、この中に含まれるでしょう。幼子の育児は、24時間にわたることもうかがわれます。

■日曜も、夫より妻のほうの負担が重い

 乳幼児がいる共働きママの1日(平日)をみたのですが、家事・育児が結構な比重を占めています。図1を全体的にみると、1日の四角形の4分の1ほどがピンク色ないしは黄色です。

 それでは、パートナーの共働き夫の図はどういう模様でしょうか。妻と夫の図を左右に並べてみました図2)。先ほどの図の行動カテゴリーを5つに簡略化しています。自由時間とは、テレビ・新聞、休養・くつろぎ、学習、趣味、スポーツ、ボランティア、交際をまとめたものです。

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 妻と夫では、図柄が大きく違っています。もっぱら、青色とピンク色の面積の違いです。平日では家事・育児をする夫はとても少なく、夜の時間帯に5%ほど(20人に1人)がやっている程度です。妻にとって頼みの日曜でも、夫のピンク色はさほど大きくなく、日中に子どもの遊び相手を少しするくらいでしょうか(1割ちょっと)。日曜では、「仕事+家事・育児」の第2次行動の領分が、明らかに「妻>夫」である点にも要注意です。

 夫婦の仕事時間や家事・育児時間は平均値で示されることが多いのですが、このような1日の生活行動分布図でみると、いびつな実態がよく伝わってきます。仕事にもまして、家事・育児の分担の偏りは顕著です。わが国の人口の再生産が、女性の(無償の)見えざる「シャドウ・ワーク」にいかに依存しているかが分かるというものでしょう。

 最近、女性の社会進出の必要性がいわれていますが、そのための重要な条件は男性の家庭進出です。後者を欠くことは、女性にダブルの負担を強いることと同義です。手元にデータがないのですが、女性の仕事時間はここ10年ほどでかなり増えていることでしょう。しかしそれに見合う形で、男性の家事(育児)時間が増えているのかというと、怪しい気がします。その結果、先ほど述べたような悪い事態になっているのではないか……。こういう懸念も持つのです。

■殺される確率が一番高い年齢は何歳か

 ちょっと怖い統計をお見せしましょう。私は社会病理学を専攻しており、いろいろ物騒な統計を集めているのですが、殺される確率が一番高い年齢は何歳かご存じでしょうか? 授業で学生に尋ねると「血気盛んな20代」という答えが返ってきますが、さにあらず。じゃあ体が弱った高齢者かというと、そうでもありません。

 答えをグラフで示します。図3は、2009~2013年(5年間)の他殺被害者数の年齢グラフです。

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 最も多いのは、生後間もない0歳の乳児です。ダントツです。この中には、交通事故や転落などの不慮の事故死は含まれず、他者による人為的な力によって命を落とした人間の数です。よって0歳の死亡者の大半は、いわゆる虐待死であるとみられます。

 加害者の素性はこの統計からは分かりませんが、児童相談所に寄せられる虐待相談の統計で見ると、加害者の多くは母親です(厚労省「福祉行政報告例」)。上図の他殺統計は、夫の家事・育児の協力が得られず、子育てならぬ「孤育て」を強いられている母親の苦悩を表現しているように思うのですが、いかがでしょうか。

 この図を学生に見せてレポートを書かせたところ、「結婚して子どもができたら家事をちゃんとしようと思いました。男が家事なんてと思ってたけど、考えが変わりました」(原文ママ)と書いてきた男子学生がいました。皆さんがどう思われるかは分かりませんが、こういう事実があることを申しておきたいと思います。願わくは国会議事堂の廊下の壁にでも貼って、議員の方々にも見ていただきたい。「男性の家庭進出、待ったナシ」です。

舞田敏彦
 1976年生まれ。東京学芸大学大学院博士課程修了。博士(教育学)。武蔵野大学、 杏林大学兼任講師。専攻は教育社会学、社会病理学、社会統計学。著書に『教育の使命と実態』(武蔵野大学出版会)、『教職教養らくらくマスター』(実務教育出版)など。近著は『平均年収の真実 31の統計から年収と格差社会を図解【データえっせい】』(impress QuickBooks)

[日経DUAL2015年3月11日付の掲載記事を基に再構成]

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