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「創造力は才能じゃない」 IDEO創設者が教える、クリエイティブへの苦手意識を克服する方法

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「創造力は才能じゃない」 IDEO創設者が教える、クリエイティブへの苦手意識を克服する方法

IDEO創設者でスタンフォード大学教授のDavid Kelley(デヴィッド・ケリー)氏は「批判されることへの恐れが、創造力を阻んでいる」と指摘します。恐怖に慣れることで創造性への自信を取り戻すべきだと熱く語りました。(2012より)

【スピーカー】
IDEO創設者 スタンフォード大学教授

【動画もぜひご覧ください!】
David Kelley: How to build your creative confidence

批判されることへの恐れが、創造力を阻んでいる

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デヴィッド・ケリー氏:今日は、みなさんに「創造性の自信」についてお話ししたいと思います。

話はオハイオ州バーべトン、オークデール小学校3年生の時に遡ります。今でも覚えていますが、私の親友ブライアンがあるプロジェクトに取り組んでいました。彼は教室の流し台の下に置いてある粘土で、馬を作ろうとしていました。同じ机にいた女の子がそれを見て、「ひどい作品ね、ぜんぜん馬には見えないわ」と彼に言ったのです。

ブライアンはがっかりして粘土を丸めると、流し台の下に戻しました。その後、ブライアンが同じようなプロジェクトに取り組むことは一度もありませんでした。このようなことが他にどれだけ起こっていることでしょうか?

私が授業でこの話をすると、クラスが終わってから生徒が来て、同じような経験があると打ち明けてくれます。先生に批判されたり、他の生徒にバカにされたりということはよく起こるのです。そしてそれをきっかけに、自分には創造力がないと思い込んでしまうのです。

子ども時代にその思い込みを持つと、創造的なことから遠ざかり、大人になってからそれが固定観念となり創造的なことから身を引いてしまいます。

今でもそういう状況をよく目にします。仕事上、クライアントを交えてワークショップを行いますが、会話があるレベルに達すると、つかみどころのない話になりがちです。そうすると経営上層部の人の中にはブラックベリーを取り出し、急に「大事な要件を思い出した」と言って会議を飛び出してしまうのです。

彼らはとても居心地が悪いのです。後で、「どうしたのですか?」と聞いてみると、「自分はクリエイティブなタイプではないのでね」という返事が返ってきます。

でも、それは違います。最後まで粘り強く会話を続ければ、信じられないようなアイディアが生まれるのです。そして、彼ら自身もいかに自分たちがイノベーションに長けているかに驚くのです。

ですから、私は「批評されることに対する恐れ」について考えてきました。それは、自分がやった創造的なことに対して批判されることを恐れて、はじめからそれをやらないことです。そして、心理学者のアルバート・バンデューラ氏に出会って大きな進展があったのです。

恐怖症克服のメソッドは、「恐怖」を「慣れ」に変えること

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皆さんはバンデューラ氏をご存知でしょうか? ウィキペディアによると、歴史上4番目に重要な心理学者と位置づけられています。

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ですから、フロイト、スキナー、誰か、そしてバンデューラといったところです。

(会場笑)

バンデューラ氏は86歳ですが、未だにスタンフォード大学で働いています。彼はとても親しみやすい人です。彼は恐怖症について長年研究していましたので、私は彼のもとへ話を聞きに行きました。彼は恐怖症を克服する方法を開発していました。それはたった4時間ほどの短時間で効果を発揮するメソッドでした。

いろいろと話をする中で、ヘビに対する恐怖症を克服する話題になりました。彼はヘビの恐怖症の人を研究室に招き、「隣の部屋にヘビがいますが、一緒に行ってみましょう」と言います。彼らは「絶対に行くものですか!」と答えます。

しかしバンデューラ氏には段階を踏んだプロセスがあり、とても効果的でした。彼はまずマジックミラーを通して恐怖症の人にヘビを見せます。その後、いくつかのステップを踏んで、今度は部屋の入り口まで行きます。戸を開けたまま見せてその状況に慣れさせます。

その後更にいくつかの段階を経てヘビに近づき、皮の手袋をはめて実際にヘビに触れるところまで行きます。最終的にその人たちは何も問題なくヘビに触れることができたのです。それまでの人生で恐れていたヘビに触り、手で持ち上げて、「なんて美しいのでしょう」とまで言う人もいるのです。膝に乗せることができる人もいます。

バンデューラ氏はこの手法を、「誘導されたマスタリー(熟達)」と呼んでいます。いい言葉ですね。この人たちはヘビに対する恐怖を克服しただけでなく、それまで抱えていた他の恐怖心や不安までもが消えたのです。

彼らは自分の恐怖に立ち向かい、突き進み新たな自信を得ることができたのです。バンデューラ氏はこれを「自己効力感」と呼んでいます。それは自分で世界を変えられると信じること、そして自分の本来の目的を達成することです。

私にとってバンデューラ氏との出会いはカタルシスのようでした。この有名な科学者が記述し科学的に確証した手法を使って、私が過去30年間に出会った「創造性に対する恐怖」を持つ人たちをその恐怖から解放することができると思ったからです。

段階を踏んで、「恐怖」を徐々に「慣れ」に変えてゆくのです。その変化に彼ら自身も驚くのです。実際に大学でも変化をもたらした人たちを目にしていますが、その効果は信じられないほどです。あらゆる分野の人たちがいますが、その多くは分析力に長けています。

彼らはその手法に従い、最後には自分自身をそれまでとは違って見るようになります。彼らは、自分たちがクリエイティブな人間であるということに大きな喜びを感じるのです。

子どものMRI検査が、恐怖体験から冒険に変わる?

今日はみなさんに、これがどのような変化のジャーニー(旅)なのかをお話ししたいと思います。

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私にとってこのジャーニーは、ダッグ・ディーツ氏に象徴されています。

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ダッグ・ディーツ氏は技術者です。彼はMRIをデザインする仕事に携わっています。彼はGEで働いていて、素晴らしいキャリアを積んできました。しかしある時彼は、大きな壁にぶち当たっていました。

彼は自分がデザインしたMRIが使用されている病院にいました。病院には小さな女の子のいる家族がいて、女の子はMRIを怖がって泣いていました。その時彼は、MRI検査を受ける8割の小児科患者が麻酔をかけなければならないことを知りました。

ダッグはその数字に落胆していました。それまで彼は、自分の設計した機械が人々の命を救っていることに誇りを持っていました。しかしその機械が、子どもたちに大きな恐怖を与えていることに心を痛めたのです。

その頃彼は、スタンフォード大学で授業を取っていました。彼は私たちの授業で、デザイン・シンキングや感情の共感、プロトタイピングなどについて学んでいました。そして彼は、自分の学んだ知識を更なるレベルで発揮したのです。

彼はMRIでスキャンされることを、それまでとは全く新しい経験にしたのです。これが、彼の作品です。

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(会場笑)

彼はMRIをアドベンチャーに変えたのです。彼は壁や機械に絵を描きました。そして子どもを熟知した子ども博物館スタッフによる、MRIオペレータの研修を行いました。MRIを海賊船に見立て、「船」の構造や騒音について説明させました。

子どもたちには、「これから海賊船に乗り込むけれど、海賊に見つからないようにじっとしているんだよ」と言って聞かせました。

結果は、まさに劇的でした。以前は8割の子どもたちが麻酔しなければならなかったのが、1割に抑えることができたのです。病院側も、常に麻酔科医を呼ぶ必要がなくなり、以前より多くの子どもを検査することができるようになり喜びました。

量的な結果もさることながら、ダッグにとって質的な結果の方が重大でした。彼はある日、MRI検査に入った女の子を待っている母親のそばにいました。検査室から出てきた女の子は、「お母さん、明日もまたここに来ていい?」と言ったのです。

(会場笑)

私はダッグがこのデザインの打開策について語るのを何度も聞いていますが、その女の子の話が涙なしで語られることはありません。

人は皆、創造性を持って生まれてくる

ダッグの話は病院が舞台です。実は私も病院には縁がありますので、少なからず状況はわかります。数年前、私は首の横にしこりを見つけました。今度は私がMRIに入る番でした。それはガンだとわかりました。悪性のガンでした。

私の生存率は、約4割だと言われました。検査室の前で、色白で痩せたパジャマ姿の患者さん達と一緒に自分の検査を待っている間に、あらゆることが頭をよぎります。その多くは、「自分は生きられるのだろうか?」ということ、そして「私がいなくなったら娘の人生はどうなるのだろう?」ということでした。

他にもいろいろ考えました。例えば、「私はこの世に何をするために生まれてきたのだろうか?」ということです。幸い私には、たくさんの選択肢がありました。例えば、健康やウェルネス分野、小・中・高校、途上国支援など、たくさんのプロジェクトがありました。

しかしその時私が1番取り組みたいと思ったことは、創造性を失った人たちの自信を取り戻す手助けをすることでした。ですから、もしも生き延びることができれば、できるだけ多くの人たちを助けたいと思いました。

念のため申し上げておきますが、私は生き延びることができました。ほら、このようにね。

(会場笑)

私は大学でもIDEO社でも日々目にしていますが、人々は自分の自信を取り戻したとき、彼らの人生にとって1番大切なことに取り組み始めるのです。それまでやっていたことを辞めて別な方向に進み始めるのです。

彼らはたくさんのアイディアを生み始め、そこから自分で選び始めるのです。そして、それまでより優れた判断を下します。

TEDは、「世界を変える」というのが大きなテーマですよね。違いますか? 私に言わせるならば、これこそが世界を変えるものだと言えます。ですから、思考のリーダー的存在であるみなさんにお願いがあります。

それはまるで、神から授かったかのように世界を、「クリエイティブな人たち」対「クリエイティブでない人たち」に二分しないでほしいのです。そして、周りの人たちに「人は皆、創造性を持って生まれてくるのだ」ということを気づかせてあげてください。人々はそれぞれのアイディアを放出させるべきです。

人々はバンデューラ氏が「自己効力感」と呼ぶスキルを発揮し、自らの創造性に自信を持って、生まれてきた本来の目的を達成するべきなのです。そして、ヘビにも触れてほしいのです。ありがとうございました。

※ログミーでは、TED Talksおよび各TEDxの定めるCCライセンスを遵守し、自社で作成したオリジナルの書き起こし・翻訳テキストを非営利目的のページにて掲載しています。

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