今国会の焦点となる安全保障法制は、戦後日本の安保政策の歩みを根っこから覆してしまうような巨大な法案である。

 第一に、日本防衛の文脈。集団的自衛権の行使を容認し、他国への攻撃でも、新3要件のもとで武力行使を可能にする。

 第二に、同盟強化の文脈。米軍艦船などを守れるようにし、周辺事態法の地理的制約もはずして後方支援を拡充する。

 第三に、国際貢献の文脈。他国軍への後方支援や国連PKOはもとより、PKO以外の平和協力活動も拡大する。

 それぞれの課題が複雑に入り組み、論点も多岐にわたる。それ以外にも、自衛隊による邦人救出など多種多様な規定が盛り込まれる見通しだ。

 これまで自衛隊が実績を積み重ねてきた国土防衛やPKOなどと、そのほかの活動拡大を同列には論じられない。それなのに政府与党は、すべて安保法制という大きな袋に入れ、一気に成立をはかろうとしている。

 そのなかで見失ってしまうことがないか。「安全保障環境の変化」があるにせよ、安保法制だけが、その対応の「解」なのか。国民の間に、理解が広がっているとは思えない。

 統一地方選の前半が終わり、自民、公明両党による与党協議が再開した。3月20日の協議ですでに安保法制の方向性に合意していたが、選挙結果への影響を懸念した公明党の意向でいったん中断していた。

 それが今度は、月末に予定される日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の改定や安倍首相の訪米に向けて、再び議論が急ピッチで進みそうだ。

 こうした運び方ひとつとっても、政府与党の姿勢は容認しがたい。安保法制の本質と日本の将来像を語り、覚悟と理解を求める気があるのだろうか。

 国際貢献での後方支援を定める恒久法の名称は「国際平和支援法」となっているが、戦争に参加する現実を表しているとは思えない。本来は後方支援法か他国軍支援法とでも呼ぶところだ。戦争支援という実態を糊塗(こと)する意図があるのではないか、と勘ぐりたくなる。

 この恒久法について自民党は国会の事前承認の例外を求め、それを認めない公明党と溝が生じている。だが、国際貢献にそれほど緊急性があるとは思えない。公明党が例外のない事前承認を求めるのは当然だ。

 なにより、自衛隊の海外派遣は慎重であるべきだ。議論が拡散し、焦点が見えにくくなっているが、この原則をゆるがせにしてはならない。