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2015-04-14

明日、そのまた明日も、メソッド役者はクズ〜『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

| 明日、そのまた明日も、メソッド役者はクズ〜『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を含むブックマーク 明日、そのまた明日も、メソッド役者はクズ〜『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のブックマークコメント

 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を見た。

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 主人公落ち目ハリウッドアクションスターリーガン(マイケル・キートン)。かつて『バードマン』というシリーズ一世を風靡したがしばらくの間鳴かず飛ばずで、起死回生の一打としてブロードウェイに進出し、レイモンド・カーヴァーの『愛について語るときに我々の語ること』を自分舞台化・主演して再起をはかろうとする。リハーサル降板した俳優のかわりとして、共演者であるレスリー(ナオミ・ワッツ)の恋人マイク(エドワード・ノートン)が雇われるが、マイクは才能はあるがとんでもなくイヤな野郎。才能あるクズに脅かされ、初舞台不安リーガンは精神がどんどん不安定に…

 これ、舞台好きにとってはたまらない作品だと思う。基本的劇場を動き回るリーガンや協働者たちの動きをほとんどワンショット(!)で撮っており、このコンセプトがむちゃくちゃ演劇的でまず心惹かれる。舞台映画の最も大きな違いというのは舞台には狭義のショット概念がないことだと思う。つまり映画は短いコマ編集でつながれるが、一方で舞台視点を固定して場面が継続するという決定的な違いがある。ところが、この映画映画なのにショット編集がほとんどなく、全部継続しているような撮り方になっている。私は常々、映画記憶芸術(人間記憶は長い場面じゃなく、短い映像構成されてる)だが舞台進行形人生についての芸術(人生うんざりするほど継続している)だと思っているのだが、このほぼワンショットみたいにリーガンのボロボロライフを見せる『バードマン』はまさにどうしようもなく流れていってしま進行形人生についての作品だ。またまた、何日間かのことを描いているのにワンショット(つまり、実際の時間の経過とショット内での時間経過が一致してない)という大胆な時間の省略も、『オセロー』やら『冬物語』で起こるような舞台芸術時間圧縮に似ているように思うし、途中で一度カメラがほとんど何もない空を映したまま止まって朝が来る、という演出舞台の暗転にそっくりだと思った。またまた飛行機の中で見たのであまり注意を払えなかったところもあるのだが、全体的に不安と緊張がそのまんま表現されているような音の使い方、とくに即興ジャズみたいな音楽の使い方がとてもうまく、ワンショット継続していく映画にぴったりの不穏な臨場感があったと思う。

 と、いうわけで、舞台好きにはたまらない作品であるわけなのだが、ただ個人的にこの映画が好きでたまらない点がもうひとつある。それは、この作品メソッド役者クズだということを前面に打ち出していることである。私はもともと舞台におけるメソッド演技やリアリズムを大変嫌っているのだが(それについてはこちらの『マリリン 7日間の恋』や『ブラック・スワン』のレビューでさんざん書いた)、この映画に出てくるメソッド演技代表であるエドワード・ノートンがとにかくイヤな野郎で、リアリティを追求するため舞台でうまくいってないガールフレンドレスリーと無理矢理セックスしようとするなど(!)、とにかく人格問題がありすぎる。このリアリティクズ野郎マイク精神的に圧迫され、バードマン幻覚に取り憑かれるリーガンの姿はちょっとブラック・スワン』っぽいし、最後は「舞台リアリティを追求する」という方向にいってしまうのだが、とにかく舞台に対する偏見まみれのひどい映画だった『ブラック・スワン』と『バードマン』の触感が非常に違う点は、最後のほうでリーガンの弁護士親友であるジェイク(ザック・ガリフィアナキス)が出てくるあたりから、「やっぱりホントのことなんてつまんないよ」「ちょっとした夢が必要だよ」みたいなメタ視点が導入されていることであるリアリズム至上主義を一歩引いて相対化するようなシニカル視点がこの映画には常にあると思う。

 またまたおそらくこの映画はいろいろな作品と関連があり、そのあたりも考えると面白そうだ。レイモンド・カーヴァー小説はもちろん、作中では『マクベス』の有名な「明日、また明日…」という所謂トゥモロースピーチ」が引用されており、目に見えない亡霊を見てしまマクベスとまぼろしに悩むリーガンの姿が巧妙に重ねられている。さらに「落ち目アクションスター人格問題があるメソッド役者」というテーマは『トロピック・サンダー 史上最低の作戦』に似ているし、また全然知られてない映画だと思うのだが日本未公開のA Bunch Of Amateurs(『トーシロの集まり』)にも似ている(バート・レイノルズ演じる落ち目ハリウッドアクションスターが、宣伝のためUKで『リア王』のチャリティ公演に挑戦するが、いろいろ行き違いが…というバカコメディ)。このあたりと関連づけて考えるとさら面白いかもしれない。あと、この間読んだこの本↓で「通常、映画ではドアを通り抜ける時は抜ける前と後でショットを分けるが、報道映像ではそうでもない」という議論があって、言われてみるとワンショットで通り抜け感を出している『バードマン』はちょっと報道映像に近いのかもとも思う。

 なお、この映画はたぶんベクデルテストパスしないのではないかと思う。レスリーとローラはかなり会話するのだが、だいたい男性のことで、演技やお互いの話になっても結局男性のことになってしまうからな…

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