2015年4月15日17時19分
フィギュアスケートの世界国別対抗戦(16~19日、東京・代々木競技場)に初出場する羽生結弦(ANA)に、けがや病気に苦しみながらも奮闘した今季を振り返ってもらった。
■人生で忘れられない3カ月
――尿膜管遺残症で手術を受けてからの3カ月をどう振り返りますか。
「長かったです。苦しい、つらい、楽しい、幸せという色々な思いがあって表現しきれませんが、僕の人生で絶対忘れることができない期間でしたし、気持ちや体の調子の落差がありました」
――一番焦ったのは、練習再開後の右足首捻挫でしたか。
「一番焦ったのは、捻挫する前です。開腹手術をした執刀医の先生や病院の方のご尽力で、すぐに滑ることができました。筋力不足やちょっとした突っ張りがあって、感覚が数ミリでもずれるとジャンプは跳べなくなる。それを捻挫で逆に気がつけたのではと思います」
――世界選手権(中国・上海)の直前練習まで、試合への入り方を研究していました。
「現地に入ってうまくいかなかったところもあった。ただ、練習はベストとは言えないかもしれないけど、できることをすべて出し切れた。僕自身、ピーキングはやったことが無かった。若干意識していましたし、捻挫をしたことでピークがちょうど良くなるかなと思ったけど、少し早かったですね。でも今思うと、ピークが早く来て本番で演技ができる自信があったからこそ、後半まで気を抜かずに表現できたと思っています」
――3月初めから本格的な練習をして、直前にピークに到達するには相当な集中力が必要でした。
「ジャンプができない期間があったことで、これだけジャンプしなかったら調子が悪くなるとか、ジャンプをしすぎると逆に悪くなっていくという感覚がつかめた。自分のピーキングについて考えるきっかけになりました」
――何か参考にしたものはありますか。
「とにかく自分の感覚次第です。フィギュアの練習は特殊なので、本などを参考にするよりも僕自身が考えるしかないと思っています。長く練習してしまうと、けがのリスクが高くなるし、集中が切れるタイプ。短時間でいかに効率がいい練習をするかを常に考えつつ、スタイルにあった調子の上げ方を考えていた時期ではありました」
――今季の悔しさは、世界選手権の「悔しい」という一言に集約されますか。
「悔しくない試合ってないんですよ。ノーミスしたとしても、多分ここが課題だったと感じる試合しかないと思うんです。引退するまでは、課題を見つけられる場だと思うので。その感覚をいつも以上にもらえたシーズンでした」
――世界国別対抗戦までにチャレンジしたいことはありますか。
「ないです。世界選手権後の2週間で今度こそ試合にピークを合わせられるかどうかですね。今回の世界選手権では調子がいい段階から、落ちるところまで落ちた。4回転ジャンプはミスをしましたが、それでも世界選手権で2位に入るくらいの演技ができるというのは、すごく自信になりました。ピークを合わせることは大切ですが、ピークでない時も練習では跳べる。じゃあどうすれば試合で跳べるのかという点を、反省として生かしたい」
■「スポーツ界を盛り上げたい」
――この先はどんなチャレンジを。
「目の前のことを消化するだけです。悔しい思いはネガティブに受け取られますが、僕にとってはすごくポジティブなイメージ。悔しい気持ちは、先に進もうとしているって意味だと思うので。ポジティブさはそのままに、ネガティブな気持ちをポンと捨てた勢いで前に進めたらいいなと思います」
――プログラム後半の4回転ジャンプはできなかった。
「来季はやる予定ではいます。ただ、足の状態を見る必要があるし、手術したおなかの状態も簡単に良くなるわけではない。けがが続いたのは自己管理不足だと思います。自分ですべきことを常に考えながら、日々成長していければと思います」
――ジャンプの数や種類は。
「4回転ループをやりたい気持ちは無きにしもあらずですが、『可能性を示唆』ということではありません。すべてを出し切りたいけど、自分のできることが、まだループまで広がっていない。これからループに取り組んだ時に、徐々に上げてきたスケーティングやステップ、スピンのレベルも高める余裕があるのか。プログラムとしてのバランスを見た時、何を一番やらなくてはいけないのかを常に考えたいです」
――羽生選手は「自分はアスリートだ」とよく口にしますが、フィギュアスケートは芸能的な面もある。羽生選手の考えるアスリート像は。
「競技者です(笑)。自分の中では結構葛藤があるんです。好きな夢を追い続けたら、何でこんなにも世間の目を気にしながら生きていかなければならないのかと。ただ、僕はやっぱり競技者だし、好きなことをやっている。まずスケートができる喜びを感じたいと今は思います」
――今季の苦難は今後の人生に生きると言っていました。引退後の人生をどう考えていますか。
「今は何も決まっていませんが、スケーターとしてだけじゃなく、アスリートとしてレクチャーや講演ができる立場になりたいです。昨年11月の中国杯は直前練習で選手と衝突して、脳振盪(しんとう)の恐れもありました。ラグビー、アメフット、サッカー、バスケットなど体をぶつけ合う競技もある。中国杯のような経験をしたからこそ、脳振盪にはこういう危険性があるということを、説得力を持って伝えられると思います。もちろん医務的な話だけでなく、五輪の経験も生かして、これからのスポーツ界全体を盛り上げられる存在になりたいと思っています」
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