音楽はサービス提供者のものか、アーティストのものか。
Jay Zが新音楽ストリーミングサービス「TIDAL」をオープンさせた。TIDALは既存のサービスであったがJay Zが今年1月に5600万ドルで買収。TIDALは月額9.99ドルから始められる定額制ストリーミング・キュレーションサービスで「高音質」「独占配信」を武器に世界31カ国で開始される(残念ながら日本は含まれず)。立ち上げに先駆け公開された動画ではカニエ・ウエストを始め、Daft Punk、Alicia Keys、Rihanna、そしてもちろんJay Z、Beyonceといった多数豪華アーティストが音楽業界の未来についてディスカッションしているシーンが収められている。2分間の映像とはいえ、どんな音楽番組やフェスでも集められない面々が、自身の口でこれからの音楽の在り方について語る映像というのは非常に貴重だ。
2003年、アメリカ5大レーベルを説き伏せiTunes Storeをオープンさせて以来、音楽とリスナーの関係を変えていったのはいつもサービスだった。しかしSpotifyをはじめとした音楽ストリーミングサービスが普及し、そのiTunes Storeをも脅かすようになった現在、音楽はただただリストを揃えるだけの買い叩かれる存在になりつつあるのではないか。Spotifyの方針に反発し、テイラー・スウィフトが全曲を取り下げたのも記憶に新しい(結果フォーチュン誌で”偉大な指導者 50人”の一人に選ばれた。また彼女の楽曲はTIDALで配信される)。アーティストであり経営者でもあるDr.Dreは自身の配信サービス、そしてプロダクトであるbeatsを昨年Appleに売却してしまった。アーティストに正統な対価が払われていないのではというサービスとアーティストの断絶、Jay Zが新たにサービスを立ち上げたのにはこういった背景が重なってのことだろう。アーティストなのに、ではなくアーティストだからこそサービスを立ち上げる、これがアーティスト達が今の音楽業界に対して行える最大のアクションではないだろうか。