美の巨人たち 横山大観『或る日の太平洋』最晩年の富士の絵に託したメッセージ 2015.04.11


3月14日北陸新幹線が開業しました。
春の行楽シーズン北陸への旅が楽しみになります。
『美の巨人たち』も北陸へ。
目的地は立山連峰そびえる富山。
東京から2時間6分で到着です。
ある画家が富山を旅したのは明治35年のこと。
その年に三度も北陸を旅し立山を描きました。
真っ白な雪に覆われた幻想的な山の風景。
日本の風景を愛し描き続けた…。
旅は画家の心を…視覚を刺激しました。
そんな大観が生涯にわたり繰り返し描いてきた風景があります。
富士山です。
その数はおよそ1,500点。
今日はその中の一枚です。
最晩年84歳の画家が描いた富士の物語を。
全国でも唯一の水墨画専門の美術館です。
門をくぐると広い日本庭園。
展示室以外は無料で開放され散策を楽しめます。
美術館はこの平屋の建物。
その画家の展覧会が開催されています。
旅を愛し富山をこよなく愛した人です。
画家が最晩年に描いた富士がここに。
今日の一枚…。
縦およそ1m36cm。
横およそ70cm。
縦長の画面に太平洋と富士山が描かれています。
まるで富士の山へ向かって進んでいるような波はしぶきを上げ激しくうごめいています。
暗く荒れた海は黒い霧へと変わりその中からすっと突き出て白い頂を輝かせる富士。
稲妻が走り荒れ狂う波間に一匹の龍が見えます。
波に飲み込まれようとしているのか?それとも這い出そうとしているのか?目に見えるものと架空の生き物が渾然一体となった不思議な富士の絵です。
さて今日の案内人は大観に刺激されこんな趣味を持った部長とその部下です。
おっ部長また撮影旅行ですか?北陸新幹線開通したからさちょっとね。
え?北陸新幹線に乗るんですか?うん。
いいなぁ!僕チケット発売日に徹夜で並んだけど取れなかったんですよ。
キミもしかして鉄道好き?ええ実は。
ハハハ。
ところで目的地はどこなんですか?ん?富山でちょっとね。
立山連峰で撮影ですか?この時期ちょうどいいですね。
実はね富山で大観先生の展覧会をやっててね。
大観先生?日本画家の横山大観ですか。
ああ。
僕がこのカメラを買ったのは実は大観先生のを真似てのものなんだよ。
古いカメラですね。
何ですか?これ。
ローライコード。
ローライコード?ああ。
大観先生も旅をするときはカメラを持参しててね。
まぁ僕は絵が描けないから写真で先生の気持を感じようなんて思ってるんだよ。
でも富士山でしょ?大観といえば富士ですよ。
僕だってそれくらいは知ってますよ。
そうだよあの富士も撮影に行ったんだけどねあの絵のような富士は写真にはできなかったなぁ。
あの絵のような富士って?凡人には無理だ。
いやだからどんな富士ですか?天才になるとね見えないものが見え現実以上の美しさが見えるもんなんだよ。
部長どうしたんですか?あ…これ。
ん?今日の一枚『或る日の太平洋』。
大観はこの作品を描くまでに多くの富士を描いてきました。
画家として最初に描いた富士が…。
27歳の時です。
初めて公式の展覧会に出品した作品の一つでした。
咲き誇る秋の草花。
遠景に富士が見えます。
しかし若い頃に富士を描いた作品はほとんどありませんでした。
その理由を大観の孫隆さんは…。
非常に少ないです。
富士を題材にした絵は以前からありました。
江戸時代には北斎や広重の富士が人気となりのちにヨーロッパでも評価されました。
岡倉天心は過去の巨匠たちを超える富士を描けるのかそれを問うたのです。
そして50歳を目前にして本格的にあの霊峰を描き始めるのです。
そもそも大観はなぜ富士にこだわり続けたのか?最晩年に描いた黒い霧の中の富士。
荒れ狂う太平洋波間に舞う龍の意味とは。
タイトルの「或る日」とはいつのことなのか。
この一枚に画家が込めた思いとは。
横山大観は…。
10歳の時に家族で上京し21歳で東京美術学校現在の東京藝術大学に第一期生として入学します。
明治維新後日本は西洋化が進み芸術の世界にも洋画ブームが到来。
画家を目指す若者たちの多くが洋画に向かうなか大観はあくまでも日本の芸術にこだわり新たな時代の日本画を作り出そうとしました。
それは東京美術学校の恩師岡倉天心の教えでもあり大観は天心のもとで仲間たちと新しい日本画に挑戦していくのです。
新たな技法も生み出しました。
日本画特有の輪郭線をなくした描き方でした。
ぼやけた絵と世間からは非難されますが大観は突き進んでいきます。
そして50歳を目前にした頃大観は富士に挑戦するのです。
でもなぜその富士山が特別なんですか?僕なんかこれも好きですけどね。
おおそれが好きか。
これはね第一期の作品だ。
第一期ってことは二期もあるんですか?うん大観が富士を描いた時期を3つに分けるんだ。
でこれは大観が大正6年に描いたものだから第一期。
第二期は60代に描いた富士。
日本に不穏な空気が流れ始めついには戦争に突入していく時代。
富士山の絵と時代と何か関係があるんですか?富士山は変わらないでしょ山ですよ山。
そう富士はいつ見ても変わらない。
でもね違うんだよ。
大観が描くと時代が見えてくる。
この『或る日の太平洋』にもだ。
横山大観が富士を描いた時期を3つに分けることができます。
第一期は大正6年から。
富士の造形的で装飾的な美が強調されています。
第二期は昭和3年から。
富士を神々しい日本の象徴とし日輪と富士の組み合わせが登場します。
第三期は昭和10年代後半です。
富士と海。
富士と松など日本の風土を賛美するかのような作品です。
『海山十題』が描かれたのは昭和15年。
第二次世界大戦ぼっ発の翌年。
大観の富士を研究している大熊さんは…。
軍は戦闘機の製作費に充てるのです。
このことで戦後大観は戦犯の容疑をかけられます。
しかし戦争を賛美していたのではありません。
しかし日本は敗れアメリカの占領下に…。
戦後再び大観は富士を描くのです。
それが今日の一枚。
『或る日の太平洋』。
日本の敗戦が描かせた富士。
そこにはどんな思いが込められたのか?荒れ狂う波。
富士にかかる暗い霧は混沌とした時代を表しています。
それでも富士はいつの時代も変わることなく輝き続ける。
敗戦後自信と希望をなくした日本人へのメッセージでした。
たとえ困難の中にあろうとも美しい日本はここにある。
凛とした姿の富士のように。
それは大観自身が求め続けた芸術無窮の美の再確認でもありました。
大観は富士を描くことがこの時代に最もふさわしいと考えたのです。
しかしそれだけではありませんでした。
あぁ要するにこの絵には戦争を乗り越えてきた画家だからこそ描けた深い思いがある。
だから部長はこの絵は写真にできないって言ったんだ。
いやっ僕龍がいるからかなと思いましたよ。
龍は写真に撮れないもんなって。
アハハハそりゃそうだ。
ええ。
でもなんで龍がいるんですか?富士山と龍って何か意味あるんですか?おぉお前もだんだん絵の見方がわかってきたね。
えっ?ハハハ…。
昭和27年に発表された横山大観の『或る日の太平洋』。
美術評論家野間静六がこの絵を見たとき「シュールレアリスムの絵」と評したことを大観は苦笑いしたと伝えられています。
確かに荒れ狂う海。
龍稲妻。
幻想的な富士は現実を超えています。
しかし大観は言います。
古典的な日本画の題材で目に見えない世界や象徴的なモチーフを組み合わせることは普通のことでした。
大観は日本の古典にこそシュールレアリスムを感じていたのです。
なかでも狩野派の絵に。
狩野派のなかでも永岳は初めて富士と龍を組み合わせた画家といわれています。
比べてみると同じ縦長の構図。
よく似ています。
そもそも龍が富士を昇る富嶽登龍には意味があります。
龍は自然の怒りをおさめる神龍神です。
江戸時代富士山の噴火をおさめるパワーを持つと信じられていたのです。
そして大観は龍に更なる思いを込めたのです。
それはいったい…。
横山大観は何度も富山を訪れています。
愛用のスーツケースカメラを持って。
そして富山の自然を描きました。
あっ部長!この絵富山ですよ。
ん?富山県の氷見ってとこです。
へぇ〜。
懐かしいな。
高岡から氷見線に乗って海岸線をずっと行くんです。
するとこの雨晴海岸が見えてくるんですよ。
ほう。
あの氷見線もいいんだよな。
そうよ〜しじゃあ行ってみるか。
富山県の高岡駅から出発するローカル線氷見線に乗って雨晴海岸へ。
ここに富山の名勝義経岩があります。
源義経が奥州平泉へ向かう途中降り出した雨から身を隠すために弁慶が持ち上げたという伝説の岩。
この風景を大観は描きました。
日が落ちかけた時間でしょうか。
うっすらと赤く照らし出された岩と波。
霞に浮かぶ幻想的な風景に大観は心惹かれたのかもしれません。
『或る日の太平洋』も黒い霧に包まれた幻想的な風景です。
そこにうごめく龍の意味とは。
時代をも映し出したという横山大観の富士。
大観が『或る日の太平洋』を描いたのは昭和27年です。
この年の日本は大転換期でもありました。
7年に及ぶ連合国による占領が終了。
日本が戦後の生き方を問われた時代です。
その年に描かれたこの龍には画家のある思いが。
大観は日本の復興と平和を祈り描いたのです。
荒波のように押し寄せた戦争に一度は飲み込まれそうになった日本。
龍は敗戦という混乱から這い上がり日本を救う神であり生きる力の象徴なのです。
荒波を振り払い霊峰富士へ向かおうとする龍。
そのパワーを持って日本はよみがえる。
日本人なら必ず成し遂げられるという大観の思いがこの龍には込められているのです。
画面の3分の2を占める太平洋は混沌とした時代を写し…。
富士を覆う黒い霧は人々の心を覆う不安。
しかし富士は真っ白に輝く…。
まさに無窮の美。
『或る日の太平洋』はその時代だからこそ描かれた富士なのです。
日本の平和と未来を託して…。
部長。
ん?『或る日の太平洋』の或る日っていつなんでしょうね?そうだな…戦争が終わって大観がやっと平和を感じたそのときかもしれないし…。
誰もが持っている或る日なのかもな。
なんだか富士山に行きたくなりません?今の時代今の自分が富士山を見たらどう見えるのか…。
一緒に行きましょうよ!え?でこのカメラで富士山を撮る!ハッお前と旅行はな…。
岳南電車っていうのがあるんですよ。
これ!ほら赤い車両にこの富士山の青とのコントラストが芸術的なんですよほら!ハハまあ気持はわかるけどなまずは北陸新幹線に乗せてくれよ。
せっかくチケット取れたんだから。
いいじゃないですかもう。
くださいよ僕に!なんでお前にやらなきゃいけないんだよ!いつも飲み代割り勘なんだから!俺がおごるときだってあるだろうが!大観は日本の美を愛し追求し続けた画家でした。
生涯描いた富士の絵はおよそ1,500点。
しかし最晩年のこの富士は特別です。
平和を思い日本を思い芸術を思い描いた富士。
横山大観作『或る日の太平洋』。
美しき日本よ永遠なれ。
2015/04/11(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 横山大観『或る日の太平洋』最晩年の富士の絵に託したメッセージ[字]

毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の1枚は、巨匠が最晩年に残した、横山大観作『或る日の太平洋』。

詳細情報
番組内容
▼4月からはナレーター小林薫&蒼井優、音楽は辻井伸行が担当!▼近代日本画の巨匠、横山大観(よこやま・たいかん)。大観と言えば富士山と言われるほど、繰り返し富士を描きました。今日の1枚は、そんな大観が最晩年に描いた作品『或る日の太平洋』。縦長の画面に太平洋と富士が描かれ、波は山に向かってしぶきをあげ激しくうごめいています。さらに黒い霧から突き出ている輝く富士。稲妻が走り荒れ狂う波間に見える一匹の龍。
番組内容の続き
そこにはどんな意味が?“或る日”とは一体いつのことなのか?さらに大観が富士にこだわり続けた理由にも迫ります。
ナレーター
 小林薫
 蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ

http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/

お知らせ
番組はこの春で15周年。5月には放送750回を迎え、さらなる発展を目指してバージョンアップ!ナレーターは、俳優・小林薫に加え、新たに女優・蒼井優が務めます。さらに音楽もオープニング&エンディングテーマをピアニスト・辻井伸行が作曲。その他、番組自体も、これまでより一層見やすくなるよう、各所に工夫をこらしていきます。放送16年目の『美の巨人たち』にどうぞご期待ください!

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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