3NHK短歌 題「何」 2015.04.12


「NHK短歌」司会の剣幸です。
今日も皆さんご一緒に短歌をお楽しみ下さい。
では早速ご紹介したいと思います。
今年度第二週選者の染野太朗さん。
そして今日のゲスト作家の中村文則さんです。
どうぞよろしくお願い致します。
(2人)よろしくお願いします。
まずは染野さん抱負をお願い致します。
番組に参加させて頂く事非常にうれしく思っています。
皆さんとご一緒に投稿頂いた歌を深く味わっていきたいなと思っています。
よろしくお願い致します。
そして染野さん最初の冒頭の歌この歌の意味は?いきなりちょっと難しい感じの歌になってしまったんですがまたあとのお話のコーナーで触れさせて頂ければと思います。
そしてゲストの中村さんと染野さん同い年という事で短歌への関心はいかがでしょうか?あまり詳しくないので今日は勉強しようと思ってやって来ました。
それは私も同じなんでございます。
よろしくお願い致します。
染野さんは中村さんの作品に特別な思いがおありだという事で。
中村さんの作品で最初に読んだのが「掏摸」という作品だったんですけれどもこちらにかなり衝撃を受けましてですねそのあとはその衝撃が強すぎて中村さんの作品手に取る事さえできなかったというそういう私にとって非常に思い入れのある作家の方に初回から来て頂きまして。
いやいやとんでもないです。
ありがとうございます。
ではその作品を読んで作った当時の短歌はまたあとでご紹介して頂きたいと思います。
では皆さんよろしくお願い致します。
では今週の入選歌です。
題は「何」または自由。
染野さんの選んだ九首ご紹介致します。
第一首です。
欠席なのでもうどうせ行かないんだから何言ったっていいと思うんですけれどもちょっと見栄を張りたいのか相手に心配させたくないのか感情の機微が伝わってくるようで非常にいいお歌だなというふうに思いました。
では次です。
ニキビができてちょっと違和感を感じたと思うんですけれどもそれを体全体で感じてしまってるんですよね。
何よりもちょっと自分の体を遠い所から客観視して物のように眺めているところが非常に面白いなと思いました。
次です。
鰺はもう死んでいるので「めしいゆく」目が見えなくなっていくというのは焼いて目玉が白くなっていく様子だと思うんですけれどもちょっと怖いような歌ですごく惹かれましたね。
中村さんどうですか?暗い雰囲気のする歌で僕はすごい好みです。
暗いのがお好き?何かいい感じです。
私暗いとは思わないんですけど残酷だなって。
やっぱり日本人ってそのまま姿のままを焼いて食べるという習慣にちょっとどっか弱いところはあるんですけれどそれがあとの方のところで「最後に海で見しものは何」生きていた所の魚というふうに生き物ってちゃんと捉えて食べていらっしゃるんだなというのがすごいすてきだなと思いました。
では次です。
工場とか機械を操る側の人間がむしろ逆に圧倒されているというか「僕らは中古」なんて言って。
その辺りが「人間対機械」そのテーマって決して新しくはないと思うんですけれども軽いユーモアの中に考えさせるところがあって面白いなというふうに思いました。
どうですか?「中古」ってそこまで言わなくてもいいんじゃないかって思いますけど僕これすごい好きですね。
自分たちにとって慣れ親しんだ機械ってあると思うんですよ。
そういった機械は今どこにあるのかなとか言葉に書かれていない事にまで想像が膨らむ。
とってもいい歌だと思います。
今よくありますよね。
新しいものがどんどんいろんなものが進むにつれてどんどん衰えてる自分というかそれはやっぱり中古って考えちゃうっていうのは私はすごいよく分かるなと思って。
中古とか考えずに頑張っていきましょう。
ここでエールを頂きました。
ありがとうございます。
そういう意味じゃないですけど今のはちょっとまずいな…。
では次です。
これ「何か」というのが非常によく利いていておいしいとかまずいとかだったら普通の場面なんですけどもほんとに謎になっちゃうんですよね。
「食べ尽くす」ですからどこか子供が怪物になったようなそういうようなイメージまで浮かんできますよね。
では次です。
待ち合わせに「きみ」が来なくて何度もメールを確かめているのかそれとも何かこう急に嫌なメールが来たのか分からないんですが心の冷え冷えとした感じがまずコーヒーに託されてそのあと急に新宿まで広がっちゃうっていう不思議な体の感覚なんかも出てるようなそういう歌というふうに思いました。
中村さん。
メールをずっと見ててだんだん我に返ってくるというかまずコーヒーが冷えてる事に気づいて町全体が冷えてるように気づくと。
この広がる客観視していく自分というのが少しコミカルにも書かれてて非常に味わい深いと思いました。
では次です。
「貴様何様」がまあ衝撃的な歌ですよね。
ただ何様と言いながらももしかしたらこの人にとって嫌な人ではないのかな?必ずしも嫌な人ではない。
「春が来るのに」という優しい収め方にそれが表れてるかもしれないなというふうに思います。
だからこそ貴様って言えるという感じですよね。
では次です。
「何にせよ」っていうのがこれほど暴力的な言葉だとは思いませんでしたね。
細部を無視してまとめちゃうんですよね。
「頑張りなさい」って。
それで下の句で反撃に転じるというかマニキュアなんか結構派手な事しちゃってなんて言ってずらして反撃しているその感じが非常に面白いなって思いました。
中村さん。
響きのリズムもとってもいいですしマニキュア別に派手でいいと思うんですけどそこを意地悪な感じで思うっていうのがとっても僕はこれいいと思います。
チクチクチクっていう感じですねお互いが。
情景が見える感じが…。
では次です。
さっきも歌で出てきましたけれども子供って時に大人の価値観からはみ出たリアクションとかとるんですよ。
寂しいとか悲しいではなくて恐らく好奇心が勝っている。
死に対する捉え方がそんなふうに出てくるのがなかなか興味深いなというふうに思いました。
以上入選九首でした。
特選の発表の前にゲストの中村さんと私が一席を予測といいますかこれではないかというのをちょっと選んでみましたので中村さんからお願い致します。
僕はこれです。
2人の人物像までこの短い言葉で見えてくるというか最初に言ってる人は人ごとのように頑張りなさいよみたいな事を言うんだけどそれに対して意地悪な事を思ってる。
もしくは言ったのかという情景が目に浮かぶようでこれは僕はとても好きな歌だと思います。
それが一席に。
そうですね僕のですけどね。
では私のです。
これ一席とかという事じゃなくて私自身さっきの鰺もそうなんですけど魚が生きてるのは大好きなんですけど死んじゃうとちょっと弱いと。
一番駄目なのがチリメンジャコなんです。
死骸の何とかって思えてそれが最初ゾクッとしたんですけど子供が何か分からないけどいっぱい口に頬張ってパクパク食べている様子っていうのが生き物を頂くってこういう事だなっていうふうにちょこっと思えて駄目だチリメンジャコは嫌いなんて言ってはいけないなって私が考えた一首でした。
ではまず三席お願い致します。
角浦万巳さんの歌です。
続いて二席です。
鈴木四季さんの歌です。
ではいよいよ一席の発表です。
村上徹さんの作品です。
あっ出ちゃいました。
「何か」っていうのがもうおいしいでもまずいでもなく「何か」っていうのが非常によく利いていて今回のお題の「何」っていうのが非常によく生かされた歌だなと思いました。
この子供は何か変な感じしますよね。
「食べ尽くす」という言葉がいいですね。
「食べ尽くす」というのが先ほども言いましたけど怪物のようなしかも先ほどおっしゃったようにチリメンジャコがワァーッとあるのをワァーッと食べちゃうわけですよね。
そうするとますます怪物な感じが。
私から見れば本当に怪物だという事になるんですけど。
「何」というのが非常によく生かされた歌だなと思いました。
入選作品のご紹介でした。
ではここで今回入選とならなかった作品から惜しかった一首を添削して頂きます。
はいこちらです。
恐らく子供の頃の純粋な思いとか素直な思いそれが失われてしまった現実を知ってしまったという歌だと思うんです。
これで魅力的なんですけれども空の話をしたいのか虹色の話をしたいのかちょっとぶれてしまうというところとこの人地上にいるのか飛行機に乗って空を見ているのかそれとも空想の中で空を感じているのかちょっと分かりにくいのでこうしてみました。
これで空を地上から見上げている様子も分かりますし「虹色」に焦点が当たるようになるかと思います。
映像がものすごく具体的に目に飛び込んできますね。
ありがとうございました。
では投稿についてのご案内です。
詳しくはこちらの「NHK短歌」テキストをご覧下さい。
今回の入選歌と佳作も掲載されます。
続いては選者のお話染野大朗さんの年間のテーマは「こころ・ことば・からだ」。
今日は「・・・・やうに」のお話です。
私年間を通してですね心と言葉と体の関係を歌を通して見ていきたい考えていきたいと思っているんですが今日は早速この歌ですね。
はいこちら。
ここにはですねこの人が別れに際して心で受け取った感覚それが体に与えられた感覚として表現されているんです。
今日はお二人に是非想像して頂きたいと思っております。
いかがでしょうか?一応想像してみました。
では中村さん。
髪を切らされるように別れるってものすごい切なくて悲しいんですけど勝手にそういう歌にしてしまったんですが「花摘みにゆき」っていう言葉もまたこれを入れると意味も変わってくるかなと僕なりにも思ったんですけど。
暗いってだけじゃなくて別れの残酷さみたいなものまで表現されますよね。
髪切るで最後「別れき」でリズムもいいかなとかよく分からないんですけど考えてみました。
硬い感じが出ててね。
すみません作家のあとにこんな私が…。
体に感じた衝撃っておっしゃってたんですけど波が岩にパーンって当たってそれがしぶきがパーンって思いのほか飛んで散ってしまったというのが体に当たる衝撃も同じようなものを受け取ったんじゃないかなっていう気がしてこうしてみました。
房総の海みたいなものも映像って出てきますよね。
じゃあお答えという事でお見せします。
「髪切らさるる」にも近いかもしれないんですけれども体でドーンと衝撃を受けて先ほどの海のイメージがあると海に突き落とされてしまうようなそれぐらいの衝撃がこの別れにあったんじゃないかと。
「房総」っていうのが何で房総って出てたのかなと思ったんですけどそういう事ですね。
かもしれないですよね。
なかなか別れの怖さつらさが体感として伝わってくると。
「つきとばさるる」なんてもう…。
はいありがとうございました。
では染野さんこの一首についてひと言お願い致します。
私のこの一首は大口さんの歌を読んでの感想といいますか考えた事が表現されてるかと思います。
「別れき」というので歌の世界は体感と共に終わってしまうんですけれども読者としてはむしろそこから遡っていろいろ想像しちゃいますよね。
どんな房総での出来事があったんだろうとか花摘みはあんなに楽しかったのにとか時間が逆走するなんてちょっと大げさかもしれませんがその辺りを表現してみました。
はいありがとうございました。
では続いてのコーナー短歌にまつわるドラマをご紹介致します。
染野さんこの歌の背景…。
先ほども申し上げたんですが5〜6年前にですね中村さんの「掏摸」という作品を読んで非常に衝撃を受けまして何とか歌にしようと思ったはずなんですけれども印象的な場面にストローの袋が出てくるんですね。
それを歌の中に詠み込んでみました。
ではまず歌のモチーフとなった「掏摸」の一場面を是非ご紹介させて下さい。
その場面を少し説明させて頂きます。
身寄りのない主人公はスリを繰り返す日々の中で母親に強制されて万引きを繰り返す子供と知り合います。
ある日主人公のあとをついてくる子供を喫茶店に連れて入ると子供はスリをしているところを見せてくれとせがみます。
ではその場面と染野さんの歌ご紹介致します。
中村文則「掏摸」より。
「子供はオレンジジュースが来るとそれを飲むのが大した事であるかのように視線を止めた真剣な表情でストローに口をつけた。
『…いいから帰れ。
俺はやることがある』『僕はそう言ったが子供はオレンジジュースだけを考えるように飲み続けていた。
『それ、見せてよ』『駄目だよ。
言っただろ。
邪魔なんだ』子供は飲み終わると僕のコーヒーを眺めストローの袋を手でさわり始めた。
『遠くで見てるだけだよ。
勝手に見るだけならいいじゃないか』『駄目だよ』『何で?遠くなら邪魔じゃない』子供は前よりもよく喋った」。
染野さんこの歌のストロー。
ご本人を前にしていろいろ語るのはちょっとお恥ずかしいようなんですがこの子供前よりよくしゃべったですからコミュニケーションとりたくてしょうがないんですよね。
だけどすごく孤独だったんです。
ところが主人公もものすごく孤独で孤独の者同士が出会うんですね。
年齢差はありますけれど。
非常に両者関わるんだか関わらないんだかっていうのが続くんですが私自身これを喫茶店で読んでいたわけですね。
ちょうど白いストローの袋があった。
自分も恐らくその孤独感とかそういったところに感情移入していて場面と重ねる形で歌に残したい。
そういう思いがここの歌にはあるのではないかと今思い出します。
短歌の世界それから作品の世界がつながっているように思うんですけれども中村さん作者の立場からはいかがでしょうか?歌集を読ませて頂いた時に「掏摸」について書いた歌があると聞いてたんですけど気づくかなと思って順番に読んでたんですけどさすがに一発で気づきまして…。
これに違いないと思って。
これはあれですよね同世代の小説家があまり好きじゃないから栞はストローの袋でいいやという歌ではない?ちゃんと思い入れがあってストローを栞として使ったという事です。
「掏摸」という本はお金持ちの人からお金を掏るとか自分の運命がもしも人によって決められていたらというそういうテーマがあるんですけどそういう緊迫したテーマの小説なんですけど歌もそうだと思うんですけどそれだけじゃ駄目なんですね。
その前とかあとにこういう柔らかいシーンがある事によって後の緊張感が際立つ。
短歌もやっぱりある言葉があって別の言葉が際立つ。
小説の場合はそれがシーンになるんですけど。
なのでそういうところを切り取って下さったんだなというふうに思います。
作品がこういう感覚で読者の皆様に受け取って頂けるというのはどうですか?非常にありがたいですね。
小説家短歌の歌人の方もそうだと思うんですけど作り手と読者さんというのは非常に濃密なコミュニケーションだと思うんです。
こちらも自分の全てをさらけ出して小説に書きますし読む人も自分の内面を開いて読みますのでそこに実は他者の目ってなくて一対一の関係なのでそういった濃密なコミュニケーションというものを意識してふだんから小説は書いてるんですけど。
内輪の話ですけど先ほど控え室でお二人がすごく仲良く話していらっしゃる同じ年というのもありますけれど何か通ずるところとかお互いの作品に対しての疑問とかいろんな感じるところがおありになったんですよね?中村さんの作品をそれこそずっと読めなかったんですが今回こういう機会を頂くという事ですごい勢いで読んでるんですよ。
面白くてしょうがないんですけれども人間の深い所まで到達してやろうという勢いに押されて読むというか人間を知りたいという気持ちを私は感じて私が歌に求めるものってまさにそれだし先ほど暗くていいっておっしゃってましたけど暗い事とかというのも私も積極的に詠み込んでいきたいと思っているタイプなのでほんとおこがましいようなんですがかなり自分を重ねてしまうところがあって中村さんのホームページでも最新作でも非常に話題になってる「教団X」でも出てくる「共に生きましょう」という言葉非常に印象深く残ってるんですがちょっとその辺お話頂ければと思うんですけど。
東日本大震災のあとから書き始めた言葉なんですけどもみんなで一緒に共に生きていこうと。
僕あまり明るくないんですよ。
明るく元気にって言われると結構つらいんですけど暗くてもいいしどんな人のタイプでもいいし僕みたいなこういうあんまり明るくない人でもこうやってまあ生きてるんでそれを読んでくれた人もみんなで共に生きていければなってそういう思いを込めています。
本当に今日は楽しい話ありがとうございました。
それでは次週またこの時間にお目にかかります。
2015/04/12(日) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「何」[字]

選者は染野太朗さん。ゲストは作家の中村文則さん。染野さんは中村さんの作品を読んで衝撃を受け、短歌を詠んだ。今回はその作品の一節を司会の剣幸さんに朗読してもらう。

詳細情報
番組内容
選者は染野太朗さん。ゲストは作家の中村文則さん。染野さんは中村さんの作品を読んで衝撃を受け、短歌を詠んだ。今回はその作品の一節を司会の剣幸さんに朗読してもらう。
出演者
【出演】染野太朗,【ゲスト】小説家…中村文則,【司会】剣幸

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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