2日本の話芸 落語「花見の仇(あだ)討」 2015.04.13


(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(柳亭市馬)月日の経つのは早いものでこの間年が明けたような気がするんですがもうお花見でございまして。
(笑い)お花見時になりますとみんな楽しみでございますからな。
「銭湯で上野の花の噂かな」。
寄るとさわるとお花見の噂でございますが。
あの花というのは不思議なもので見る人によってその風情が変わるという不思議なもので。
咲いてる花に全く変わりはないんですがお武家様が見ますとまたあのきれいな花も何となく武張って見えるもので。
「いや〜近藤見事に満開を致したな」。
「ああ〜全くだ。
この山を見ればひとつ詩吟でもやりたくなるな」。
「お〜得意の詩吟か?」。
「うん」。
・「昔この地は戦場なり」・「流血染め残す若木の桜」「どうじゃ?」。
「うんハハハハ」。
(拍手)「いや〜拙者もなこれを見とったら1句浮かんだ」。
「うん。
では伺おう」。
「うん。
『この山は風邪をひいたか洟
(花)だらけ』」。
(笑い)くだらねえ事言ってね。
どうもお侍色っぽくありませんが。
これが江戸っ子連中が見ますとまたいいもので。
職人連中がこの山を見ますとね…。
「お〜い吉っつぁん。
咲いたねめっぽう」。
「咲きぁがったねこの擂粉木野郎」なんてねええ桜を見りゃまず擂粉木だと思う。
「やい桜咲きぁがったか畜生め汝がおかげで今日も日暮らし」なんてぇ事を言ってる。
ご出家が見ますとまた風情が全く違って参ります。
「お〜見事に満開を致したのう。
しかしこの満開の桜も嵐を受ければ一片残らず散り落ちてしまう。
『明日ありと思う心の徒桜夜半に嵐の吹かぬものかわ』。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」なんて…。
(笑い)ええだんだん陰気になって参りますが。
やっぱりお花見時は陽気に参りたいもんでございますが。
「おい。
みんな集まったかい?」。
「うん。
どうしたい?」。
「いい陽気になったね」。
「本当だね〜。
明日辺り花見に行きてえね」。
「うん。
いい若え者がなただ向こう行って花見て一杯飲んで何か食って帰ってくるなんてな面白くねえから行くんなら行くで花見のお客を喜ばせるようにみんなで趣向をやろうと思うんだ。
どうだい?」。
「あ〜毎年いろいろ考えるんだな〜。
ウ〜ン出尽くしちゃったからね」。
「それなんだよなまじな事ならやらねえほうがいいんだけどな〜。
うん。
みんなを喜ばせるって何か無えかい?ええ?そっちは?うん。
そっちは?皆下向いてんね〜。
みんな何にも無えって事になるとねうんいやもったいぶるようでなんだけど俺にはちょいと考えがあるんだ。
うん。
今までやってねえしねこういう事をやったらみんな喜ぶんじゃねえかなってちょいとした茶番なんだ」。
「ほう芝居かい?」。
「うん。
これは四人で出来ようって芝居でな」。
「四人で出来んの?どういう筋だい?」。
「花見の場所で仇討ちをやろうってんだな」。
「仇討ち?ヘエ〜ッそれ四人で出来るかい?」。
「うん。
まぁ仇を討つほうこれはまぁ巡礼兄弟これは2人だなうん。
で討たれるほうが浪人者でこれが1人。
終いに『マ〜マ〜マ〜マ〜』ってんで仲裁に入る六十六部が1人。
これで出来るんだ」。
「ヘエ〜ッ。
どういう筋立てなんだい?」。
「うん。
まぁ仇役の浪人がな桜の根方か何かでこうどっかり座ってプカ〜リプカリと煙草を吸ってる。
そこへ巡礼兄弟が何気なく通りかかって煙草の火を借りるってぇのがきっかけになるんだ。
『率爾ながら火をひとつ御貸し下せえ』。
『さぁさぁ寄っておつけなせえ』ってんでな火玉をポ〜ンとはたいてコロコロッと転がってくその火玉をズ〜ッと追ってってでヒョイと見上げたのが深編笠の中の浪人の顔だ。
これが長年つけ狙った仇の顔だよ。
ああ。
一足後へ跳び下がっといてこれから仇討ちの台詞だ。
『や〜汝は何の某よな。
何年以前我が父を国元において討って立ち退きし大悪人。
ここで会うたは盲亀の浮木優曇華の花待ちえたる今日ただいまいざ立ち上がって尋常に勝負勝負』ってな事を言うんだ。
『ああいかにもその方たちの父親は武門の意気地をもって討ち果たしたがいや仇呼ばわり片腹痛え両名共不憫ながら返り討ちに致してくれよう』。
パ〜ッと深編笠を放る。
そこで大だんびらを引っこ抜いて…。
これ本身を使うよ」。
「おい本身なんか振り回して大丈夫かい?危ないよ?」。
「大丈夫だってあとでちゃんと立ち回り稽古するから。
ああ。
あのペタペタって竹光でやると嫌な音がするからやっぱりねチャリ〜ンチャリ〜ンと。
ああ。
で『親の仇〜っ』か何か声がすりゃそこらで花見てた連中は驚いてワア〜ッていなくなるよ。
でそのうちにはまた見てえもんだからジリジリジリジリ集まってくる。
十重二十重の人の波になったとこで六十六部が間へ入る。
『マ〜マ〜しばらくしばらくしばらく。
双方共仇仇とつけ狙っていては際限のない事。
ここは一番私にお任せ下され』ってんでなああ六部が背負ってるこのおいずるの中には酒肴の支度がしてあって三味線が畳んで入れてある。
でこっちに飲ませてこっちにも飲ませて自分も一杯飲んで『双方めでたいお手を拝借。
ヨ〜オッヨヨヨイヨヨヨイヨヨヨイヨイ』ってんで手を締めてあとは三味線を弾いて…」。
・「トトンテトッチリチンツ〜ンチリチンツシャン」・「あっソ〜レかっぽれかっぽれ」「ってみんなで総踊りをするんだよ。
どうだい?」。
「ハア〜ッそりゃ面白いね」。
「な〜?今まで本物の仇討ちだと思ってね『どうなるか?人死にが出るんじゃねえか』なんてこうやって見てた奴がさ『何だよおいこれ花見の趣向だよ。
やられたな〜。
ああ。
出来ましたヨ〜ヨ〜ヨ〜』。
ワ〜ッとなると思うんだけどな。
どうだい?これ。
やらねえかい?」。
「やるよ〜。
そりゃ面白い。
な〜?いやだって今聞いてるだけでもワクワクしてくるもんね。
うん。
やろうやろう。
うん。
いいよそれ」。
「そう?うん。
やる?お前もやるかい?そう?うんじゃあみんなやる?よし。
じゃあ役を決めるけどな俺が言いだしべえでないい役取っちゃっちゃ悪いから俺が浪人者やろううんその仇役な。
で金さんそれから辰っつぁん二人はね面差しは似てるし年格好も兄弟でちょうどいいだろう。
巡礼兄弟になってもらってね。
うん。
で留さんお前さんにはどうしても六部の役を頼まなきゃ。
うん。
いやいや留さんてぇぐらいでねやっぱりこう止めに入るんだから。
第一三味線弾けるのはお前だけなんだ。
そういう粋なやつはね?頼むよこれええ?」。
・「トトンテトッチリチン」「ってこれでやらなきゃ。
な?じゃあちょいと台詞と立ち回りの稽古をしよう」。
「あ〜いいよいいよあんなもん稽古しなくたって向こうへ行きゃなんとかなるよ」。
「それがいけねえんだよお前たちとな稽古しねえで向こうへ行ってうまくいった例が無えんだから。
な〜?うん。
こういうものはちゃんと初めは本物の仇討ちだと思わせなくちゃいけねえから。
な?煙草の火を借りにくるのがきっかけなんだから。
うん。
ちょっと煙草の火ええ?借りにこい」。
「そう?うん。
熊さん。
ちょっと火貸しつくんねえ」。
「だから稽古しなきゃ駄目だってんだ」。
(笑い)「職人まる出しじゃねえかよ貸しつくんねえなんて。
な?今は巡礼に身をやつしてるけど本当は侍なんだからな〜もうちょいと重々しく『率爾ながら火をひとつ御貸し下せえ』なんかそうやって」。
「ハア〜難しいな〜。
うん。
アハッそ率爾ながら火をひとつ…」。
「相撲の行司みたいだね。
ええ?」。
(笑い)「ちょっとお前変わんな変わんな。
金さん」。
「退きなよ本当に。
ええ?俺にやらせりゃ大丈夫だよ。
いくよ?」。
「頼むよ」。
「率爾ながら」。
「いいねうんいいよ」。
「率爾ながら屁をひとつ…」。
「いや。
屁じゃないよ火」。
「あ〜そうか間違えちゃった。
火をひとつあっ御貸し下せえ」。
「ささ寄っておつけなせえ。
いいかい?火玉をはたく。
コロコロッと転がったその火玉を目で追って深編笠の中の俺の顔を見て驚く」。
「あっそう?ええ?ヘヘヘこれを追って深編笠の中の顔…。
ウワ〜ッ何だ?」。
「お前おかしいんじゃねえか?頭が」。
(笑い)「驚くって…。
あのね芝居を見ねえかね?親の仇ぃ出っくわしたようなってそのぐらい本当に驚く時はねもう声なんか要らねえんだ。
よくやるだろ?『プ〜ッ』あれでいいんだよ『プ〜ッ』息で驚くんだから」。
「あ〜あ〜あれでね?うん。
プウ〜ップウ〜ッ」。
(笑い)「汚いねもう。
しぶきくらわせんなよ。
な?仇討ちのあの台詞だよ」。
「あ〜仇討ちのね?うん。
や〜汝は何の某よな」。
「うんそうだけどさそこは俺の名前入れて」。
「あっそう?や〜汝は建具屋の熊公よな」。
「ひっ叩くよこの野郎。
いや今はこんな格好だけどな〜?明日になったら浪人の格好だよ深編笠にええ?紋付きに袴でな〜刀大小差してんだから侍らしい名前頼むよ」。
「ウフッ難しいね。
じゃあ汝は山坂転太よな」。
(笑い)「もうちょっと何か無えかい?」。
「石野地蔵…北風寒右衛門よな」。
「何か締まらないね。
もうちょっと何か強そうなの無えかい?」。
「いろいろ言うね。
うん。
じゃあ石垣蟹太夫よな」。
「それも良くねえな」。
「松野切口脂太夫」。
「長いよそれ」。
(笑い)「そんなんじゃなくて」。
「うるせえねおい。
じゃあどうだい?ええ?お前色が黒いから黒煙五平太よな」。
「ウ〜ンまぁ今までの中じゃそれが一番いいな。
うんじゃあそれでいこう」。
「うん。
何年以前…。
ええ?これも何年か言うの?ああ〜。
1年かな?ウ〜ン3年かな?7年ぐれえかな?13年…」。
「親の年回してる訳じゃねえんだから」。
(笑い)「まぁいいよ7年で」。
「ああ。
7年以前我が父を国元において討って立ち退きし大悪人。
ここで会うたは盲亀の浮木優曇華の花待ちえたる今日ただいまいざ立ち上がって尋常に勝負勝負」。
「何を言ってやがる」。
(笑い)「ひなたぼっこで本読んでんじゃねえんだ。
大体なそこんところは渡り台詞ってんだな一人で言っちゃっちゃいけねえんだ。
な?ああここんとこでなええ?『花待ちえたる今日ただいま』か何か言ったらそっちで『いざ立ち上がって尋常に勝負』『勝負』ってんで両方から詰め寄るんだ。
うん。
で『仇呼ばわり片腹痛え』ってんで俺が編笠を取る。
いいかい?あっそこに物差しがあるから取ってくれ。
アイヨ。
そっちはたき持ってなああ箒でもいいから形作るから。
いいかい?うん。
俺が振りかぶってってうんこう。
そうそうそれを避けといてねうんそう。
今度こっちいくよ。
ほいそらっヨイショ。
そううまいうまい。
うん。
今度はな俺が突くからこれを払えよ。
よ〜し。
ね?今度はそっち来な。
うん俺がこうやって避けるから。
よ〜し。
ね?脛なんか払ってみようか?こうやって。
あ〜うまいねええ?それでなんとかなるよ。
うん。
でこうやってるうちにねおい留さん早く止めてくれよ。
ええ?ぼんやりしてちゃいけねえからね。
うん。
そうそう。
あ〜いいね。
これだけ稽古をしときゃねああ安心だよ。
ウ〜ンじゃあね明日場所はまぁ飛鳥山が本当なんだけどなあそこはもういろいろやっちゃったからな何か始めるとみんなもう初めっからな信用しねえからよ『何か始まったぜ』なんて。
うん。
上野の山行こうか」。
「上野の山はお役人がやかましいだろ?」。
「いや。
近頃それがそうでもねえらしいからうん大丈夫だようん。
ワ〜ッとみんなを喜ばせるんだから。
俺がね清水堂の脇の立派な桜があるからその根方へ居るからな。
うん。
時刻はそうだなみんな人が出ている頃がいいから正午の刻ってぇ事にしてな。
みんなそれぞれこれから帰って衣装だとか小道具だとか頼むよ。
いいかい?間違えのないように。
うん。
俺がちゃんとなあそこで待ってるからうん。
深編笠被ってうん。
でお前さんがな?『率爾ながら火をひとつ』だ。
ええ?でチャリ〜ンチャリ〜ンと始まったら『しばらくしばらくしばらく』」。
・「トトンテトッチリチンチン」「エヘヘヘ楽しみだね〜」。
「本当だね〜。
うん。
じゃあ明日うんしっかりやろうね」。
「おう。
じゃあ頼むよ」なんてんで。
さぁ連中がそれぞれに家へ帰りまして支度をする。
明くる日は絶好の花見日和でございまして。
この仇役になります浪人者の熊さんこの人はなにしろ自分がきっかけになるともう遅れちゃいけないと思いましてな本当は正午の刻の約束でございます今の刻限で言えばお昼の12時なんですけど遅れちゃいけないって頭がありますから朝の8時ぐらいから…。
(笑い)誰もいねえ所でプカ〜リプカリと煙草を吸い始めた。
六十六部の役でございます留さんこの六十六部ってぇのはよく時代劇へ出て参りますわな諸国を廻国致しますまぁ巡礼と似たようなものなんですが鼠色の頭巾を被りまして鼠色の装束鼠色の手甲脚絆で鼠色の足袋を履いて猫が見たら食いつきそうな格好でなおいずるを背負っておりましてこの中には本当はお経や何かが入ってるんですがこの場合はあとの事がありますんで酒肴と三味線が畳んで入ってる。
上野のお山袴越から上がろうってんで広徳寺の所まで参りましたら本所の伯父さんに会っちゃった。
この伯父さんってぇ人が不思議な人で耳が遠くて腕力が強いというね。
ええ耳の遠い人は目が早いですから…。
「あれっ?あの廻国姿は留公じゃねえか。
おい留公」。
「へい。
アラ〜ッ伯父さんに会っちゃった。
本当に面倒くせえ。
どうも伯父さんしばらくで」。
「何面目なくて廻国するんだか知らねえがたった一人のおふくろの面倒は誰が見るんだ?」。
「アラ〜ッ本物と間違えてるよ。
ええ?あのね伯父さんこんな格好してるけどこらぁ本物じゃねえんですよ花見の趣向なんですよ」。
「どこへ行くんだ?」。
「花見の趣向なんですよ〜」。
「相模から四国へ行く?」。
(笑い)「とんでもねえ野郎だ。
行かせてなるものか」ってんで襟っ首をつかまえるとズルズルズルズル。
ああ腕力は強いですからかなわねえ。
「じゃあ伯父さん家行って伯母さんに訳を話して見逃してもらおう」と思ったら伯母さん買い物行っちゃって留守なんだ。
「しょうがねえ。
じゃあ酒飲ませて酔い潰してしまおう」ってんで背負っておりますこの笈櫃の中から酒肴を出してこう飲ませ始めたんですがこの伯父さんがまた酒がばかに強い。
相手してる留さんのほうがすっかりいい気持ちになっちゃって。
「エヘヘヘもういいや面倒くせえやこらぁな」。
(笑い)「かったるくなっちゃった。
今から行ったって遅えから向こうは3人いるんだからああなんとかうまくやるだろう。
ア〜ハア〜ッア〜ア〜アッあ〜お休みなさい」なんてんでひどい奴があるもんで空き徳利を枕にそこへ寝ちまいまして。
さぁそんな事をしているとは知りません巡礼兄弟二人はお山をまっすぐに御成街道をやって参りまして。
「おい金さん。
うまくやろうね」。
「そうだね稽古したからな」。
「うん。
俺台詞はいいんだけどさ立ち回りがちょっと心配なんだよ。
ちょっとここでもう一遍稽古しよう」。
「よしなよこんな人混みの中で危ないよ」。
「大丈夫だよ抜かなきゃ。
ね?うん。
鞘ごと構えてりゃいいから。
こっち回って。
いいかい?うん。
そうそう。
振りかぶって来とくれ俺は避けるから。
よし。
いいかい?こうやってりゃいいんだから。
こっちのほうから。
そうヨイショ。
そうそうそう。
うん。
そうすりゃこうやってな…」。
「ウッ。
無礼者」。
「ええ?いけねえお侍の頭ひっ叩いちゃった。
どうも旦那すみません。
申し訳ございません。
粗相でございますんでお許し下さい」。
「巡礼じゃな?巡礼の形で御成街道を歩くのすらはばかられようものを武士の面体に泥杖を当ておって。
それへ直れ。
無礼討ちじゃ」。
「いいえ。
どうかご勘弁下さいまし。
ええ。
おい。
謝ってくれよ一緒に」。
「何だしょうがねえな全く気を付けねえからそういう事になる。
どうも旦那相すみません。
ええ。
いえいえもうね別に悪気があった訳じゃねえんで粗相でございますからどうぞご勘弁下さい」。
「うん?何じゃ?その者は。
こいつの連れか?」。
「いいえ。
連れじゃねえんですよ一緒に歩いてるだけなんで」。
(笑い)「連れではないか。
あ〜構わん。
重ねておいて四つに致してくれる」。
「あ〜これ近藤その方は酒が入ると気が荒うていかん。
仕込み杖を携えておる。
ただの巡礼ではないようだ。
あ〜ご両所お手をお上げなさい。
何か大望を抱くご仁ではござらぬか?いやさ仇でもつけ狙うお方ではござらんか?」。
「ヘッ?ええ〜そうなんでございます。
ええ。
これから仇討ちに行くんでございます」。
「うん。
してその仇は江戸表へ出て参った形跡があるか?」。
「ええ。
今上野のお山で待ってる」。
(笑い)「うん?何?」。
「いえいえいえいええ〜あの辺に行きゃ大勢人が出てるでしょうから何か手がかりがあるんじゃねえかと思いまして」。
「うん。
さもありなん事じゃ。
ああ。
あ〜お立ちなさいお立ちなさい。
近藤。
天下は泰平に流れるといえどもこうして仇をつけ狙う孝子両名あ〜見上げたものだ。
うん。
早速行きなされ。
先を急ぐ身じゃ。
うまく仇に出会うた時に我々がおったら助太刀を致してくれまするでな。
ああ。
遅うならんようにさぁ行きなされご兄弟」。
「へい。
ありがとうございます」なんてんで。
カ〜ッこんな騒ぎをしているとは知りません浪人者の熊さん。
なにしろ朝の8時からズ〜ッと煙草を吸ってるんで頭はクラクラ喉はイガイガ。
「だからあいつたちと何かやるの嫌なんだよ。
全くまぁ何をしてるんだろうね。
六部はチャンバラが始まらなきゃ出てこられねえからどこかへ隠れてるんだろうけど全く巡礼兄弟の野郎何をして…。
来たよ。
あ〜全くまぁ世話やかしやがって本当に。
ア〜ア〜アッ遅れたと思ってええ?駆け出してくるよ。
駆け出したらおかしいだろうによ。
二人共膝っ小僧真っ黒だね。
転んだのかな?一緒に転ぶなんて仲がいいよ。
ええ?ア〜ア〜『少々伺います』か何か聞いてるよ。
ばかだね。
ここだってんだ分かってんだろ清水堂の脇の立派な桜ってこれしか無えんだから。
本当にもう早く来い。
どこへ行くんだよ?おいどこへ…。
そっち行っちゃっちゃ駄目だろう本当にもう。
しょうが…。
あ〜戻ってきた。
あ〜戻っ…。
戻ってきて…。
お〜うっ」。
(笑い)「ここだよここ」。
(笑い)「ウプッ仇が呼んでるよ」。
「熊さん。
悪い」。
「ばか何やってんだよ本当にもう遅えじゃねえかい」。
「いいよ勘弁してくれよいろいろあったんだよ。
うん。
いやあとで話するけど大笑い」。
「大笑いじゃないよもう仇同士が仲よく喋ってたらおかしいだろう?第一お前たちの来ようが遅えからよ俺はこうやって座ってるだろこんな格好して本物の侍が来るんだよ。
『貴殿は以前どこのご藩中でござったか?』なんて。
聞かれて返事に困るじゃねえかよ。
ええ?いいから早く始めろよ」。
「ええ?いや始めろったってさこっちはお前くたびれちゃったからさ金さんちょっと一服しよう。
な?火貸してくれ」。
「金さんに借りてどうすんだよ。
俺に火を…」。
「分かったってんだよ。
怒るなよ。
お前顔色良くないよ」。
「お前たちのせいなんだよ本当にもう。
早くやれ」。
「やるよ。
うん。
率爾ながら火をひとつや御貸し下せえ」。
「さぁさぁ寄っておつけなせえ」。
「プウ〜ッや〜汝は郡山武蔵よな」。
(笑い)「お前何で名前変えるんだよ」。
(笑い)「俺お前黒煙五平太のつもりなんだから」。
「今思いついちゃったんだ。
うん。
7年以前我が父を国元において討って立ち退きし大悪人」。
「おう」。
「うん。
ここで会うたは盲亀の浮木優曇華の…。
はいよ」。
「うん」。
「花待ちえたる今日ただいまいざ立ち上がって尋常に勝負」。
「勝負〜っ」。
「仇呼ばわり片腹痛え両名共不憫ながら返り討ちだ」。
ダ〜ッと深編笠を放る。
大だんびらを引っこ抜く。
「親の仇〜っ」。
チャリ〜ンチャリンという刃の音。
さぁこの音を聞けば今まで花見をしておりました喜んでた江戸っ子連中ワ〜ッ蜘蛛の子を散らすようにいなくなりまして。
そのうちにはまた物見高いは江戸の常ですから大勢が寄ってくる。
ジリッジリッジリッと集まってくる。
「あら〜っ随分人がたかってんね〜これ。
ええ?中どういう事になってんのかな?もしもし。
中は何です?」。
「ええ?いや巾着っ切りが捕まったらしいね」。
(笑い)「ハア〜巾着っ切りがね〜。
大勢人が出てるからな〜。
巾着っ切り捕まったんですって?」。
「いや〜。
乞食のお産らしいね」。
(笑い)「お産?」。
「ああ。
こんな人混みだからねもらいが多いからって出てきたらしいんだよ大きなお腹で。
うん。
でもね上と下とそれから前と後ろと押されちゃってどうにもしょうがねえってんでうん産気づいて」。
「あら〜っそれでどうしたの?」。
「うんでねうんお産が始まったんだけどねこれが逆さっ子だったって」。
「あらまあ〜大変だったね」。
「うん。
足が出たんだけどそこはまたね頭のいい人がいるんだようん。
お金をパラパラッとまいたらさすが乞食の子供だね足を引っ込めてすぐ手を出したって」。
「何を言ってる」。
(笑い)「落とし噺をしてるよ。
しょうがねえな〜。
ええ?あっいいやこの木の上へ上がっちゃおう。
ね?こっちはこれが軽いんだからうんこの枝へつかまりゃねちゃんとわ…。
ア〜ッ。
お〜い。
大変だよこれ。
ええ?仇討ちだ仇討ち」。
「エエ〜ッ仇討ち?どういう様子だ?」。
「ああ〜仇討つほうはねこらぁ若えねああ〜。
顔もちょっと似てるから兄弟だな。
巡礼兄弟がカ〜ッ強そうな仇にかかってるよ〜。
おお〜。
ウワ〜ッ憎てえな顔をしてるよ浪人者だ。
ああ。
返り討ちにならなきゃいいけどな〜。
お〜い。
みんなで加勢しよう」。
「そうかい?お〜い巡礼兄弟しっかりやれよ〜。
みんなついてるぞ〜」。
「浪人者〜討たれちまえ〜」。
「巡礼兄弟しっかりやれよ〜」。
「お〜い仇斬られちまえ〜」。
「随分人集まってきたね。
こんなに来ると思わねえな」。
「本当だね〜。
六部は何してんだろうね?」。
(笑い)「さっきから同じ事ばっかりやってっからさ…」。
(笑い)「何だかくたびれてきちゃったね」。
「フ〜ン二人共さぁもうちょっと稽古してくりゃよかったけどな」。
「お〜い。
何か変な仇討ちだな〜」。
(笑い)「時々耳元で相談しながらやってんだよこれな〜」。
「これ木の上の町人。
中の様子は何じゃ?」。
「エエ〜ッ?あ〜お侍様ええ。
いや上から失礼しますがねこの中仇討ちなんですよ」。
「何?仇討ち?して討つ者討たるる者の人体は?」。
「ええ討つほうは巡礼兄弟で若えんですよ。
でね仇がね浪人者で強そうなんでねどうもね返り討ちになるんじゃねえかと思って」。
「何?巡礼兄弟が?近藤。
最前御成街道で出会うた孝子両名見事に仇に出会うたようじゃ。
うん。
さぁそこを退けさぁそこを退け」。
「えっ?旦那どうします?」。
「助太刀じゃ」。
「助太刀?どっちに?」。
「言わずと知れた巡礼兄弟に」。
「ありがてえねおいええ?旦那が助太刀に入った。
お〜い巡礼兄弟〜喜べ〜助太刀が来たぞ〜。
助太刀だぞ〜」。
(笑い)「助太刀って何?」。
「六部だ六部。
これだけの人だからさちょいと入ってこられなくなったんだよ。
助太刀か何か言って入って来ようってんで」。
「そうか。
良かったな〜。
もう本物の刀って重てえからよもうやんなっちゃったよ」。
「お〜っ最前の孝子両名仇に出会うてめでたいのう」。
「ええ。
ヘヘヘ」。
(笑い)「ハッどうも先ほどは。
ええ。
え〜これ仇です」。
「うん。
いや〜隙がある。
どんどん打てああ。
きっと討てる。
さぁどんどん斬り込め」。
「斬り込めったってねええなかなかねこっちにも都合がありますんで」。
「おい。
誰だよ?あれ」。
(笑い)「誰?」。
「うん助太刀」。
(笑い)「そんな事俺聞いてないよ」。
「いや俺もさ知らないよ。
そういう事になっちゃったんだからさあれ本物だからお前斬られちゃえ」。
「嫌だよおい」。
(笑い)「何で斬られなきゃいけねえんだよ?俺が。
どうしてそういう余計な者連れてくるんだよ?」。
「いや。
連れてきた訳じゃねえけどさDialogue:0,0:27:44.40,0:27:48.10,Default,,0000,0000,00002015/04/13(月) 15:00〜15:30
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日本の話芸 落語「花見の仇(あだ)討」[解][字][再]

落語「花見の仇(あだ)討」▽柳亭市馬▽第667回東京落語会

詳細情報
番組内容
落語「花見の仇(あだ)討」▽柳亭市馬▽第667回東京落語会
出演者
【出演】柳亭市馬

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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