「進歩的文化人」が言論界の中心に座り、左翼でなければ知識人ではないみたいな空気が行き渡っていた。著者のいう「革新幻想」である。そんな戦後の一時期がたしかにあったのだ。
著者・竹内洋氏は1942年生まれ。学生時代に「吉本隆明もいいけど、福田恆存はもっといいぞ」、とうっかり口にして「ウヨク」のレッテルを貼られた経験がある。その異和感をもとに、多くの資料を収集し教育社会学の方法で分析。「革新幻想」の正体に迫った。
言及されるのは丸山眞男、三島由紀夫、勝田守一、宮原誠一、宗像誠也、清水幾太郎、福田恆存、小田実、石坂洋次郎らの人びと。京都の旭丘中学校事件など教育現場の実態や総合雑誌の動向、論壇への登場回数などに目配りを忘れないのも本書の特徴だ。
面白い着眼のなかからいくつか紹介しよう。第一に、進歩的文化人は日本共産党の威信が損なわれたので台頭したとしている点。共産党は六全協で、それまでの武装闘争路線を放棄した。知識大衆は共産党に負い目がなくなり、共産党と距離をおく「市民」を自認。それを指導する進歩的文化人の地位も高まった。
第二に、日本の戦後は第1次大戦後のヨーロッパに似ているとする点。第1次大戦の惨禍に、人びとは平和主義や理想主義に向かった。ヒトラーと第2次大戦の後、それらは非現実的だと説得力を失った。だが、日本では平和主義が生き残り、「革新幻想」に育ったという。
こうした命題を、文献を手がかりに実証する作業は、小熊英二氏の仕事を思わせるところがある。ただ、62年生まれの小熊氏が、自分が経験していない未知の対象をゼロから再構成しようとするのに対し、竹内氏は、自分が当事者として経験した事柄を再確認し、より大きな全体像のなかに意味づけようとする。
著者の個人的体験や教育学の人脈が、文献をたどることで意外な拡(ひろ)がりをみせ、日本近代史の脈絡や主要人物へと連接していく。資料の細部から事象の本質に攻め上る手並みもあざやか。信頼すべき戦後史の貴重な証言だ。
(社会学者 橋爪大三郎)
[日本経済新聞朝刊2011年12月4日付]
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