クローズアップ現代「食卓の魚高騰! 海の資源をどう守る」 2015.04.15


テレサ・テンさん。
アジアの歌姫と呼ばれています。
亡くなってから、来月で20年。
台湾で記念切手が発売されました。
日本の食卓を支える海の幸が高騰を続けています。
ホッケは去年の2割増しアジは2倍に上昇しています。
魚は手の届かない存在になってしまうのでしょうか。
今、温暖化や乱獲などによって日本の海の魚が大きく減っています。
中でも深刻なのが太平洋クロマグロ。
資源量はこの20年で3分の1に。
過去最低の水準に近づいています。
資源の回復を目指して国は、ことし1月から初めてクロマグロの漁獲規制に乗り出しました。
すでにヨーロッパでは漁獲量を8割削減。
思い切った対策を進めています。
海の資源をどう守るのか。
漁業再生の方策を探ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
海に囲まれた日本。
日本の沿岸から200海里までは排他的経済水域で、日本が漁獲する権利を持っています。
おいしい魚介類に対する需要は世界的に高まっていまして世界6位の面積を誇る日本の海がもたらす海の幸を適切に管理すれば水産資源を利用した成長産業を育てられるとの期待もあります。
ところがその海で漁獲量が大幅に減少しています。
1980年代半ばには900万トンを超えていましたが現在は300万トン余りと半分以下にまで落ちています。
また農林水産省が漁業者に水産資源の状況についてアンケート調査をしたところ4年前の調査ですが87.9%が資源の減少を実感していると答えています。
温暖化による海水温の上昇魚の取り過ぎなどさまざまな要因が資源量の減少をもたらしていると考えられています。
どうすれば資源の回復を図れるのか。
具体的な手段として同じ問題に直面した世界各国で成果を上げてきたのが漁獲量の規制です。
日本でもイカナゴやホタテなど地域が限定された海産物については、漁協などが自主的に資源管理を行い一定の成果を上げてきた実績を持っていますが資源管理に向けた合意形成が難しく資源が減り続けているのが回遊魚の中でもマグロやサバ、ホッケといった食卓になじみのある魚です。
魚が減っていることを多くの漁業者が実感しているにもかかわらず生活への影響が大きいことから効果的な資源管理に向けた足並みがなかなかそろわない日本。
初めに苦境に立つ現場の実態と対策の現状からご覧ください。
札幌の中央卸売市場。
特に高騰しているのが大衆魚のホッケです。
今、全国のホッケ漁師が直面しているのが歴史的な不漁です。
17万トンあった漁獲量は10年で5万トンに減少。
収入も減っています。
ホッケだけではありません。
アジやサバなど食卓になじみの深い魚の資源量も軒並み減少しています。
その原因として挙げられているのが温暖化による海水温の変化や魚の取り過ぎなどです。
欧米諸国と比べると、日本には漁獲量を制限する規制が少なく早い者勝ちの漁獲競争に歯止めがかけられていません。
国が漁獲量の上限を定めている魚種は僅か7種類。
しかもその上限は実際の漁獲量を大きく上回っています。
成長前の魚の捕獲を禁止するサイズの規制もありません。
27年にわたって漁を行っている西宮大和さんです。
水揚げが減る中で、去年最新の魚群探知機を導入。
1センチ単位で魚の姿を捉えることができます。
見つけたのは成長前の小さなサバの群れ。
養殖魚の餌などにしかなりませんが、網を入れました。
たとえ自分が取らなくてもほかの船に取られてしまいます。
規制がない現状では収入を得るためにやむをえないといいます。
さまざまな原因で魚が減ると漁師は収入を確保するため成長前の小さな魚まで取り始めます。
それがさらなる資源の減少を招く負のスパイラルをもたらし魚の減少に歯止めがかからなくなってしまうのです。
中でも危機的なのが太平洋クロマグロです。
その資源量は、この20年で3分の1以下に減少。
去年、国際自然保護連合は絶滅危惧種に指定しました。
どうすればクロマグロを増やすことができるのか。
模索を始めた漁師がいます。
長崎県壱岐の中村稔さんです。
これまで主に夏と冬の6か月間マグロの一本釣りで生計を立ててきましたが水揚げは激減しています。
今月初め、危機感を募らせた中村さんたちは思い切ってマグロの産卵期に当たる夏場を2か月間、禁漁にすることを話し合いました。
日本海を回遊するマグロは6月から8月にかけて山陰から北陸の沖合で産卵しその数を増やすとされています。
この時期の漁を控えて資源を回復させようという苦渋の選択に乗り出そうとしています。
しかし、マグロは回遊魚。
壱岐だけで禁漁を行っても効果には限界があります。
日本海のすべてのマグロを対象とした漁獲量の規制がないためほかの地域の漁業者に取られてしまうからです。
中でも水揚げが多いのが産卵期のマグロを狙った巻き網漁。
腹には数百万にも及ぶ卵が入っています。
巻き網を使うと産卵前のマグロの群れを効率的に捕らえることができるのです。
東京大学の木村伸吾さんは資源への打撃が大きいと危惧しています。
産卵期の漁の批判を受けた山陰旋網漁協は漁獲量の上限を設定するなど自主的な規制の導入も図ってきました。
しかし、マグロ漁は夏場の地域の基幹産業でもありこれ以上の規制は厳しいといいます。
今夜は、漁業資源の管理に大変お詳しい、東京海洋大学准教授の勝川俊雄さんをお迎えしております。
今のVTRで、漁業者の苦しい胸の内というのも聞こえてきたんですけれども、日本の周りの、この豊かな海というイメージがずっと強く私たちにはあるんですけれども、どこまでその現状っていうのは危機的なんですか?
そうですね。
かつては本当に豊かだったんですけれども、今の漁業者の話を聞いてみますと、昔はこんなに取れたのにとか、そういう話ばかりですね。
現実的には漁獲量も減り、またサイズが小さくなっていることから、値段も下がって経営が苦しい、そうなると、自分の子どもに漁業の後を継がせられないんですよね。
結果として、漁業の後継者がいなくなって、高齢化が進んでるといったような状況です。
日本も1997年に、7魚種に関しては、上限を設けて、漁獲規制ということを行っているんですけれども、この効果はどこまであると考えたらいいんでしょうか?
残念ながら、効果はほとんどないです。
と言いますのも、漁業経営が厳しいということを勘案して、頑張っても取りきれない高い漁獲枠が設定されているので、実際に漁獲にブレーキをかける効果がほとんどないんですね。
ですから、魚が減ってきたときに、そのまま減り続けてしまうということに、残念ながらなってしまってます。
今のリポートでサバ漁をしてらっしゃった西宮さん、小さいサバだけども、自分が取らなかったら、ほかの人が取ってしまうっていうようなことをおっしゃったんですけれども、本当になんか、もっと漁獲量の減少っていうのを止められないんだろうかっていうふうな思いがあるんですけれども。
やはり現場では、魚が減ってるということ、そしてこんなに小さいのを取ったらもったいないなというそういう感覚は、皆あるんですね。
ただ、これ漁業者のモラルの問題ではなくて、現在の制度の問題なんですけれども、取らざるをえない状況になってしまってるんです。
皆さんも自分が漁業者だったらどうするかっていうことを考えていただきたいんですけれども、乗組員の給料を払わなきゃいけない。
生活がかかっているわけですね。
そして今、小さい魚しかいない。
2、3年までは大きくなって、利益が出る。
でも2、3年先にはその魚は誰かが取って残ってないんです。
そういう状況だったら、取らざるをえないんですよね。
それ、そうやって考えてみると、漁業者のモラルの問題ではなくて、取り残す制度がない、制度がない、きちんとした規制がないということの漁業者は被害者なんですよね。
そして今、現在は漁獲のテクノロジーというのがどんどん進化してね、減った魚、小さい魚を効率的に取れるようになってしまっています。
ですから、漁業の能力が上がる、それに応じて、きちんと魚を残すための制度も進化させていかなければいけない。
車で言うと、エンジンはどんどんどんどん強化してきたけれども、ブレーキは江戸時代から変わっていませんって。
それが今の日本の漁業の現実なんですね。
ですから、最新の漁獲テクノロジーを使う以上、それを使ってもきちんと魚が残るような規制もしていく必要があると思います。
よく海外の国々の船が取り過ぎているんではないかということもいわれていますよね。
そうですね。
特に中国、韓国に関して言うと、日本海の西側のほうの漁場というのは、中国、韓国と資源を共有しているもの、たくさんあります。
そういったようなものに関しては、そういった国と共同で資源管理していかなければいけないもの多いですね。
ただ一方で、北海道とか太平洋側、瀬戸内海、そういった所は日本だけで資源を利用できますので、日本がその気になれば、資源管理できるんですよね。
ただ、残念ながら日本海も瀬戸内海も太平洋も、資源は同じように悪いです。
ということはやはり、日本がきちんとできるところからやっていくことが重要だなと思います。
さて、海外で規制によって資源回復した成功例の一つが、大西洋のクロマグロです。
この6年で、このグラフご覧いただきましょう。
資源量が推定で3倍以上回復しています。
一体どんな取り組みが行われたのでしょうか。
大西洋クロマグロの漁場地中海です。
資源量が減少し、絶滅危惧種に指定された大西洋クロマグロ。
2008年、国際管理機関・ICCATは科学者の提言を受け規制を強化しました。
およそ6万トンだった漁獲量を実質8割削減。
重要なのは、船ごとに漁獲量を割り当てたことです。
さらに3歳未満の幼魚は原則漁獲禁止。
産卵場となる地中海では巻き網の漁期を1年から1か月に縮めました。
漁には監視員が同行し違反が見つかると、罰金などのペナルティーが科されます。
厳しい規制で廃業に追い込まれる漁業者も相次ぎました。
しかし、徹底した管理のおかげで大西洋クロマグロの資源量は6年で3倍以上に回復したのです。
今では価格が安定し漁業者の収入も増えたといいます。
この成功を受けて、日本でも国が主導して太平洋クロマグロの規制に乗り出しました。
規制の対象はこちら。
3歳未満の幼魚で繁殖能力はまだありません。
日本で水揚げされるクロマグロの漁獲数のうちおよそ98%を3歳未満の幼魚が占めています。
これまで国による規制がなかった幼魚の漁獲量。
ことし始まった規制では以前の半分に制限されました。
しかし、大西洋クロマグロとは異なり船ごとの上限規制などには踏み込めていません。
回遊魚ではないものの船ごとの漁獲規制の試みを日本でも始めた所があります。
おはようございます。
今出ました。
頼みます。
対象はアマエビ。
新潟県が決めた漁獲量を3隻に分配し、それを上限とします。
さらに捕獲用の籠を新調。
繁殖能力のない小さなエビを逃がすため網目を大きくしました。
すると特に小さなサイズのエビはほとんど取れなくなりました。
その代わり、単価の高い大きいエビの割合が年々増加。
夏場には3割も増加しました。
漁獲量は減りましたが単価の高いエビが増えたため収入を維持することができました。
漁獲量を減らしても、大きなエビが取れることによって収入が増えると。
ある意味では、本当に海の回復力といいますか、持っている力っていうのを感じるんですけれども、やっぱり待つっていうことが、大事なんですね。
そうですね。
ちょっと待てば、価値が上がる魚って非常に多いんですね。
例えば、サバの場合も小さいサイズで取ると、養殖の餌にしかならないんですけど、あれあと2年待てば、大きな鮮魚サイズになるんですね。
そうすると高く売れるし、また消費者もおいしいサバを、国産のサバを食べられるようになるんですね。
ただ、アマエビの場合は、きちんとした規制が出来たおかげで、取らなかったもの、あとで自分たちが取れる、だから漁業者は取り組めるんですけれども、サバの場合にそういう制度がないので、自分たちが取らなかったら、誰か取っちゃう、これじゃできないんですよね。
ですからちゃんと取り残したものを後で我慢した人たちが取れるような、そういう仕組みを早く導入してほしいですね。
ヨーロッパの例が出てましたけども、その資源を回復させるのに、80%取る量を減らしたと、これはどうやってその漁業者を説得するのか、日々これ、死活問題にもなってくる中で、どうやってその厳しい取り組みが、実際にできるのか。
海外を見てみましても、最初に規制を入れる際には、どの国も非常に苦労してますね。
漁業者はどこの国の漁業者もそうなんですけど、規制を最初に入れるときは、大反対するんですね。
今でも生活が苦しいのに、規制まで入ったらやっていけないと。
そう思うのは自然なことだと思うんですよ。
ただ実際に漁獲規制が始まってみると、大体5年もしないうちに漁業がもうかるようになるので、漁業者が漁業管理を支持するようになるんですけど、やはり最初の政治的なハードルの高さというものはありますね。
例えばね、マグロの場合、ああいう小さいサイズで取ってしまってるんですけど、実はもうちょっと待つと非常に大きな価値を生むようになるんです。
3キロのマグロ、ビデオで出てきましたけれども、あれ、6年間海に泳がしておくと100キロになるんですね。
そしてまた1キロ当たりの単価も、1キロ5000円だったのが5000円になりますから、そういう形で体重が30倍、そしてまた、単価も10倍になる。
ということは、6年待つだけで価値が大幅に増える。
ただ、6年間魚が残ってないから、小さいうちに取らなきゃいけないというふうになってしまってるんですね。
ですからきちんとした規制を入れて、6年間大きくしてから、取れるような形にしてあげれば、漁業ももうかるようになるし、消費者もより多くのマグロを今よりも安く食べられるようになるんですね。
ですから、一時的に消費者も漁業者も我慢をする。
そしてその一時的な我慢をできるような、そういうのを支援するような形で政治が支えると、そういったようなことが必要だと思います。
よくいわれるのが、漁獲規制、厳しい漁獲規制をすると漁業者がかわいそうだということをよくいわれるんですけれども、実際は逆なんですね。
漁獲規制がないから魚が減って、漁業者がかわいそうな状況になってしまうんですね。
むしろ規制があることによって、漁業は成長産業になるし、漁業者もハッピーになる。
これはまあ、海外のきちんと漁獲規制をやっている国で起こっていることです。
日本も早くそういうふうにね、なってほしいなと思います。
2015/04/15(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「食卓の魚高騰! 海の資源をどう守る」[字]

アジやホッケなど食卓の魚が高騰している。乱獲の影響が指摘される中、今年、クロマグロで漁獲規制が始まった。果たして効果は。取り組みを検証する。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京海洋大学 産学地域連携推進機構准教授…勝川俊雄,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京海洋大学 産学地域連携推進機構准教授…勝川俊雄,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:12382(0x305E)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: