(沢嶋雄一)アブソリュートポジションN62W182E113S592ポジション確認。
アブソリュートタイムB9180129年40時12分31秒。
怪我なしウイルス反応なし。
西暦変換しますと1572年10月2日2時23分。
無事タイムワープ成功しました。
コードナンバー200094。
これから記録を開始します。
沢嶋雄一。
彼はタイムスクープ社より派遣されたジャーナリストである。
あらゆる時代にタイムワープしながら時空を超えて人々を記録していくタイムスクープハンターである
コードナンバー200094
今回の取材対象は医僧。
戦国時代合戦の際従軍し武将たちの治療に当たった医僧がいた。
現在の軍医であり救急救命士の役割も果たした
医僧の名前は徳念と慶明
当時の人々にとって私は時空を超えた存在です。
彼らにとって私は宇宙人のような存在です。
彼らに接触する際には細心の注意が必要です。
私自身の介在によってこの歴史が変わる事もありえるからです。
彼らに取材を許してもらうためには特殊な交渉術を用います。
それについては極秘事項のためお見せする事はできませんが今回も無事密着取材する事に成功しました。
今従軍医僧のお二人が前線近くに向かっているところです。
それにしてもすさまじい状況ですね。
路傍に転がる敗残兵の死体。
前線に近づくにつれて戦禍の色は明らかに濃くなっていく。
医僧である2人が向かう先には近習萩尾十朗が待っている。
敗走のさなか敵の矢に撃たれ重傷を負ったのだという。
動けぬ十朗は戦場に近いあばら家に残されていた。
忠誠心が厚い十朗を助けるべく総大将が2人を特別に派遣したのだった
今ここに怪我を負った萩尾十朗さんがいるという事です。
ちょっと入ってみます。
(うめき声)
近習の萩尾十朗の傷は予想以上にひどいものだった。
目には矢が突き刺さったままだ
(徳念)動いちゃ駄目ですよ。
合戦では主に弓矢や石などの遠距離用の武器によるものが多かったという。
映画で描かれるような刀での斬り合いは少なかったらしい。
すぐに救急処置を施すのは医僧の徳念。
医僧になって10年。
数々の合戦に従軍し修羅場をくぐり抜けてきた43歳のベテランである
近くに川ならありますが…。
(徳念)それで結構ですから。
かしこまりました。
何かあるもので間に合わせましょう。
飲んじゃ駄目ですよ。
(慶明)清めはこれだけです。
それこそ足りないようですが…。
調達してきます。
徳念の指示で酒を調達に行くのは弟子の慶明。
21歳の若い僧である。
当時の兵の中にはストレスから逃れるために酒を携帯する者もいた
治療ではまず酒を傷口に吹きかけ消毒する
お師匠一息に。
いけません。
矢じりが中に残ってしまいます。
・水を持ってまいりました。
水です。
(うめき声)うっ!
(十朗)うわ〜!
(十朗の叫び声)
矢を抜こうとするがあまりの痛さに十朗の体が激しく動いてしまう。
徳念は十朗に酒を飲ませ落ち着かせる事にした。
麻酔のなかった時代。
危険だがこれが精いっぱいの対処法だった
彼らの装備品の主なものは気付薬や止血剤などの内服薬。
消毒に使う焼酎。
傷口に貼るこう薬など貴重で高価なものが多かった。
それを賄えるのは地位も財力もある一部の権力者に限られていた
酒のおかげで次第に感覚がまひしてきた十朗。
徳念は矢を抜く準備に取りかかる。
だが突然あばら家に武士が駆け込んできた
(勝治郎)医僧の徳念殿がおられると聞いたが…。
こちらは三浦八兵衛殿でござる。
(慶明)今治療中ですので…。
彼の名は小木田勝治郎。
ここに医僧の徳念がいると聞き急ぎ駆けつけてきたのだ
ですからあちらに行って頂けますか?今治療中ですので。
何?待て!よく聞け。
(徳念)しばらくそのままでお待ち下さい。
わしらは御屋形様の命を…!あちらで…。
御屋形様の命を…。
御屋形殿のご命令ですので。
わしらはムカデ岩に向かう途中に奇襲にあったんじゃ。
ムカデ岩ではご家老の草壁仮野介殿が…。
大きなお声を…。
黙れ!目を覚ましてしまいます。
治療中ですから。
待て待て。
直属の上官の治療を優先するように迫る勝治郎
お師匠が手当てしてるんです。
分かっておるわ。
勝治郎と医僧の慶明との間で激しいやり取りが続く
何だよこの小坊主!出てって頂けますか!生意気な小坊主!こっちを先に診ろ!
(徳念)分かりました。
(徳念)口論してるいとまがもったいのうございます。
しばらく十朗は目を覚まさないと考え徳念は三浦八兵衛の治療を行う事にした。
…がその時だった
おい!お主何者だ?いやあの〜別に怪しい者ではございませんので。
十分怪しかろう。
いやちょっと…あっ。
すみません。
新手の戦道具か?何だこれ!あっ!おい!何者だ!名を名乗れ!上向いて。
上向かせてくれ。
(うめき声)水はどうした?水。
水飲ませてくれ。
(うめき声)
(せきこみ)我慢して下さい。
金の創と書いて金創と読む。
主に戦場での刀傷の事を言う。
この金創の治療法はもともと合戦の当事者たちが自らの傷を治すためのものだった。
やがて薬を使った方法論が確立していく。
徳念たち従軍する医僧にとって金創治療は最も大事な治療法だった。
傷口を縫いこう薬を貼り布を巻く。
基本的な金創治療である
(うめき声)もう一針縫います。
八兵衛の応急処置を終えると徳念はすぐさま十朗の矢抜きの手術を再開する
(徳念)手当て終わりましたよ。
(徳念)大丈夫です。
さあそろそろ矢を抜きますよ。
大丈夫ですからね。
これをちょっとくわえてて。
すみませんが脚ちょっと押さえといて下さい。
わしがか?すぐに終わります。
しょうがねえな。
動かないようにしっかりお願いしますよ。
頼む。
はい。
では抜きますよ。
しっかり押さえてて下さい!
矢抜きの手術は粛々と進められた。
現代の医療から見れば何とも乱暴に映るが戦国時代のしかも合戦のさなかという制限された状況ではこれが精いっぱいの手当てである
(うめき声)
無事矢は抜けた。
しかし出血が止まらない。
徳念は懸命な治療に努めた
出血がちょっとひどい。
抜けましたよ。
大丈夫ですよ。
(うめき声)ゆっくり押さえといて下さい。
まだ動かしちゃ駄目ですよ。
軟膏と消毒液。
はい。
(うめき声)
(うめき声)もう抜けましたよ大丈夫ですから。
やがて努力のかいがあり出血は止まった。
十朗は落ち着きを取り戻し始めた
(うめき声)
医僧たちのおかげで2人の命はなんとか救われたようだ
もう大丈夫です。
(侍)かたじけのうございます。
徳念には悔やみきれない過去がある。
かつて数々の戦において武勇で名を上げた兵士だった
三浦殿。
三浦殿。
三浦殿。
まいりましょうか。
さあ。
まだ動かしてはなりません。
今動けば傷口が広がるだけです。
悪化する戦況を危惧する勝治郎は八兵衛と共に一刻も早く前線に戻りたかった。
だが事態は再び緊迫した状況を迎える
清衛門か!?み…三浦殿!
前線から戦況を伝えるためひん死の状態の伝令が倒れ込んできた
ムカデ岩の所で待ち伏せしてて…。
草壁様は!?痛手を…。
前線にいる彼らの部隊長家老の草壁仮野介が重傷を負ったとの報告。
緊急事態である
清衛門!清衛門!大丈夫ですか!?清衛門!
報告を終えると伝令は息を引き取った。
命懸けの任務
残念ながら…。
横拭いてあげなさい。
僧りょが戦に従軍するようになったのは鎌倉時代末期と言われている。
付き従う武将の万一の臨終の際念仏を唱え極楽浄土へ導くようにするのが当初の役割だった。
やがて当時の先端医療を習得した僧りょが負傷者の治療も行うようになった。
そして戦国時代を迎え医僧が従軍する機会も多くなった
三浦殿私は…。
ちょっとお待ち下さい。
何だ?徳念殿も連れていかれるんですか?当たり前だ。
私たちは帰らなければならんのです。
残念ながら私どもはご同行かないません。
何だと?それこそ御屋形殿のご意向をないがしろになさるものです。
申し訳ございません。
分かっておるが…。
分かっておるわ!…どうするつもりだ?
家老草壁仮野介を心配し一刻も早く前線に赴きたい勝治郎が2人の医僧に同行を促す。
だが総大将の許可なく前線に赴く事はできない。
十朗の治療が済んだらすぐに本陣に戻れというのが総大将からの命令であった
お師匠それは…。
お師匠。
仏は慈愛が深いんだ!
傷を負った人間を黙って見過ごす事はできない。
徳念は医師として前線に赴く事を決意する
2人の医僧は自らの判断で勝治郎と共に最前線に向かう事にした。
歩く事およそ2時間。
辺りは既に暗くなり始めていた。
最前線近くの退避場所
間もなく最前線に近づいているようです。
そこは無数の怪我人がひしめきまさに地獄絵図と化していた。
そこで雑兵たちの壮絶な治療現場を目の当たりにする
当時まともな医療を受けられるのは位の高い者だけである。
前線にいる雑兵たちは自分たちで迷信じみた治療法で処置するしかなかった。
徳念はすぐに無謀な治療をやめさせていく
おいしっかりしろ!
(うめき声)大丈夫か!?
(うめき声)
(うめき声)もうちょっとだ!いくぞ!大丈夫か!?大丈夫か!?抜けたからな!しっかりしろ!大丈夫か!?しっかりしろ!
(うめき声)
それは現代の感覚からするとあまりにも常識外れでひどいものだった
(うめき声)三浦八兵衛殿の家臣小木田勝治郎と申す者。
三浦殿の…。
こちらだ!草壁様!医者がおります!少々お待ちを!お〜い!お〜い!御坊!こっちを!臨終だと?バカな…。
かような事あってなるものか。
草壁様…草壁様!おい…おい!
家老の草壁仮野介は既に息を引き取っていた
お前たちがこのような雑魚どもを相手にしてるからこうなったんではないか!?お前たちのせいじゃないか!?草壁様草壁様!もっと手当てをせい!拝むんじゃない!御坊おい御坊!おいどこ行くんだ?お前まさかまだ足軽どもの手当てをするつもりじゃないだろうな?
(慶明)いい加減にして下さい!もう手当ては終わりました。
(勝治郎)終わる訳がない!草壁様はまだ生き返る!
(慶明)ほかの方の手当てもしなきゃならんのです!
(勝治郎)御坊待て!
(慶明)いい加減に…。
(勝治郎)小坊主!今からでも薬を与えれば必ず生き返る!
(慶明)いい加減にして下さい!もう手当ては終わったのです!
慕っていた家老を失いその怒りを医僧たちにぶつける勝治郎。
その時…
あっ…。
敵からの奇襲攻撃。
無数の矢が降りかかる。
すさまじいパニック。
逃げ出す彼らを追って懸命にカメラを回した
大丈夫かおい!大丈夫か!ありがたいありがたい。
おいしっかりしろ!はぁはぁ…危なかったっす。
前線から5km離れた安全地帯。
怪我を負った勝治郎を2人の医僧が必死に治療を行う
酒をかけて下さい。
うう〜っ。
抜きますよ。
うっうっ…。
(徳念)眠ってはなりませんよ。
しっかり!寝てはなりませぬぞ!
(慶明)気を確かに!
(徳念)寝てはなりませぬぞ。
ああ…。
(徳念)眠ってはなりませんぞ!ああ…。
(慶明)しっかり。
眠ってはなりませんぞ。
いいですか眠ってはなりません。
起きて下さい勝治郎さん。
(慶明)今矢を取りましたからね。
寝てはなりません死にます。
(慶明)大丈夫ですよ勝治郎さん。
(徳念)勝治郎さん寝てはなりません!目が覚められましたね。
痛みの方は?大した事はない。
毒が塗ってあったようです。
しかしもう心配いりません。
感謝の気持ちを無言で伝える勝治郎
(慶明)あの木立の方に行きましょう。
土も軟らかいし。
私たちはいったん昨日の小屋に戻るつもりですがいかがなさいます?わしも心配だ。
わしもご同行願おう。
もうしばらくお待ち下さい。
回向を行い亡くなられた方を葬らなければなりませんので。
それにあの茂みの裏に深手の方々もおられます。
仏の回向の前にその者たちの手当てをしましょう。
分かりました。
さあ。
大丈夫ですか?
彼らが退却するのを見送りここで別れる事にした。
大きな戦乱華やかな武将たちの活躍が語り継がれる一方その陰には歴史の片隅にすら残らない人々が無数にいた。
医僧彼らもまた生をつなぐために命を懸けて自らの職務を全うしていた
以上コードナンバー200094アウトします。
2015/04/15(水) 01:30〜02:00
NHK総合1・神戸
タイムスクープハンター セレクション「戦国救急救命士」[字]
「タイムスクープハンター」のアンコール放送。時空ジャーナリストの沢嶋雄一(要潤)が戦国時代、医療技術を身につけた僧に密着、戦場での活躍をドキュメントしていく。
詳細情報
番組内容
今回の取材対象は「医僧(僧医)」。戦国時代、医療技術を身につけた僧が戦場で傷を負った者の治療や応急処置に奔走、現代の救急救命士や医師の役割を果たした。16世紀の戦国時代、医僧の徳念と弟子の慶明は総大将の命令を受けて、重傷を負った家臣の十朗を救うべく前線に派遣された。だが、思わぬ困難に直面する。医僧がどのように救命活動を行ったのか、知られざる姿を浮き彫りにする。
出演者
【出演】要潤
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドラマ – 国内ドラマ
バラエティ – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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