手早く作れて味わい深い一品です。
重厚で厳かなたたずまい。
日本美術の粋を集めた宝。
その名は…そんな国宝を軽やかな視点で身近にしてくれる人がいます。
今注目のライター橋本麻里。
国宝ブーム立て役者の一人です。
あの徳川家ゆかりの国宝建築は「デコ」?古都の寺院は平安貴族の「テーマパーク」?黄金に輝く屏風絵で桃山時代にタイムスリップ。
橋本流の切り口で国宝を体感してみましょう。
きっと日本美術が好きになるはず。
梅の香りが漂う頃。
きれいですね。
梅がちょうど盛り…。
ライターの橋本麻里さんと一緒に国宝を求める旅を続ける大宮エリーさん。
作家・演出家として活躍する大宮さんは絵画制作にも取り組んでいます。
今回は尾形光琳の日本美術屈指の名作に出会うためこの美術館にやって来ました。
2015年は光琳没後300年。
各地で記念行事が開かれる中ここでは光琳の二大国宝を同時に見られる特別展が開かれていました。
江戸時代光琳は絵師として活躍する一方技巧を凝らした調度品も手がけるアートディレクター。
自宅さえ自ら設計するなどあらゆる分野の垣根を越えて美を追求しました。
天才尾形光琳のすごさの秘密とは。
国宝を通して探ります。
2人がまず出会ったのは…。
見えてきました。
こちらです。
あっこれか。
へえ〜。
うわっすごいですね。
なんかこんな鮮やかなんですね。
そうですね。
へえ〜。
金箔をベースに群青色の燕子花の花としなやかな葉の緑がリズミカルに描かれています。
もともとは座敷のインテリアとして作られた屏風。
そこに表現された景色は見る人をまるで水辺へと誘っているようです。
こういう湿地帯みたいなとこ行ってこういう光景を目にする事もあると思うんですがそういう時よりも強烈に感動するのは何でなんでしょうね。
多分光琳の腕の見せどころの一つだったと思うんですけれど…あ〜そうなんですか。
見る者の想像力をかきたてる光琳ならではの仕掛けが随所に隠されています。
これよく見て頂くと燕子花株というか群れで描かれてますけれども同じ形がコピー&ペーストされるように登場する所がいくつかあるんですね。
ですからこれ恐らく型を使って描いてるんじゃないかという話もあるんですね。
どこが一緒なんですか?全然分かんなかった。
フフフッ探してみて下さい。
ほんとですか。
1つ目の仕掛けはコピー&ペースト。
エリーさんなかなか見つけられないようですが答えはこちら。
四角で囲った部分にご注目。
これを切り取って右下の花と比べてみると…。
ピッタリ同じ形です。
続いてはこちらの花の群れ。
左の花と重ねてみると…。
ほらこのとおり。
花は型を使って描かれていたんです。
そして2つ目の仕掛けは省略の美しさ。
「燕子花図屏風」のモチーフは「伊勢物語」八橋の段。
この場面を表現する時多くの絵師は燕子花と橋そして人物を描きます。
ところが光琳が描いたのは燕子花のみ。
説明的な要素は一切省き花だけで表現したのです。
更に3つ目の仕掛けは見る角度によって表情が変わる絶妙の構図です。
どっから見るのも人それぞれだしその時の置き方で見え方が変わるのが一番楽しいところだと思うんですけれど…。
私は花に囲まれたいタイプなのでまあこちら側の屏風ですよね。
こちら側を振り返ると花が段々になって…流れるように見えてくるんですがこちらだと…実際に「燕子花図屏風」のレプリカを使って視点を変えたらどのように見え方が変わるのか試してみましょう。
右の屏風には燕子花の群れがジグザグに配置され描かれています。
その様子を座って低い位置から眺めれば群れを成す花を仰ぎ見るようになります。
まるで花に囲まれているよう。
光琳は屏風という形式を最大限に生かしどの視点からでも美しく見える構図にしたのです。
私なんか遠くから見るのが好きだな。
このぐらいの。
一望のもとにおさめたいって感じですか?う〜ん…。
なんかこうオーディオみたいなね。
右と左…。
ステレオで。
そうそう…音が飛んできてここで交わる…こう右と左がある事ですごい世界がバーッと増すというかもしかしたらこっちもサラウンドで囲まれてるような感覚になりますね。
光琳の類いまれなる才能はどのように育まれたのでしょうか。
その答えは彼の生い立ちにありました。
1658年光琳は高級呉服商雁金屋の次男として生まれました。
実家では当時流行の最先端を行く着物のデザインが常に身近にありました。
これは当時雁金屋で使われていた衣装図案帳。
その中にはあの燕子花の文様もありました。
こうした文様の繰り返しで構成される着物のデザインは光琳に大きな影響を与えています。
早くから能や書など一流の教養を培った光琳は絵筆を執ってもメキメキとその優れた才能を発揮します。
しかしそんな暮らしが突如一変します。
30歳の時父宗謙が亡くなりばく大な遺産を相続した光琳。
しかし大名貸しの証文が不渡りとなり更に自身の放蕩によって財産を失ってしまうのです。
前半生はすごく華やかにお坊ちゃまとして暮らしてたのに。
じゃあどうしようか。
手に職もあんまりないし遊び暮らしてただけだから。
でも…始めた動機が割と不純じゃないですか。
だから「ぽっと出」じゃないですけどパッと描いたやつが「いいね」ってなったって事ですよね。
すごい才能ですよね。
なかなかこの人ね…すぐ使っちゃって。
困った男なんですよ。
浮き名を流した女性は数知れず。
もめ事のあげく方々に借金をするありさまでした。
そんな光琳が絵師を志したのは30代後半の事。
精力的に創作活動に打ち込みます。
そして生まれたのが…絵画的なセンスと工芸を見事に融合させた名品です。
「燕子花図」と同じ「伊勢物語」がモチーフ。
5つの面を鉛の橋でつなげるデザインは光琳ならではの発想です。
箱の中にも繊細な意匠が施されました。
一筆一筆描かれた波の文様。
後に「光琳波」とも呼ばれる繰り返しが美しい独特のデザインです。
その後も生活を彩るための美しい道具を次々と創作した光琳。
その評価は次第に高まり後に「光琳文様」として確立していくのです。
光琳は自ら住まう屋敷もデザインしました。
こちらはその間取り図です。
MOA美術館の一角に光琳屋敷として再現されています。
じゃあ中に入ってみましょう。
光琳らしい工夫が随所に施された家屋。
ふすまの仕立てや壁の色に至るまで細かな指示があったといいます。
こちらは茶室の窓。
竹格子にツルを絡めたデザインは光琳のお気に入りだったとか。
若い頃はすごく大きいお屋敷にいい暮らしをしてた…。
それが…同じ事はできないにしても同じような気持ちで住めるような。
しかも…隣の部屋なんか茶室ですからね。
ここお茶室ですか。
茶室入る時の扉こういうやつですもんね。
これはにじり口ではなくて勝手口ですね。
ここが水屋という…ここで茶わん洗ったり。
何でこんなに狭いの?ほら。
楽しいねこれ。
何回も…。
アハハハハ!2階には光琳が最も大切にしていた作業場があります。
結構大変ですよね。
ほんとですね。
かなり足が強かった…。
足腰が。
おお〜広いですね意外と。
こんなアトリエあったらいいと思いませんか?いいですね。
なんか骨太ですね。
ドーン…ダイナミックじゃないですか。
ちょっと古民家風のというか。
そうですね。
静かな環境で仕事に打ち込めるようにと2階につくったアトリエ。
ここでも数々の名作が生まれました。
作業場って汚れるじゃないですか。
布とか敷いてたんですかね。
「きたなっ」みたいな。
そんな事ないか。
光琳ですよ。
スタイリッシュな。
分かんないですよ。
なんか身をやつすみたいな。
こういう場では本性を出すみたいな?でも会った事ないじゃないですか。
まあね。
すごいむさ苦しい人かもしれないし…。
そうかな〜?私の中の光琳図はスタイリッシュなおじ様なんですけど。
なんか誰か分かんないみたいなね。
「光琳さんって誰?」とか言ったら「ええっお前!?」みたいな。
描いてる時は。
でもかっこいい。
だからギャップみたいな。
ギャップ萌えみたいな。
まあまあ。
妄想は尽きませんが。
さて50代になった光琳はいよいよ自らの集大成というべき作品を仕上げます。
こちらですね〜。
なんか渋いですね。
こっちは。
光琳晩年の傑作です。
この絵には光琳の美意識の全てが凝縮されています。
川がかなり柄物じゃないですか。
でこれこそちゃんと描いたのかなっていうよりもあのパターンを置いて塗ってったのかなって感じしますよね。
これがどういう技法であるいはどんな素材を使って描かれたかという事については今まで長い議論が重ねられてきたんですね。
調査も並行して行われてたんですけれどもそれについてある意味ファイナルアンサーが出たので…。
その答えを教えて下さるのは…この波の描き方というのはほんとに明治の頃からいろんな方がいろんな技法を提唱されていまして燕子花の…ええ〜!じゃあ今黄土色に見えてる部分は金ではなくて銀色だったって事ですか?そうなんです。
ええ〜!僅かに残ってますよね。
ほんとですね。
白っぽいですね。
これが当初分からなかったんですがこれやはり銀なんです。
実は黒い所も銀なんです。
当時どのような色だったのか。
水流の地に使われていたのは銀箔でした。
その上に「どうさ」というにじみ止めの液で波の文様を描きます。
更に全体に硫黄の粉をまぶすと水流の地は黒く変色しどうさの部分だけが銀色のまま残るのです。
銀を硫黄で変色させるのは当時主に工芸品に使われていた技法。
絵画と工芸の枠を超えそれぞれの技法を融合させた光琳だけが到達しえた表現だったのです。
私たちの見ている「紅白梅図」は300年という時の流れの中で色を変えていたのです。
「やけにシックだな」とは思った…「あれ?どうした?」と思ってこれはこれでかっこいいなと思ったんですけどやっぱり本当はもっと派手だった…金と銀ですもんね。
もっと派手ですね。
金と銀の派手な屏風。
でも…えっ?有機染料が出てるんです。
有機染料はもう既にとんでしまってますので今見た目は白ですけれども描かれた当初はいわゆるピンク桃色だった。
だから「紅白梅」ではないんですね。
紅桃…。
「紅桃梅図屏風」。
へえ〜そんな変化しちゃうんですね。
300年たってますのでね。
その間で変化して。
でもまあイマジネーションをして頂くとこれが金と銀で非常に華やかな屏風であったっていうとやはり光琳らしいですよね。
フワーッとした江戸の…そしてエリーさんもう一つ気になっていた疑問がありました。
館長さん真ん中の川がすごく幾何学模様というかかなり抽象的じゃないですか。
それなのに両サイドの梅の木がかなりリアル…。
何であんなふうにリアルに描いたのかなっていう…。
すごく写実的に見えますでしょ。
違うんですか?実はそれがもう光琳にだまされてるわけなんですよ。
私だまされてるんですか!?ええ。
これご覧頂いて…よく見ると花びらが一続きに描かれディテールが省略されています。
梅の花をデザイン化する事でリアルな枝との対比を面白がっていたんでしょう。
全てを捨て去って切り捨てていくで抽象化していく。
波もこういう抽象的な波になっている。
そこは光琳の天才性なんじゃないでしょうかね。
評価されているっていうか。
「紅白梅図屏風」のレプリカを部屋の中に置いて体感させてもらいます。
じゃあこちらの部屋に「紅白梅図屏風」の複製を用意して頂きました。
同じサイズですね。
グッと変わりますね。
え〜すてきですね。
またほんとにイメージ違いますよね。
あと大きく感じますよね展示室より。
なんかでも部屋が広く感じます。
置いたから狭くなってるはずなのにすごく奥行きが出た感じしますね。
縁側に庭があるじゃないですか。
こっちにも庭がある感じがして。
すごく風通しがいい感じがしますね。
やっぱりなんか…言葉遣いもきれいになりそうですねなんか。
「マジか!」とか言わなそう。
アハハハハ!「ほんとですか?」とかいうね。
「それは本当ですか?」という感じがしますけど。
なんかこの雰囲気に合わせようという気持ちになりますね。
やっぱり美しいものに囲まれるって大事なんですね。
大リーグボール養成ギプスじゃないですけど…光琳の残したデザインは今も私たちの暮らしに息づいています。
「光琳菊」と呼ばれるふすまの柄。
同じ文様はそのまま和菓子として私たちの目を楽しませてくれます。
江戸から続く京唐紙の老舗では現代的な作品が次々と生まれています。
光琳の代名詞でもある梅の文様はポストカードやモダンなランプシェードに。
光琳のデザインは300年たった今も多くのアーティストを刺激し私たちの暮らしに潤いを与えているのです。
まさにモダンアートって鑑賞するものとして生活の場から切り離される事で成立したはずなんですけれどもそういう感じを持つものがもう一回生活の場にこうやって置いてみると本当に暮らしを美しく彩ってくれるものとして無理なく調和しているっていう相反する要素が両立してるのが尾形光琳の魅力だと思います。
すごく光琳っていう人物が「国宝の人」っていう事よりもとても身近に感じられたというかお金に困って「じゃあ絵でも描くか」なんつってそしたら当たっちゃった…。
でも結局いろんな女性の事を愛してそれでどんどん散財してったっていう。
で絵を描く。
また散財するみたいな。
すごく…国宝って言われてるけど人間らしいっていうかね。
「駄目男じゃん」みたいなところもまた面白かったなと思いました。
2015/04/14(火) 21:30〜21:55
NHKEテレ1大阪
趣味どきっ! 国宝に会いに行く 第3回▽尾形光琳 紅白梅図屏風・燕子花図屏風[解][字]
エッジのきいたキーワードを切り口に国宝の魅力をわかりやすく伝える「橋本麻里と旅する日本美術ガイド」。今注目のライター橋本麻里があなたを国宝ワールドへナビゲート!
詳細情報
番組内容
今回は、江戸時代、京都で活躍した天才アーティスト、尾形光琳。花をモチーフにした二大国宝に出会い、光琳の卓越したデザイン力と、現代にも通じるセンスの源を探る。「かきつばた図屏風」は、金色を背景に鮮やかな群青色の花が配され、余分なものを排除したシンプルさ。一方「紅白梅図屏風」は、中央の太い水流と両サイドにリアルな梅の木の大胆な構図。光琳はいったいどんな仕掛けを忍ばせ見るものをどこへいざなっているのか?
出演者
【案内人】ライター、明治学院大学・立教大学非常勤講師…橋本麻里,【旅人】大宮エリー,【出演】MOA美術館館長…内田篤呉,【語り】中谷文彦
ジャンル :
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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