クローズアップ現代「復興イノベーション〜被災地発 新ビジネス〜」 2015.04.14


贈答用のイチゴ1粒1000円。
生まれたのは、意外な場所でした。
乾杯!
今、これまでの仕組みや常識を打ち破り次々と新たなビジネスが生まれている地域があります。
農業の経験がなかった若者がIT技術を駆使して作る高級イチゴ。
フィッシャー、ファイト!
ライバルどうしだった漁師が手を組み、日本を代表するブランドを作ろうとするグループ。
舞台は東日本大震災の被災地。
復興への志を持った地元の若者と外から入ってきた人との新たなネットワークが生まれイノベーションが起きているのです。
何かが破壊されたときっていうのは何か大きく新しく変わったりイノベーションが起きるチャンスだと思いますよ。
逆境から生まれた復興イノベーション。
日本の新たな可能性を探ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
被災地から将来日本を代表するようなビジネスが果たして生まれるのか。
そしていずれ、世界にも通用するビジネスモデルへと飛躍できるのか。
大きな夢を抱きながら新規事業ベンチャーを立ち上げる若者たち。
今、この若者たちを支える仕組みが被災地で急速に広がっています。
ビジネスを立ち上げ、軌道に乗せるのは容易ではありません。
資金繰りに行き詰まったり市場をうまく開拓できなかったり専門的な人材の確保が難しかったり一歩前に踏み出した企業の前にはさまざまな問題が立ちはだかるといいます。
それらを一つ一つ乗り越え成長できるのか。
未曽有の被害を受けた東日本大震災の被災地では震災後、人口が流出し過疎化や高齢化の問題が一層深刻になっていますが同時に、新たな事業を立ち上げる動きが活発です。
従来のやり方や古いしがらみにとらわれない新たな生産方法流通、販路の開拓。
イノベーションで未来を切り開こうという被災地のうねりは、それを支援する仕組みの広がりにも支えられ日本をリードする事業へといずれ羽ばたくのではないかと期待を抱かせるものも出てきています。
どんな新たな事業のアイデアやビジネスの仕組みが被災地で生まれているのか。
イノベーションの大きな原動力となっているのが震災後に生まれた新たな人と人とのつながりネットワークです。
1粒、最高で1000円にもなるイチゴはどうやって生み出されたのか。
宮城県山元町にある農業法人です。
3億円の補助金を活用したハウスでは、温度や湿度など品質を高めるための環境を管理しています。
食べてみるのも結構大事なんですよね。
この法人を立ち上げたのは東京でITコンサルティング会社を経営し農業の経験がなかった岩佐大輝さん、37歳です。
地元、山元町の出身です。
こちらは山元町です。
山元町です。
東北を代表するイチゴの産地だった山元町。
津波による塩害で、これまでの露地栽培を続けることは難しくなりました。
ボランティアで地元に戻った岩佐さん。
従来にない栽培方法で、逆境を乗り越えることにしたのです。
一般の農家は人件費や施設の維持管理など生産に関わる部分に資金をかけています。
一方、岩佐さんが重視したのはイチゴの研究開発やマーケティングでした。
岩佐さんが頼ったのは地元の農家が蓄積してきたノウハウです。
熟練の技を分析し、数値化。
それをもとに生産に乗り出しました。
先端の糖度が12度を超えると甘いといわれるイチゴ。
測ってみると、15.2度。
全国トップレベルの甘さを安定的に生み出せるようになりました。
さらに、イチゴ一粒一粒をパッケージングするなど高級感を演出。
独自のブランド名も付けて売り出し、特別なイチゴだと消費者に訴えることで1粒最高1000円のイチゴが生み出されたのです。
一方、漁業の分野でもこれまでの常識にとらわれない若手のグループが誕生しています。
横浜市内のホテルで人気を集める魚介料理。
使われているのはすべて宮城県で水揚げされたものです。
提供しているのは去年8月に結成されたフィッシャーマン・ジャパン。
異なる産品を扱う県内各地の若手漁師たちが集まり立ち上げました。
宮城県石巻市。
メンバーの一人、わかめ漁師の阿部勝太さん、29歳です。
民間企業などに5年勤め震災の2年前に地元に戻りました。
グループ結成の背景には震災のあと、これまで知り合うことがなかったような人たちとの出会いがありました。
自分たちが考えていた以上に品質や漁業の持つ価値を評価してくれる声に触れこれまでの漁業の在り方を変えたいと考えるようになったのです。
どうしたら自分たちが持つ価値を、最大限に発揮できるのか。
フィッシャーマンズマーケットとか…。
これまで、取る魚が違うため交流があまりなかった若手漁師たちがグループを組むことにしました。
従来は一般的に地域ごとに漁協などを通じ市場に出荷していました。
その垣根を越え強みを持ち寄ることで三陸の海の幸をそろえた日本を代表するブランドを作ろうと考えたのです。
どうぞ、いらっしゃいませ。
品ぞろえを強みに販路を開拓。
直接売り込むことで、阿部さんのわかめは震災前の2倍から3倍の値がつくようになりました。
ごゆっくりどうぞ。
独自のブランドを武器に海外にも販路を広げています。
この日、訪れたのはフィッシャーマン・ジャパンの商品を扱うネット通販会社です。
お世話になっております。
去年11月から香港への販売を始めています。
今夜は被災地の新規ビジネスの研究を続けていらっしゃいます、グロービス経営大学院研究科長の田久保善彦さんをお迎えしています。
本当に若い人たちの目が、きらきらと生き生きとしていたのが印象的ですけれども、震災後に生まれた事業の中には、着実に育っているものが、そして存在感が出てきたものがあるんですね。
そうですね。
全体としてどんな状況ですか?
震災のあと、仙台は非常に起業率が高い地域ということになっているんですけれども、それこそ、本当にたくさんのビジネスが生まれ、たくさんのプロジェクトが生まれました。
ただ一方で、そのプロジェクトの中には、うまくいかなかったものもありますし、役割を終えて、終わっていったものもあります。
ただ、今、Vにあったように、本当にしっかりとしたビジネスが、これからの東北の復興をけん引し始めた。
これからそういう可能性を強く感じるものが出てきている。
そんな状況にあるかなというふうに思います。
その4年間たっても続いているビジネスの中心になっている人々の共通点というものはありますか?
とにかく大変な状態だったわけですよね。
東北をどうにかしたい。
もうこの町をどうにかしたいという本当に熱い思い、志みたいなものが、やっぱりど真ん中に、本当に太くど真ん中に存在しているっていうのが、間違いのない一つの共通点かなと思います。
ただ一方で、もう一つ、皆さんが思っているものっていうのは、必ずそこに経済性、収益性を考えて、ちゃんとお金が回る仕組みを作ろうという、そういう能力なり、そういう思いなり、力なり、そういうものを持っている人っていうのは、非常に多いというふうに思います。
もう一つ、この人たちは、全部を自分でやろうとしないんですね。
とにかく周りの人をたくさん巻き込んで、友達を連れてきて、知り合いを連れてきて、どんどんどんどん、自分の得意なところ、得意じゃないところは人に任せて、自分の得意なところは自分でちゃんとやって、そんなことを、相乗効果を狙っていっている。
そんな人たちがリーダーとして、今、活躍をしていると、そんな印象を持っています。
例えば、今のVTRにありましたイチゴの岩佐さんですけれども、初めは被災地の泥かきから始めて、今は最先端のITを使ったイチゴ作りにまでいわば飛躍をしていったわけですよね。
どうしてそんなことが可能だったのか。
岩佐さんはもともと高校卒業したあと、東京でIT会社の社長をやられてたと。
自分の地元が被災をして、戻ってきたわけですよね、一番最初に岩佐さんが取り組んだのは、本当に半径5メートルくらいのの所のボランティアとしての泥かきだったというふうに聞いています。
でも、そんなことをやる中で、町の方から、社長なんだから、泥かきをずっとやっているのではなくて、ちゃんとビジネスを持ってきてほしいと、そんなことを言われたらしいんですよね。
そして、岩佐さん自身は泥かきの次のフェーズとして、ちゃんと雇用が生まれるビジネスを山元町に持って帰ってこなければ、やはり自分の価値はないだろうということを思って、そして、自分が得意だったITの分野と、そしてイチゴの分野を掛け合わせたITによるフルコントロールの新しい本当に先端農業に取り組んできた。
そして、そのきっかけになったのが、国からの補助金みたいなこともあったんですけれども、その補助金を取るのも、やはり、かなりの企画書みたいなものを書かなければならないんですよね。
そんなものも、実は岩佐さんは銀行員の友達がいたり、弁護士の友達がいたり、本当にそういう人たちのボランティアのパワーを集結させて、そんなプロジェクトをちゃんと国から取ってきて、そして今、本当に最先端農業を宮城県の山元町で展開をしていると、そんな流れですね。
専門スキルを提供したいという方々もいっぱいいたということですけれども、一方で、フィッシャーマン・ジャパン。
こちらは、違う地域の違った人たちが今までは、いわばライバルと言っていいんでしょうかね、人たちがつながったことで、新たなモデルが生まれているということですけれども、田久保さんの目からご覧になって、何が一番新しいですか?
ライバルどうしがライバルの意識を超えてつながったってことが、一つ、大きいと思うんですけど、もう一つ、大きいなと思うのは、基本的には、やはりお魚、漁協さんを通じるか、もしくは魚市場に持っていくかという、この2つの選択肢がほとんどなわけですよね。
でも今、VTRにあったように、直販のルートみたいなものを開くことができた。
つまり、漁師の皆さんに、第三のオプション、自分たちの取った魚、育てた魚を売る第三のオプションを提示できている、提示しつつあるというのが、非常に大きなポイントかなというふうに思います。
このどちらのモデルも、これは被災地に限らないビジネスモデルですよね。
そうですね。
例えばですね、岩佐さんはこれから何をしようとしているかというと、自分たちの作ったモデルを、新規に農業に就労される方に展開をして、いわゆる横展開をしようと。
横展開ということは別に宮城県とか地元に限らず、どこでもいけるわけですよね。
フィッシャーマン・ジャパンも別に三陸に限った話ではありませんから、フィッシャーマン・九州が出来てもいいかもしれません、四国が出来てもいいかもしれません。
そんな思いも込めて、ジャパンという一番おおくくりにしたとも聞きましたけれども、本当にこの2つのモデルは、これから日本どこにでも持っていける横展開可能なモデルだなというふうに思います。
そうですね。
お伝えしていますように、被災地で生まれ、育っている、この新たなビジネス。
その背景にはそれを支える仕組みが広がっているということがあります。
ことし2月、仙台市でベンチャー企業を応援するイベントが開かれました。
壇上に上がったのは、震災後事業を始めた起業家たちです。
このイベントを主催した竹井智宏さん、40歳です。
竹井さんは、東北を変えるのはベンチャーだと考え震災の起きた年の夏に、起業を支援する組織を設立しました。
これまで、100人を超す起業家を支援。
IT関連や福祉機器の分野などで新しいビジネスが次々と根づき始めています。
例えばこちらは寝たきりの人でも楽に移動でき足腰の機能回復にも役立つ足こぎ車いす。
竹井さんは、世界でも戦えるビジネスになると考えています。
竹井さんが力を入れているのがベンチャー企業への資金調達です。
この業者は、仮設住宅などに暮らす200人の高齢者に弁当を配っています。
特徴は、一人一人の健康状態に合わせた弁当作りです。
ところが、この会社が2つ目の事業所を建設しようとしたとき資金難という壁に直面しました。
そこで提案したのがクラウドファンディングです。
経営者は、ホームページ上で事業の趣旨を説明。
その成長性に共感した人から資金提供を受けるというものです。
利子の代わりに特産品などが贈られます。
出資をした東京・練馬区に住む男性です。
事業の内容に、大きな可能性を感じたといいます。
ひとつきで集まった金額は215万円。
クラウドファンディングは震災以降、急速に拡大し支援額はこの2年でおよそ10倍となりました。
また震災を機に人材を派遣する新たな仕組みも作られています。
おととし5月に設立された介護事業所です。
施設の利用者が日増しに増えています。
そのため、人材の確保が大きな課題となっていました。
そこで利用したのがNPO法人が震災の2か月後に立ち上げた右腕派遣プログラム。
これは介護やIT技術、教育など専門的なスキルを持った人材を全国から募集。
リーダーを支える右腕として被災地に送り込もうというのです。
これまで、208人が派遣されました。
右腕の人たちにはこのプログラムを支援している企業などからひとつき最低15万円の活動支援金が支給されています。
この制度を利用して島根県からやって来た落合孝行さん、27歳です。
社会福祉士の資格を持つ落合さんは、右腕として介護予防の拡大に力を入れています。
健康体操を取り入れお年寄りの認知症や閉じこもりを防ごうというのです。
将来は、ふるさとに戻ろうと考えている落合さん。
被災地で培った経験を、島根でも生かしたいと考えています。
小さな事業所にとってみると、専門性のある人材、どこに行けば見つかるのか分からないときに、助かるでしょうね。
そうですね。
やっぱり、マッチングをする仕組みということが出来たということは、この国にとって、非常に大きなことだというふうに思うんですよね。
知っている人は知ってるけど、知らない人は知らないということでは、なかなか使える人も少なくなってしまいますから。
それから、もう一つ、お金面も、クロウドファンディングという仕組みは、この震災のあとに、急激に認知を得て、広がってきている仕組みだなと思います。
誰が何をやるかというのが、極めて明確になっていますから、やはり、お金を投じる側も、いろんな期待値とか、そういうことを込めて、この人がこれをやるんだったら、じゃあ自分のお金を少し寄付しよう、もしくは、この人に託してみようみたいなことができる、このインフラは本当に大きいと思います。
どちらのインフラも、多様な仕組みがいろんな形で、今、出来てるんですよね。
そうですね。
人のマッチングというのは、今回は、プロジェクト的にやってる部分がありますけれども、そもそもボランティアをしたい人と、ボランティアが欲しいNPOをマッチングをするためのNPOもあったりします。
なるほど。
こういう世の中の本当、広くいろんなものを支えるインフラが出来てくるというのは、本当に震災を契機に、いろんなことが立ち上がってきている感がありますけれども、本当に日本どこにいても、こういう仕組みは使えますから、これから先の日本のまあ、地域の再生だとか、そういうことにも、いろいろ貢献できるような、そんな状況になるのではないかなというふうに思います。
そうすると4年たった被災地から見えてきたものというのは、課題、解決型の事業を立ち上げようと思えば、被災地のみならず、全国で、そういうインフラというものを、活用できるようになってきたと?
そう思います。
きょうのVTRでいけば、最も厳しい状況にあった地域から、これだけの成功事例というものが出てきたわけですよね。
そして、イチゴの例もフィッシャーマンの例もこれ、横転、可能な日本全国、どこにでも適用できるようなそんな事例でした。
そして、クラウドファンディングの話も、人のマッチング、人の派遣の方法にしても、これも別に地域を問うものではありません。
2つの事例があり、そしてインフラが整ってきたということを考えれば、これから先、日本がこういうものを本当に参考にしながら、または活用しながら、いろんな新しい価値を生める、そんな時代が来るのではないかなと、そんなふうに思います。
熱い志を持ったリーダーたちがどんどん立ち上がってほしいですよね。
2015/04/14(火) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「復興イノベーション〜被災地発 新ビジネス〜」[字]

東日本大震災の被災地で今、新たな革新「復興イノベーション」が起きている。既存の枠組みが失われた中、従来の発想にとらわれない斬新なアイデアを生み出す現場に迫る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】グロービス経営大学院経営研究科長…田久保善彦,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】グロービス経営大学院経営研究科長…田久保善彦,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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