混沌とした時代だからこそ一瞬一瞬を懸命に生きる。
新たに始まるドキュメンタリー「NEXT」。
そのスペシャル版。
去年12月に開かれたノーベル平和賞授賞式。
女性の地位向上を訴え最年少で受賞したマララ・ユスフザイさん。
スピーチで同じパキスタン出身の一人の女性の名を口にした。
マララさんに招待されたカイナットさん。
13歳の時に性的暴行を受け苦しみ続けている。
今も命を狙われ護衛なしには外出すらできない。
最愛の兄まで何者かに殺された。
男性優位の考え方が特に強いパキスタンの地方では命の危険にさらされている女性たちがいる。
この二十歳の女性は実の父親から左の頬を銃で撃たれた。
家族が選んだ相手との結婚を拒んだためだった。
親に逆らって結婚したり未婚で男性と関係を持ったりした女性たちは一家の名誉を汚したとして死を宣告され人里離れた土地に埋められている。
去年だけでも900人以上が犠牲となった。
「マララと共にこの社会を変えてみせたい」。
「死の宣告」にも屈せず闘い続ける女性たちに密着した。
パキスタンの女性たちに今何が起きているのか。
私たちは東部の農村で取材を始めた。
厳重に警備された病室の中で一人の女性が手当てを受けていた。
サバ・マクスードさん二十歳。
この数日前に右手と顔を銃で撃たれ大けがを負っていた。
襲われたきっかけは家族の反対を押し切って長年交際してきた男性と結婚した事だった。
サバさんは夫となる男性と駆け落ちした。
結婚した次の日サバさんと夫が暮らす家に父親と伯父が現れた。
「結婚を認めるから準備をしよう」と言われサバさんは連れ出された。
深夜たどりついたのは人けのない茂み。
突然父親と伯父の態度が急変した。
気絶したサバさんは父親と伯父に袋に入れられ川に放り投げられた。
何とか川岸にたどりつく事ができたサバさん。
近くにあったガソリンスタンドの明かりを見つけ助けを求めた。
サバさんは病院に運ばれ一命を取り留めた。
その1週間後父親と伯父が逮捕されたと聞かされた。
パキスタンの地方では家族が決めた相手以外と女性が結婚したり未婚で男性と関係を持ったりする事は社会的にタブーとされている。
そのタブーを犯した女性は一家の名誉を汚したとして家族や親族に殺される事がある。
「名誉殺人」と呼ばれる慣習だ。
名誉殺人の慣習が残る地方では長年人権団体によって撲滅活動が続けられてきた。
しかし男性優位の考え方が特に強い農村部で女性の権利を認めさせる事は容易ではない。
名誉殺人は中東や南アジアを中心に世界25か国以上で行われている。
国連の報告では毎年およそ5,000人が犠牲になっているという。
パキスタンでは去年900人以上が殺害された。
目の前で妻が名誉殺人の犠牲となった。
手作りの墓を作り妻の遺体をひっそりと埋葬した。
妻が家族や親戚に殺害されたのはイクバルさんと駆け落ちしたからだった。
妻のファルザナ・パルビーンさん。
殺された時妊娠3か月だったという。
ファルザナさんに対する名誉殺人は白昼堂々行われた。
待ち伏せしていた十数人に突然道路脇に引きずり込まれた。
名誉殺人は地域社会から命じられて行われる例も少なくない。
地主や有力者で構成される「ジルガ」と呼ばれる集会。
警察の管轄が及びにくい農村部ではこのジルガが名誉殺人を命じる事がある。
(拍手)パキスタン最大の都市カラチ。
8年前ジルガからの名誉殺人の命令に逆らいふるさとを追われた家族がいる。
名誉殺人の対象となったカイナット・スームロさん22歳。
カイナットさんは今アパートの一室で家族11人と窮屈な暮らしを送っている。
カラチに移り住んでから兄と父親は決まった仕事にはありつけず家族の食事も十分ではない。
カイナットさんが生まれ育ったのはカラチから250キロ離れたインダス川の下流。
女性だけではほとんど外出する人がいないほど男性優位の地域だ。
名誉殺人が命じられたのはカイナットさんが13歳の時だった。
カイナットさんによるとそのきっかけとなったのは学校からの帰宅途中に起きた事件だった。
姪への贈り物を買おうと立ち寄った店で突如背後から男たちに薬で眠らされ連れ去られたという。
うわさは近所に広まり住民からは未婚で性交渉したと責めたてられた。
性的暴行を受けたという訴えはかき消された。
カイナットさんの父親はジルガの命令を拒否した。
その直後経営していた食料品店は有力者から強制的に閉店させられたという。
ふるさとを追われた家族は犯人の逮捕を求めてカラチで座り込みを行った。
古い慣習にとらわれない都会なら自分たちの訴えを聞いてもらえるのではないかと考えたのだ。
2か月間訴え続けた事で地元紙で大きく取り上げられた。
報道からおよそ1週間後強姦の容疑で4人の男が逮捕され裁判が始まった。
容疑者はカイナットさんが立ち寄った店の経営者と店員そして親族だった。
男たちの親族は裁判所で激しく抗議した。
裁判が始まってからカイナットさんは銃を装備した警察の護衛なしでは外出すらできなくなった。
家族がしばしば襲撃されるようになっていたのだ。
車のフロントガラスが割られ乗っていた兄が暴行を受けた事もある。
アパートにまで何者かが度々脅迫しに来たという。
命の危険を感じた家族はこれまで住む場所を3回変えた。
しかしすぐに居場所は突き止められ脅迫が収まる気配はない。
男たちの逮捕から3年後裁判所の判決が下された。
4人の男たち全員が無罪となり釈放された。
性的暴行を行った証拠が十分ではないと判断されたためだった。
直ちに控訴したカイナットさん。
しかし最悪の事態に直面した。
兄が誘拐され何者かに殺されたのだ。
遺体には3発の銃弾が撃ち込まれていた。
24歳でこの世を去った。
まだ犯人は捕まっていない。
事件の真相を探るため釈放された男の一人に接触を試みた。
男の一家は複数の店を経営するカイナットさんの地元の有力者だった。
カイナットさんに性的暴行を加えたり家族を襲ったりした事実はないと主張する。
最愛の兄を失ったカイナットさん。
名誉殺人を拒否した事で家族が失ったものはあまりにも大きい。
家族の人生まで狂わせる名誉殺人の闇。
父親に銃で撃たれた…実家を離れ夫の家族と暮らしていた。
左の頬に残された傷痕。
名誉殺人で受けた恐怖は脳裏に深く刻まれていた。
サバさんを銃で撃ち殺そうとした父親は逮捕から僅か2か月後に釈放されていた。
娘に行った名誉殺人は地域で生きるためにやむをえなかったと主張する。
アハメド氏は町を転々としながら商売を続けている。
アハメド氏が釈放されたのはサバさんが裁判所に和解を申し出たからだった。
パキスタンでは一般的に刑事裁判でも和解が成立すれば被告は罪に問われない。
サバさんが和解した本当の理由は父親が怒りを抱いたまま出所する事を恐れたためだった。
慣習が重視される地域では裁判になっても加害者が罰せられずに釈放されるケースが後を絶たない。
父親が釈放されてからサバさんは誰かが家を訪ねてくる度に身を隠すようになった。
「名誉殺人」の背景の一つには10代前半で親に結婚を強いられる「児童結婚」の問題がある。
パキスタンでは女性の4人に1人が18歳未満で結婚。
児童結婚や名誉殺人は法律で禁止されているが地方では取締りが徹底されていない。
人権問題に取り組むNGOには児童結婚を強制された少女からの相談が相次いでいる。
この少女は12歳で家族から強制的に結婚をさせられ夫に暴力を振るわれているという。
更に6歳の姪までもが結婚させられそうだと訴えた。
NGOは少女の保護も視野に支援していく事にした。
NGOには毎日のように親からの脅迫電話がかかってくる。
幼いうちに親の都合で結婚させられていく少女たち。
横行する児童結婚が女性の自由を奪っていた。
こうした社会を変えたいと立ち上がったのが去年ノーベル平和賞を受賞したマララさん17歳だ。
(拍手)女性が教育を受け地位を向上させる事で児童結婚や名誉殺人の犠牲者を無くす事ができると訴えている。
マララさんの受賞を受けパキスタンでは小さな変化が生まれている。
マララさんのふるさとで結成された10代の少女たちのグループ。
教育の機会を奪う児童結婚を無くすため活動を始めた。
グループのリーダーハディカ・バシールさん12歳。
家族から児童結婚をほのめかされたがマララさんを見て勇気を得た。
この日ハディカさんのグループが向かったのは近所に住む少女の家だった。
(ノック)学校に通う15歳の少女が家族から貧困を理由に結婚するよう迫られていた。
ハディカさんは学費の負担を減らす方法を考えると母親に伝え学校に行かせるよう説得を続けた。
これまでに5人の少女の児童結婚を食い止める事に成功した。
マララさんの言葉が少女たちの将来を変える力となっていた。
マララさんのノーベル平和賞受賞の発表から1週間後。
カイナットさんのもとに一本の電話が入った。
その後一通の手紙が届いた。
去年12月ノルウェーで開かれた授賞式。
カイナットさんの姿もあった。
(拍手)現地で姉妹のように語り合った2人。
マララさんが暴力を受けても教育の大切さを訴え続けた勇気にカイナットさんは心が揺さぶられた。
今月。
一組の夫婦が仲むつまじく買い物に出かけていた。
子供服を選んでいたのは父親に銃で撃たれたサバさんだ。
サバさんは出産を間近に控えていた。
たとえ困難があっても自分が選んだ男性と幸せな家庭を築いていくと覚悟を決めていた。
カイナットさんは日記にマララさんとの出会いをつづっていた。
カイナットさんはマララさんの支援を受け8年ぶりに勉強を再開した。
自宅に家庭教師を招き週に6回学んでいる。
(カイナット)ThechildrenarelearningEnglish.いつかマララさんのように英語で世界に自分の思いを届けたいと考えるようになった。
多くの女性の苦しみにも向き合い始めたカイナットさん。
カラチで開かれた人権を考える集会でカイナットさんはおびえ続けた8年の歳月を振り払い強い覚悟を語った。
(拍手)
(拍手)名誉殺人や児童結婚を無くそうと声を上げた女性たち。
誰かが勇気を出さなければ社会は何も変わらない。
死の宣告に立ち向かう女性たちの闘いは続く。
2015/04/14(火) 02:50〜03:40
NHK総合1・神戸
NEXTスペシャル「名誉殺人の闇の中で」[字][再]
ノーベル平和賞を受賞したマララさん。故郷パキスタンでは、親が強制する結婚を拒んだ女性らが殺害され問題に。マララさんと共に社会を変えたい。女性たちの思いを伝える。
詳細情報
番組内容
女性の権利と教育の大切さを訴え、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさん。彼女の故郷パキスタンで深刻な問題となっているのが、「名誉殺人」だ。女性が、家族が決めた相手以外と結婚した場合などに「一家の名誉が汚された」として、父親らが娘を殺害する。番組では、父親に銃で撃たれ一命を取り留めた20歳の女性や、13歳の時に性的暴行を受け、マララさんと出会って変わり始めた女性らに密着し、その思いを伝える。
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ニュース/報道 – 海外・国際
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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