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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

あれから2年、アベノミクスの「中間評価」

――森田京平・バークレイズ証券 チーフエコノミスト

森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト]
【第169回】 2015年4月15日
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「量的・質的金融緩和」(QQE)が
始まって2年

 アベノミクスの象徴とも言える「量的・質的金融緩和」(QQE)が始まって2年が経過した。このタイミングを捉えて、アベノミクスについて(1)まだ成果が出ていないところ、(2)大きな成果が見られたところ、(3)これからの課題、という点から中間評価してみよう。

 結論を先取りすると、(1)については設備投資の出遅れと消費者物価(CPI)の鈍化、(2)については期待の大幅な好転と賃金上昇の兆し、(3)については期待の好転の定着、が挙げられる。

公共投資の急増で始まった

 安倍政権下での実体経済の特徴として、真っ先に挙げられることは公共投資(公的固定資本形成)が急増したことである。バブルを最も享受した竹下政権(1987年11月~1989年6月)以降で比べると、政権発足後、最も高いスピードで公共投資を増やしたのは宮澤政権(1991年11月~1993年8月)であるが、安倍政権はそれに次ぐスピードで公共投資を増やした(図表1参照)。

注:宇野政権下の実質GDPおよび需要項目は図示していない。
出所:内閣府資料よりバークレイズ証券作成
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設備投資は出遅れ

 一方、出遅れているのが設備投資だ。政権発足後で比べると、前民主党政権よりも、設備投資の累積的な伸び率が低い。その結果、実質GDPの増勢も、いまだに前民主党政権を下回っている。設備投資が低迷する背景として、企業の売上高の伸び悩みを無視できない。

 確かに、為替が円安に転換したこと、さらに2014年半ば以降は原油価格が急落したことで、企業の経常利益は急増した。財務省『法人企業統計』によると、直近2014年10~12月期の経常利益(季節調整済)は年率70.5兆円と、同統計ベースの過去最高水準を記録した(図表2参照)。

注:季節調整済み
出所:財務省『法人企業統計』よりバークレイズ証券作成
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森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト]

もりた・きょうへい/1994年九州大学卒業、野村総研入社。98年~2000年米ブラウン大学大学院に留学し、経済学修士号を取得。その後、英国野村総研ヨーロッパ、野村證券金融経済研究所経済調査部を経て、08年バークレイズ・キャピタル証券入社。日本経済および金融・財政政策の分析・予測を担当。共著に『人口減少時代の資産形成』(東洋経済新報社)など。2010年7月より、参議院予算委員会内に設置された「財政再建に向けた中長期展望に関する研究会」の委員を務めている。

 


経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

リーマンショック後の大不況から立ち直りつつあった日本経済の行く手には、再び暗雲が立ち込めている。留まることを知らない円高やデフレによる「景気腰折れ不安」など、市場に溢れるトピックには、悲観的なものが多い。しかし、そんなときだからこそ、政府や企業は、巷に溢れる情報の裏側にある「真実」を知り、戦略を立てていくことが必要だ。経済分析の第一人者である熊野英生、島本幸治、高田創、森田京平(50音順)の4人が、独自の視点から市場トピックの深層を斬る。

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