「産ませない社会」つくる「残業代ゼロ・定額働かせ放題」を求める経団連が人口減少への対応は待ったなし?

井上伸 | 国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者

内閣府「少子化社会対策白書」(2014年版)

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昨日(4月14日)、経団連が、「人口減少への対応は待ったなし-総人口1億人の維持に向けて-」と題した政策提言を発表しました。

しかし、この政策提言がまったく空々しいと思うのは、下の表にあるように、経団連が推進した「雇用改悪」に連動して少子化になっているのに、さらに今国会で「生涯派遣・正社員ゼロ」となる労働者派遣法改悪を狙う経団連が「不本意非正規の是正」とか、「残業代ゼロ法・定額働かせ放題」を狙う経団連が「ワークライフバランスの推進」「生み育てやすい社会を作る」などと言っているからです。(※下の表は私が所属する労働総研・労働者状態分析部会で作成したものに私が赤字を加えたものです)

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内閣府「少子化社会対策白書」(2014年版)を見ると、下のグラフにあるように、「理想の子ども数を持たない理由として、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」や「自分の仕事に差し支えるから」が多くなっています。

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これは言い換えれば、経済的な問題と時間的な問題があって子どもを持てないということです。その経済的な問題と時間的な問題についても「少子化社会対策白書」は以下のようなデータを示しています。

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上のグラフにあるように、15~24歳の非正規雇用割合は、2013年で50.3%と半数以上にのぼっていて、そして、30~34歳で正規労働者は57.1%が結婚できていますが、非正規労働者はその半分も結婚ができない状態に置かれています。

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そして、上のグラフを見て分かるように、年収が低いと結婚できないのに、30代の収入を見ると、1997年から2012年にかけて年収400万以上は減って、年収200万円以下のワーキングプアが増えています。

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さらに、上のグラフで分かるように、子育て世代の30代の男性労働者が最も長時間労働を強いられています。そうした結果、未婚率そのものが右肩上がりになっているのです。

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経済的な問題と時間的な問題で結婚も子どもを持つこともできないのに、経団連などの大企業は上のグラフにあるように、15年間で内部留保は倍増させ、労働者の賃金は11%もカットしています。そして、時間的な問題では、いまの国会で安倍政権と一緒になって経団連が通そうとしている「残業代ゼロ法・定額働かせ放題」があります。実際、榊原定征経団連会長は政府の会議の中でこの「残業代ゼロ法・定額働かせ放題」について次のように語っています。

熾烈な国際競争の中で、日本企業の競争力を確保・向上させるためには、労働時間規制の適用除外は必要不可欠である。具体的な企業側のニーズの例を幾つか挙げる。国際業務における時差への対応、技術開発、顧客対応、あるいは新設の設備の立上げ、受注獲得時などで、1年間ぐらいの長期にわたって、集中的・波状的な対応が必要なケースが数多くある。こういったケースでは、現行のフレックス制度などでは対応できない状況である。

出典:2014年4月22日「第6回経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議」での榊原定征氏の発言

榊原定征経団連会長が言っているのは、まさに「24時間働け」ということですね。これで、いったいどうやったら少子化の問題を改善できるというのでしょうか? 榊原定征経団連会長が言う「24時間働け」=「残業代ゼロ法・定額働かせ放題」が今の国会で可決成立するようなら、少子化、人口減少は、いっそう進むことになります。当たり前です。「残業代ゼロ法・定額働かせ放題」は、子育てに必要な時間も収入も奪ってしまうからです。(※また、下の表にあるように、今でも日本経団連の役員企業は過労死ラインとされる月の残業時間80時間を超える三六協定を結んでいる企業ばかりという酷さです)

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労働経済ジャーナリストの小林美希さんが『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)の「あとがき」で次のように書いています。

雇用情勢が悪化の一途をたどり、かつてのように、職場の上司や同僚が妊娠・出産を祝ってくれるようなムードではない。むしろ、正社員・非正社員を問わず、「妊娠解雇」「職場流産」が横行するような現実だ。そうしたなかで、妊娠は職場でも社会でも孤立する。男性の側も、自身の雇用を守ることで精いっぱい。互いにハードワークが強いられ、どこか「子ども」という存在や「子育て」が「別世界」のものとなってしまっていることに危機を感じた。本来は、妊娠や出産は「おめでたい」ことで、職場などの身近な人から祝福され、日常会話のなかでアドバイスを受けながら、次第に“親”になる心構えができるものだろう。だが、現在の労働環境はそれを許さず、「良い育児」からもかけ離れてゆき、次世代に負が連鎖していく。

出典:小林美希著『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)の「あとがき」

この小林美希さんの著作の帯には次のように書かれています。

“孤育て”、妊娠解雇、職場流産、ベルトコンベア化するお産……なぜ、今、子どもを産むことに前向きになれないのか。「産めない」のではない。社会が「産ませない」のだ。

出典:小林美希著『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)の「帯」

榊原定征経団連会長が狙う「24時間働け」=「残業代ゼロ法・定額働かせ放題」は、日本社会をさらに「産ませない社会」にするものです。経団連が「人口減少への対応は待ったなし」と本当に思っているのなら、いっそう酷い「産ませない社会」にする「残業代ゼロ法・定額働かせ放題」に反対して廃案を求めることが空々しい政策提言を掲げる前にやるべきことでしょう。

井上伸

国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、国家公務員一般労働組合(国公一般)執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『国公労調査時報』編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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