社説:安保協議再開 対米合意優先は疑問だ
毎日新聞 2015年04月15日 02時30分
新たな安全保障法制の整備をめぐる自民、公明両党の与党協議が再開された。政府・自民党は、日米防衛協力の指針(ガイドライン)が再改定される予定の27日までに安保法制の法案要綱を固め、内容をガイドラインに反映させたい考えという。国会への法案提出よりも米国との合意を優先し、これに間に合わせるような議論の進め方は、おかしいのではないか。
新たな安保法制は、集団的自衛権の行使容認をはじめとして国の形を変えてしまうような大きな変更を含んでいる。その特徴をひと言でいえば、自衛隊が米軍とともに世界規模で活動できるようにすることだ。
先日、来日したカーター米国防長官は、日本の安保法制を反映した新たなガイドラインによって「米軍と自衛隊が切れ目なく協力する機会が増える。直面する幅広いチャレンジにアジア太平洋、世界中で対応することが可能になる」と述べた。
すでに安保法制の整備を前提として、自衛隊が世界中で米軍を支援することに期待感を示した発言だ。
だが、そもそも自衛隊が世界中で米軍とともに活動することに国民の理解はどれだけ得られているのだろうか。
安保法制の一つ、周辺事態法の抜本改正では、これまで日米安保条約の枠内で日本周辺に限定してきた米軍への後方支援が、日本の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」と判断されれば、世界中で可能になる。米軍以外の他国軍への支援もできるようになる。政府が重要影響事態と認めれば、南シナ海などでも自衛隊による他国軍への後方支援に踏み込むことになる。
重大な変更が、国会での法案審議を経ないまま米国と合意され、既成事実化されることに危惧を覚える。
しかし、政府・与党は協議のスピードを落とすつもりはなさそうで、早くも細部の詰めに入ろうとしている。歯止め策をどう法案に盛り込むかが当面の焦点だ。
14日の協議では、自衛隊による他国軍への後方支援を可能にする新たな恒久法「国際平和支援法」の派遣要件として、公明党が例外なく国会の事前承認を必要とするよう求めたのに対し、政府・自民党は国会閉会中や衆院解散時には事後承認も認めるべきだとの立場を崩さなかった。
歯止めの議論はもちろん重要だ。だが、根本的な議論をもっと深めるべきではないか。しかも今回の安保法制は、本来なら数年かけて議論しなければならないほどメニューが多い。国会議員からも複雑でわからないという声が出ている。国民はなおさらだろう。自公両党は、期限を設けず徹底した議論をすべきだ。