女神聖祭 Battle of Crusaders -1-
難産でした。マジで。
膨大な数へと膨れ上がった参戦者は、例によって生き残り戦でふるい落とされた。予選を生き残り、本戦トーナメントへと足を踏み入れた本戦出場者は十六名。
クボヤマ、ジュード=アラフ、ハザード、ユウジン、ロッソ、DUO、Agimax、Evebirthday、藤十郎、ウィルソード、カリナ、ルーシー・リューシー、ゴーギャン・ストロンド、アクシール、二三郎、エアレロ。
ハハハ、こりゃ何と言ったもんかな。
知ってるメンツがそこそこいて、逆に知らないメンツもちらほらと。だが、大体コレはイベント毎になれば勝ち上がって来るメンツでもある。
どことなく、ヒエラルキーと言う物がこの世界でも形成されつつあるのかもしれないと感じさせる。まぁあればロールプレイ馬鹿野郎達と、極振り・極論糞野郎だって事だな。
そんな中でもよくよく喰らいついていると思う藤十郎とウィルソードの第二世代。直々に手ほどきしてやった甲斐があると言う物だ。
懐かしのメンバーをそこそこいて、それでいて名前すら聞いた事無い連中も見受けられる。予選会を見ていたが、ゴーギャン・ストロンドと言う男。
ゴツい名前の割にホビット族なのである。だが、その膂力はホビット族を凌ぐ程、名前に沿った物だった。恐ろしい。
エアレロってどっかで聞いた事ある名前だな。誰だっけ。
そう言えば一つ気になる事があった。サバイバル予選は合計八回行われ、その中の上位二名が決勝本戦へと行けるのだけど。
俺が予選で当たった相手は、あの赤髪のロッソだった。
未だ証拠を残さない、凄腕プレイヤーキラーギルド名無しのギルドマスターだっけな。とにかく、前回嫌な思いをさせられた相手である。
予選で二人に残っても、一応形式的に戦いは続行される。だがしかし、赤髪のロッソは『おめーとは決勝でやる事にしてんだよ。糞神父ゥ〜』と一言。蛇の視線の様ないやに絡み付く目線を向けた後、あっさりと場外に去って行ってしまった。
一体何がしたかったのだろうか。
よし、もう一度粛清いや、昇天させてやんよ。
おっとその前に、初戦はウィルソードだったかな。
とりあえず薄皮一枚でボコボコにして勘弁してやろうと思う。
俺がエリック神父にそうされて来た様にね。
「あ、お疲れ様」
初戦を終え、控え室へと向かっていた俺の耳に、聞き触り妖艶な女性の声が響く。コレは思わず振り返るよね。
「えっと、ルーシーさんでしたっけ?」
「そうよ。っていうかあんた、エグいわね。とんだ神父様ね」
「ははは」
このとてもフランクな女性は、『魔大陸から来た戦乙女』——と、マイクパフォーマンスされていた——ルーシー・リューシーである。
顔と同じ位美しく黄金に輝く金髪がいかにも戦いの象徴であるかの様になびいている。初見で見た場合はライオンの鬣かと思ってしまった。
本人も獅子獣人であるそうなので、ライオンで間違いは無いのだが。
鬣があるのって雄ライオンじゃなかったっけ?
いや、鬣じゃなくて髪の毛なんだけどね。
「奇剣舞闘士君、貴方の弟子じゃなかったのかしら?」
「ええ、まぁ私の教え子の一人です」
「だったらなおさらだわ容赦ないわねぇ……まぁ、私達獣人族も、戦いになれば誰であろうと容赦はしないけど、一回殺して生き返す様な真似は絶対にしないわ」
「私も師匠からそうやって教わって来た物でして……」
「人間族はクレイジーだわ!」
一体なんで声を掛けて来たのだろうかと思ったら、ただの批評だったのかな。確かに、少し熱が入ってしまったのは否めない。
泣を入れ始めたウィルソードに対して、予測可能回避不可能である即死級の攻撃をお見舞いしてやった。もちろんちゃんとフォルの力で即死回避したけども、戦闘中喰らいつこうとしない牙を失った犬には興味ないのだ。
とにかく最善を尽くすべきなのである。
いやホント。足掻かないとこの世界ではすぐ生温ってしまう。
現実世界よりもシビアな環境である筈なのにな。ゲーム的な概念がまだ抜けてないと見える。ウィルソードよ、そう言う時こそロールプレイなんだ。
「まぁ確かに私の師匠は狂っている節がありますけども、ずっと戦いに生きると言われる獣人族も一つの狂気ですよ。誰しもが心に宿すものです」
「私達のは誇りよ! まぁいいわ。彼と貴方じゃレベルが違うものね。次の貴方の戦いっぷりを楽しみにしてるわ」
それと。と話を区切ると、金髪美女獅子は俺の手を握りしめ、勝手に歩き始めた。
「ゴーギャンが貴方に合いたがってるの。ゴッドファーザークボヤマ、ここの控え室なら信頼できるから少し時間を頂いても良いかしら?」
声は妖艶なのだが、ニコやかに笑うその表情は純粋無垢な少女の様だった。俺は手を引かれるままに彼女について行く。
本戦出場者用の控え室はかなり広い。
流石中央聖都ビクトリア。
ゴーギャン・ストロンドは、完璧に整えられたホテル最上階のスイートルームの様な選手控え室で身体を動かしていた。上半身の肌着は脱いでおり、小柄な体格からは想像できない程の絞り込まれた筋肉が露見していた。
身体から少し湯気を立てながら、俺達の入室に気付いた彼は一瞥すると再び一枚50kgと記されたダンベルを上下させる。
「もう……ごめんなさいね? 彼、ああなると一段落つくまでずっとあのままなんだから。ってまた変な器具が一杯仕入れているわ。これを運ぶのにどれだけ手間がかかっていると思うのかしらね」
リューシーは、俺の方を向くと肩を竦めた。
まぁ気持ちはわかる。トレーニング中は誰だってそう言う物だ。
この闘技場の控え室はかなり手の込んだ作りで、高価な絨毯も敷かれていた筈だったのだが、彼の部屋はソレが取っ払われ、代わりに黒いマットの様な物が敷かれていた。
大方、トレーニング用マットだろう。
俺も持ってるし。
豪華な内装に無機質な黒いマット。
ソレに加えて使い方のよくわからないトレーニング器具の様な物と俺もリアルで良く使用している様な使い方のわかるトレーニング器具の様な物が並べられており、より一層混沌とした雰囲気を感じる。
「それにしても、やたら良い素材のマットなんでしょうか? 足音一つしませんし」
それこそ、足と床が打つかる音ではなく、靴と床が擦れる摩擦音さえ吸収してしまっている様だった。
「彼の趣味なのよ」
リューシーが言う。
「獣人すら涙目になるほどの筋肉馬鹿なのよ。いや、修練中毒者って言ったら良いのかしら。何にせよ、自然と共に有る獣人族からすれば奇妙な代物だわ。何だったかしら……なんとか国じゃぽーね?」
「違うぞ。科学都市ジャーマインだ。コレ、高かったんだから」
一段落ついたらしい。彼女のミスを指摘しながら、上半身裸のホビット族。ゴーギャン・ストロンドが会話に加わって来る。
「彼の国は地理的に魔素がほとんど存在しない。この大陸の連中やウチの所は魔素が無い場所に対して神の加護が無いだの見捨てられた土地だの口うるさいが、俺は彼等を尊敬しているよ」
「それは貴方だけでしょ。ゴーギャン」
「いや、生活の中で魔素を全く必要としないのはお前達獣人族も一緒だろう? 魔族よりの亜人族である俺よりも、居心地が良さそうだ」
「嫌よ。あんな所。自然がほとんど存在しないじゃない、気が滅入るわよ。それに地面が堅くて足が痛くなりそうだし」
「それもそうだ」
ガハハハと笑いながら。ゴーギャンは先ほどまで使用していたダンベルのプレートを外して隣へと積み重ねて行く。全部で12枚。
彼は片手で300kgを軽々と上下させていた事になる。
化物か。
「お待たせして済まなかった。改めて、ゴーギャン。ゴーギャン・ストロンドだ」
「クボヤマです」
ゴツい手を差し出され、俺は何の疑いも無くその手を握り返した。
その瞬間とてつもない圧が右手にのしかかる。
ブチュッ。と音がして、手が爆発した。
ただ単に、彼が俺の右手を握りつぶしただけであった。だが、まるで彼の手の中で爆発が起こっているかの様に飛沫が飛散する。
「……ッ!?」
完全に気が抜けていた。悪い奴じゃ無さそうだと、自分の中で勝手に思い込んでいただけに過ぎなかったのかもしれない。
即時修復して、戦闘態勢へと———
「こりゃすげぇ! 本当に不死身なんだな!」
構えた俺とは裏腹に、ゴーギャンは修復した俺の手を見て歓声を上げた。その表情、目、口調。どれをとっても今の彼からは"悪意"と言う物を感じ得なかった。
リューシーの方を向くと、顔を押さえてプルプル震えていた。金色の髪の毛が逆立って来ている様子に、何やら恐ろしい物を感じる。
「貴方ってば!!!!!!!!!!!」
「茶目っ気だって——ブッ!!」
一枚50kgのプレートが、ゴーギャンのこめかみを的確に捉える。響いた音は何故か『ゴインッ』だった。ぶっ飛んだ衝撃は、下の黒いマットが一切合切吸収してしまう。
ソレよりも、ゴーギャンは良いとして。
リューシー……君もそのプレートを軽く玩具の様に扱う事の出来る側の人間なんだな。
少しショックだったけど。
まぁ、獣人族だし。
白目を剥くゴーギャンと、流石にプレートは止めておいたのか、素手でボコボコにし続けるリューシーを尻目に。
俺はふと、どうしてここにいるのだろうかと考えを廻らせた。
右手を潰されに来ただけだったのか。
ゴーギャンは亜人族の中でも魔族寄りの更に特殊なお方です。
多分バトル展開は容易に想像がつくんじゃないかと思いますよ。
何故ホビットなのか、という所も着目しておくんなまし。
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