政府は自分の出身地や応援したい地域に寄付する「ふるさと納税」制度を拡充した。安倍政権が掲げる地方創生を後押しする対策のひとつだ。地方の市町村にとっては朗報だろうが、制度の本来の趣旨をわきまえて取り組むべきだ。
ふるさと納税は自治体に寄付すると、2000円を超える部分について一定の範囲内で税金が全額戻ってくる制度だ。政府は今年度から税金が控除される上限を約2倍に引き上げ、寄付先が5つまでなら確定申告を不要にした。
2014年度の寄付金額は142億円と前年度を1割近く上回った。寄付を募る自治体が様々な返礼品を用意し、それを紹介する民間のサイトなどができたことで、利用者が増えている。
自治体が地域をPRしようと特産品を提供することは悪いわけではない。ただし、丸ごと1頭分の牛の肉など高額な商品を掲げて宣伝するのは行き過ぎだろう。
総務省は4月初め、返礼品の価格を表示するなど問題のある行為を例示し、自治体に「良識のある対応」を求める通知を出した。ふるさと納税は特産品のネット通販ではない。あくまで寄付なのだから、過度な特典や現金に近い形で返礼するのは確かに疑問だ。
ふるさと納税の先進地といえる北海道夕張市は、寄付をする人が文化・スポーツ事業や映画のロケセットの保存など複数の選択肢から使い道を指定できるようにしている。どのように使ったかもホームページなどで公開している。
特産品だけがお礼ではない。寄付の使い道の透明性を高め、地域づくりに役立てている姿を示すことも大切だろう。
08年に始まった同制度は都市と地方の税収格差を是正する狙いがあった。今回、制度を拡充したことは構わないが、これで地方の収入が一気に増えるわけではない。
本当に格差を縮めるなら、地方向け補助金を極力やめ、それを元手に地域間の偏在が小さい税源を国から地方に移す必要がある。政府はこの点も忘れないでほしい。