就活ライブ #live2012-14
各企業のブースを学生が回る従来の合同説明会とは逆に、学生のブースを企業の担当者が回る「逆求人」と呼ばれる就活イベントがある。学生は面接のように各企業に合わせて自分を演出したり、志望動機を語る必要はない。ありのままの自分をPRし、関心を示した企業と自由に面談できるのがメリットだ。 (教育報道部・西尾述志)
9月下旬、東京で開催された「逆求人フェスティバル」。関東を中心に北海道や九州からも集まった学生47人のブースが並び、合図とともに企業19社の担当者39組が会場になだれ込む。最初の5分は学生のプレゼンテーション。パソコンを広げて将来の夢や経歴を熱っぽく語る。
「ベンチャー企業で眠れないほど仕事したい」「草野球チームでおじさんをまとめた」。小道具も使う。グラブや資格の証書、大会の優勝盾のほか茶菓子を用意する学生も。やがて企業側の質問が始まり、逆に会社の説明もする。1こまは30分。この日は8こまを繰り返した。
来春までに計28回
運営するのはジースタイラス(東京)。折阪佳紀社長(35)が企業主導の就活システムに疑問を抱いて学生時代に初めて開き、リクルートを経て会社を設立した2004年に再開した。採用企画部の志積由香子さん(24)は「日本を変えるカリスマ的な学生を発掘する狙いもある」と説明する。
開催数は徐々に増えてきた。13年卒の学生向けは昨夏から1年にわたり全国で計29回企画し、学生は延べ1400人弱、企業は延べ514社が参加した。現在は14年卒向けの期間で、来年3月まで28回を予定する。名古屋は11月17日だ。
参加学生は同社が選び、彼らの自己PR文を事前に参加企業に通知。企業は当日、面談前の名刺交換タイムの印象も加味して面談したい学生リストを提出し、組み合わせが決まる。規模によって6~9こまあり、すべて埋まる学生もいればゼロの場合も。空いたこまは学生同士で面談する。
面談重ね相互理解
参加企業は当初、ITベンチャーが中心だったが、徐々に商社やメーカーなど業種が広がり、最近は大手も。逆求人を入り口に内定に至るマッチング率は約6割。その半数以上は入社する。「通常採用と異なる特別選考にする企業が多く、採用が逆求人のみの企業もある」と志積さん。面接前に学生に会社を理解してもらおうと面談を重ねるなど従来より“学生優位”だ。
逆求人を活用して5年目のベンチャー企業の担当者(26)は「幹部候補の優秀な人材に早期に会える」と利点を挙げた上で「就活の相談に乗りながら半年以上かけてくどく」とじっくり構える。一方、参加した男子学生は「知らない企業ばかりだったが、面談し、入社したいと思う企業がかなりあった」と手応えを得た。別の男子学生は「逆求人で早めに内定を取り、心理的な余裕を持って別の企業に臨めたら」と戦略を描く。
企業と思い重なる 鈴鹿工高専・井村洋介さん
東海地方にも逆求人で内定を決めた学生がいる。
「今の自分があるのは逆求人のおかげ」と振り返るのは、鈴鹿工業高等専門学校専攻科2年の井村洋介さん(22)=写真(右)。内定先は逆求人で出会った外食会社。高専は求人が多いが、入社後にミスマッチで辞める先輩も見た。逆求人に興味を持ったのは、そのためだ。
専門に強い理系、語学留学の経験、全国準優勝した硬式テニス部の部長という3点セットの武器を携え、昨年2月に逆求人に参加した。しかし、挑戦心にあふれ、将来の展望が明確な他の参加学生に会い、自信が揺らぐ。休学し、世界22カ国を旅した。
「安定よりも挑戦。大手よりベンチャー」と考え方が変わり、ことし2月に再び逆求人の舞台へ。外食会社は設立14年で急成長中。海外進出の計画もあり「自分で開拓したい」と思いが重なった。「本気で自分と向き合いたい学生は逆求人に参加を」と促す。
弱点評価され内定 南山大・神山智早さん
南山大4年の神山智早さん(22)=同(左)=は就職サイトで行き詰まったのが契機だ。希望の業種や勤務地がなく、検索で会社を絞り込めない。友人に相談し、逆求人を知った。「自分を全部さらけ出し、いいと思ってくれる会社に出会えたら」と3年生の11月に参加した。
驚いたのは、中古住宅をリフォームして販売する会社の人事担当者の反応。自分が弱点と思った要素をプラスと判断した。目標としていた学生団体の立ち上げや留学ができなかった点だが、その悔しさを勉強にぶつけて成績優秀で表彰されたため「ストレスへの耐性がある」と評価された。その後、数人の内定者と会って「一緒に働きたい」と思いを強め、面接を経て1月に内定を得た。
逆求人では他社の人事担当者たちから自分の問題点を指摘された。「私を採る気がない会社も助言してくれるのが、逆求人の1番いいところ」と力を込めた。
(写真上)パソコンを使って企業の人事担当者にプレゼンする学生たち(左側)=東京都墨田区で
(写真下)鈴鹿工業高等専門学校専攻科2年の井村洋介さん(22)=写真(右)、南山大4年の神山智早さん(22)=同(左)