このコラムにも書いたと思うが、Jリーグ開幕直後に僕は「今シーズンは、かなり激しい試合が多くなりそうだな」という印象を持った。レフェリーたちは、ここ数シーズン「正当なチャージには笛を吹かない」という方針を徹底。選手たちも、それに呼応して簡単には倒れないでプレーを続ける。そうした姿勢が、随処に見受けられたのだ。
時あたかも、日本代表監督にハリルホジッチ氏が就任。激しいプレー、そしてボールを奪ったら速く攻めるという方針を徹底しようとしていた……。世の中の流れは、すっかり「激しいプレー」と「速い攻め」に傾いていった。
いや、日本のサッカー界において、こうした言説は昨年から増えていた。
パスをつなぐ「日本らしいサッカー」を貫こうとした日本代表がブラジル・ワールドカップで敗退。そして、ワールドカップではパス・サッカーで世界の頂点に登りつめていたスペイン代表がグループリーグで敗退。アグレッシブなドイツ代表が優勝を果たす。その、ドイツに決勝戦で対抗したアルゼンチンの激しい守備も印象的だった。
さらに、ワールドカップ終了後、U−16日本代表、U−19日本代表がそれぞれアジアの大会の準々決勝で敗退し、世界大会への出場権を逃す。ボール・ポゼッションでは完全に上回りながら、守備を固めた相手を崩しきれずに敗退した日本の若い選手たち……。パス・サッカーへの疑問が次々と提示されるようになっていたのである。
また、J2で「走り切ること」を徹底的に追求した湘南や松本山雅が昇格を決めたことも、そうした意識を加速させた。ジャーナリストたちは、競って日本のサッカーの欠点を語り始めた。そして、今シーズンの開幕戦で僕は激しい試合を目撃した。選手たちの意識も変わり、日本のサッカー・スタイルも変化し始めたのか……。
だが、いろいろな意味で、事はそう簡単ではない。
まず、Jリーグの試合もそれほど激しい試合ばかりではなかったようで、試合によって、見ごたえのある激しいプレッシャーの応酬を見ることもできるが、中には日本らしい慎重なパス回しに終始することもある。開幕戦で思いのほか激しい試合をして見せた横浜F・マリノスも、先日のベガルタ仙台との試合では仕掛けがすっかり遅くなってしまい、手詰まり感が漂っていた。ハリルホジッチ監督が視察に訪れたということで話題となったプリンスリーグ開幕戦でも、慎重なパス回しばかりが目立つ試合だった。