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黒田のフロントドア 極意はカットボールでセットで投げ分け
これぞメジャー仕込みの代名詞だ!左打者がのけぞる黒田の「フロントドア」
Photo By スポニチ |
広島に8年ぶりに復帰した黒田博樹投手(40)の今や代名詞ともいえる球種がツーシーム。特に左打者の内角ボールゾーンからストライクに入ってくる軌道は「フロントドア」と呼ばれ、日本ではこれまで聞き慣れなかったメジャー仕込みの「魔球」にスポットライトが当たっている。ドジャース時代の女房役の証言を基に「フロントドア」の極意を探るとともに、ツーシームの正体にも迫った。
黒田の投球の際によく目にする「フロントドア」という言葉。これは球種ではなく、軌道のことを言う。打者の体の近くに来てボールと判断した瞬間に、すっとストライクゾーンに入ってくる。オープン戦で対戦したヤクルト・藤井は「初めて見た軌道」と驚いたが、メジャーでは高度な投球術として、好んで使う投手は少なくない。
「フロントドア」の投球を可能にしているのが、シュート系のツーシーム。黒田のメジャーでの成功を語る上で、欠かすことのできない球だ。ツーシームは08年のメジャー移籍当初から投げていたが、左打者の「フロントドア」を操れるようになった3年目の10年シーズン後半から、黒田の成績はより安定度を増し、同年から5年連続2桁勝利をマークした。当時のことを、ドジャースの捕手A・J・エリス(34)はよく覚えている。
「あの球で見逃し三振をいっぱい取ったね。打者が体に当たると思ってよけたのに、ストライクの判定。打者は球審に“クレージーだ”と文句を言ってたけど、あとでビデオを見たらど真ん中だった。黒田はどんなタイプの打者に使えるか、見逃し方はどうだったか、とにかく研究熱心だった。まだ若かった僕にはとても参考になった」
エリスは当時は控え。バッテリーを組んだのは、10、11年シーズンの計15試合だけだったが、考え方が柔軟で、黒田自身も「エリスとは考え方が一致していた」と話す。
「フロントドア」をものにするまでは、試行錯誤があった。左打者に対するツーシームの一般的な使い方は、外角からボールゾーンに逃げていく軌道。しかし、メジャーのパワーヒッターは、外角低めのツーシームでも踏み込んで簡単に左翼席まで運んでしまう。その対策として磨きを掛けたのが「フロントドア」。ただ、黒田はさらにひと工夫を加えていた。
エリスは「黒田とのミーティングで、よく“Crisscross(クリスクロス)”という言葉を使った」と明かす。「Christ’s Cross(キリストの十字架)」から派生した言葉で、投球が十字に交差することを意味する。「フロントドア」を生かすために、内角に反対の軌道であるカットボールをエサにまく投球術だ。
「ツーシームとカットボールは途中までボールの軌道が同じだが、曲がる方向は反対。打者は食い込んでくるカットボールに見慣れると、“また来た”とバットを振らなくなる。そうなれば思うつぼで、フロントドアが効いてくる。打者の懐で十字に交差する2つの球種を投げ分けられる制球力が、黒田にはあった」
さらに黒田のツーシームは独特な握りをしている。通常は2つの縫い目に沿うようにかけるが、人さし指だけをかけて、その強弱で曲がり幅を微調整する。「フロントドア」は曲がりすぎると真ん中に入る危険性があるが、エリスは「彼はどの辺りから曲げるか、イメージの軌道を視覚化し、その通りに投げる技術があった」と証言する。
黒田も当時「左打者に対する攻め方の幅が広がった。フロントドアとカットボールで表裏を使えるようになったのが大きい」と話している。年々、成熟度を増してきた打者をフリーズさせる魔球。ただ内角にツーシームを投げているだけではない。そこには計算し尽くされた高度な投球術が隠されている。
▽バックドアとフロントドア メジャーでは、外角のボールゾーンからストライクに入る軌道をバックドア、内角のボールゾーンからストライクに入る軌道をフロントドアと呼ぶ。バックドアは、ホームベースを過ぎて回り込むように「裏口」からストライクに入るさまから呼ばれた。その派生でフロントドアが生まれた。フロントドアは死球になる可能性があるので、より高度な制球が要求される。
[ 2015年4月14日 09:00 ]
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