望月ミネタロウの最新作『ちいさこべえ』が全4巻にて完結した。
- 作者: 望月ミネタロウ,山本周五郎
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/03/29
- メディア: コミック
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ちいさこべえ 4 完 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
- 作者: 望月ミネタロウ,山本周五郎
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/03/30
- メディア: コミック
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どんなに時代が変わっても人に大切なものは
人情と、意地だぜ
望月ミネタロウはこの物語の舞台を現代に置き換える事で、江戸に起きたとされる大火事とあの東日本大震災(2011.03.11)を繋ぎ合わせる。街の一帯を焼き尽くしてしまった火事。登場人物は「焼け野原」となってしまった一帯を見つめながら様々な想いを巡らせていく。望月はこの『ちいさこべえ』という作品で、「3.11」以降、もしくは安倍政権下の現代の生き方、というのをさりげなく提示していみせている。それは大きくまとめてしまえば以下の2つだ。
1つ目は「美しい生活に執着する」という事。『ちいさこべえ』で実に印象的なのが、細部まで徹底して書き込まれた家具や洋服や靴や食べ物の数々だろう。ミニマルな画風の中でそういった豊かさな細部が瑞々しい輝きを花っている。朝ご飯をきちんと食べる事、運動をする事、掃除をする事、料理をする事、本を読む事、お気に入りに靴を丁寧に履く事(今作はオールデンのウィングチップやコンバースなど何よりも足下が雄弁に語る)、よく働く事、よく遊ぶ事、よく眠る事。シンプルな生活な美しさが徹底して描かれている。望月が今作で見せる異様なまでの女性の身体へのフェチズムもまた、美しさへの執着として圧倒的に正しい。私達はこういった生活を維持していかねばならないそして、2つ目は「想像力を働かせる」という事だ。今作の登場人物はみな一様に無表情だ。前作の『東京怪童』より導入された、『ゴースト・ワールド』
- 作者: ダニエル・クロウズ,Daniel Clowes,山田祐史,PRESSPOP LAB
- 出版社/メーカー: PRESSPOP INC
- 発売日: 2011/12/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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はこのなかにはなにがあるかな?
この『ちいさこべえ』という作品は、彼女がその想像力をポジティブな方向に働かせるまでの物語である。
ときに今作における”無表情”の最たる登場人物は主人公である長髪、髭モジャで顔を隠した茂次だろう。はて、誰かに似ている。その答えは彼が朝のランニングにおいて、身につけてヘアバンドにて明らかになる。そう、彼のモデルは間違いなくウェス・アンダーソンの傑作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)においてルーク・ウィルソンが演じたあの愛おしきリッチーだろう。
つまり、これは彼がその覆われた髪と髭を剃り落すまでの物語でもある。"本当のこと"というのはいつも奥の奥に潜んでいるのだ。さて、確かに、この作品における細部へのこだわりは実にウェス的であり、今作で望月が試みたのは山本周五郎とウェス・アンダーソンの折衷なのかもしれない。つまり、この『ちいさこえべえ』という作品はあらゆる意味での"孤児"に向けたアイラブユーなのである。