社説:米・キューバ 歴史的和解は着実に

毎日新聞 2015年04月14日 02時30分

 雪解けの温かさを確かに感じる会談だった。オバマ米大統領はキューバの体制変更は求めないと明言し、同国のカストロ国家評議会議長はオバマ大統領は正直な人だと称賛した。両国が1961年に断交してから初の首脳会談である。それだけでも歴史的だが、いわば未来志向で不一致や意見の相違を乗り越える方針を確認したことも高く評価したい。

 両国の国交回復に当たっての焦点は、キューバに対する米国のテロ支援国家指定の扱いだ。オバマ大統領はこれについて「数日以内」に決断すると述べており、解除は既定方針とみられる。キューバの指定が外れればテロ支援国家は中東のイラン、シリア、スーダンだけになる。

 59年の革命で反米国家になったキューバには62年、ソ連が核ミサイルを搬入し、これに米ケネディ政権が反発して世界は核戦争の瀬戸際まで行った。このキューバ危機は米国にとってトラウマともいえる事件であり、特に保守層にはキューバの体制変更や民主化を求める声が強い。

 だが、オバマ大統領はキューバの民主主義や人権への懸念はあってもブッシュ政権のような「レジーム・チェンジ(政権転覆)」ではなく対話を重視する姿勢を示し、前政権との違いを浮き彫りにした。カストロ議長も米国の過去の政策を批判しつつオバマ政権は評価した。未来志向の交渉姿勢には好感が持てる。

 無論、和解の背景には個々の台所事情があろう。中南米の「反米左翼ブロック」の思想的支柱だったキューバも経済困窮から対米関係改善を考えるしかなくなったこと。他方、オバマ大統領は政権末期に特有な影響力低下を回避しつつ、大統領としてレガシー(政治的功績)をつくる必要があること、などだ。

 それでも「冷戦構造の解消」には意味がある。オバマ大統領はイランとの核協議にも意欲を燃やし、米国が断交した二つの国との関係改善をレガシーづくりの中心に据えているようだ。確かに、今のキューバにテロ支援の気配は見当たらない。既成概念を超え、新たな発想で国際関係の地平を開こうとするオバマ政権の外交姿勢には共感できる。

 だが、同じ民主党のクリントン大統領が、レガシーづくりとして中東和平と対北朝鮮関係改善の「二兎(にと)」を追い、どちらも達成できなかった教訓も思い出すべきだろう。

 キューバにしろイランにしろ、米国内には関係改善に反対する勢力が強い。米議会は上下両院とも野党共和党が多数を占め、キューバへのテロ支援国家指定や経済制裁の解除について同党の揺さぶりは必至だ。オバマ政権は功をあせらず、慎重に反対派を説得する必要がある。

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