歴史的な一歩である。世界の現代史でもまれなほど「近くて遠い」関係が今、やっと正常化に向かおうとしている。

 オバマ米大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長が、中米パナマで会談した。両国の首脳としては実に59年ぶり。その決断を歓迎したい。

 オバマ氏は、キューバはもはや脅威ではないとし、「冷戦は終わっているのだ」と語った。ベルリンの壁が崩れて四半世紀余り。当たり前の時代感覚を確認するまでにここまで歳月を要したことに慄然(りつぜん)とする。

 遅きに失したとはいえ、このカリブ海の美しい島国と、世界最大の自由主義国の隣人同士が自由に交流できる関係を、一日も早く実現してほしい。

 現実にはまだ、出発点についたに過ぎない。今後、関係を発展させるには、的確な判断と地道な努力が必要だ。

 最大の関門は米国内にある。与野党の国内政争が外交の足かせになって久しい。野党共和党は、対キューバの経済制裁の解除にも反対している。

 オバマ政権による米国の旧敵国との対話を野党が妨げようとする動きは、核開発をめぐるイランとの交渉も同じ構図だ。

 来年の米大統領選への活動が活発化するにつれ、政治的に力をもつユダヤ系やキューバ系有権者の支持獲得を意識した政争が激化する可能性は大きい。

 だが、米政界は、目先の政治ゲームのために米外交の長期展望を見失ってはならない。

 中南米が米国を見る目はすでに変わり始めている。相変わらず強権を振り回しがちな米国への不信感は全体に強く、中国やロシアの進出もめだつ。

 米国が西半球を「裏庭」のように扱う象徴が、小国キューバに対する意固地な敵視政策だったのである。今回の進展を反省材料とし、中南米全体との関係再構築を図るべきだ。

 キューバの側も課題は多い。何より、国際社会との交流を増やすには、民主化が必要だ。キューバ共産党の一党体制のもとで反政府活動を厳しく取り締まる政治は改めねばならない。

 世論調査によると、キューバ国民の間では、革命の英雄フィデル・カストロ氏と弟の評議会議長よりも、オバマ氏に対する評価の方が高い。自国の経済体制に満足する人は2割足らず。指導部は、政治経済を通じた国民の疲弊に向き合うべきだ。

 キューバには、これから観光先、投資先としての潜在力があり、親日の国でもある。その未来を支えるために、日本もできる限り協力の道を探りたい。