コラム:TPPで米国が払う自由貿易への代償
Charles R. Morris
[10日 ロイター] - 自由貿易は米国政府の合言葉だ。オバマ政権が環太平洋連携協定(TPP)妥結に向け、政府に貿易交渉権限を委ねる「ファストトラック」と呼ばれる貿易促進権限(TPA)の取得に意欲を示すのは、政府の伝統の一部でもある。しかし、一連の証拠が示すところによると、発展途上の低所得国に通商上の完全な最恵国待遇を認めれば、往々にして米国のコスト負担になる。
米国は、オーストラリア、チリ、日本、シンガポール、マレーシアを含めた太平洋を取り巻く11カ国と長期にわたる交渉を続けている。数年間にわたる議論を経て、交渉当事国はようやく合意に近づいたようにもみえる。
米議会でエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)に代表される民主党左派と、ウォルター・ジョーンズ下院議員(ノースカロライナ州)のような草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を得た共和党議員が反TPPで異例の協力に踏み込んだのは、TPPをめぐるこうした情勢が理由のひとつとなっている。
一方で同じ茶会の支持を得た共和党議員の中でも政策通であるポール・ライアン下院議員(ウィスコンシン州)や保守派のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州)は、主流派のエコノミストと同様にTPPの成立を支持している。
エコノミストたちは自由貿易がもたらす大きな利益に関して、古典派経済学の基本原則である比較優位説を引き合いに出す。もし貿易相手国・地域が互いに最も得意な分野に集中すれば、最終的に双方が豊かになると主張するのだ。
米国は19世紀、その理論が誤りであることを証明した。欧州向けに鉄や綿花を輸出する一方で、「未発達な」自国の産業を保護するために高い関税を設けた。1890年代までに米国はほとんどの先進産業分野において英国を凌駕した。米国にとってそれが容易に達成できる目標であったのは、当時の英国が純粋な自由貿易の実現を頑なに目指していたためだ。
最新の研究は、相互に恩恵を及ぼす貿易およびオフショアリング(外国への業務移管・業務委託)の相手国と、そうではない相手国を分けて考える一助になる。貿易もしくはオフショアリングの相手国が先進国だった場合、米国の賃金は上昇する傾向にある。しかし、途上国が相手だった場合、とりわけ熟練度が低い労働者や中程度の労働者の賃金は低下する。 続く...
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